The symbol of courage - 048

9. 本当の友達

――Harry――



 ハナ・ミズマチという女の子はハリーが魔法界で初めて出来た友達だった。出会ったのはロンが1番最初だったけれど、友達になったのはハナが初めてだとハリーはずっと思っていた。

 けれどハナには不思議なところがたくさんあった。ハリーと同じく両親を亡くしている彼女は、マグル生まれなのに、後見人が魔法使い――しかもダンブルドアだし、やけに魔法界に詳しい。ハリーなんか、亡くなった両親は共に魔法使いと魔女なのにマグルの親戚に預けられていたし、魔法界のことも何も知らなかったというのに。

 何故ダンブルドアが後見人なのかについては、1年経ってようやく理由が分かった。ハナがヴォルデモートに狙われているからだ。クィレルの話では「ご主人様の力をより強力にするために用意されたものだからさ」と言うことらしいが、ハリーには何故ハナがヴォルデモートを強力に出来るのか分からなかった。

 それにハナはスネイプではなく、クィレルが本当の黒幕だと初めから知っていた。なのにずっとハリー達に黙っていたのだ。もしかしたら、ニコラス・フラメルの件だってハナは知っていて黙っていたのかもしれないとハリーは思った。「ダンブルドアについて調べたら何か分かるかもしれない」とヒントをくれたのはハナだったからだ。

 どうして教えてくれなかったのだろうとハリーは何度も思った。この分なら狙われていることもハナはきっと知っていたはずだ。でなければ、ダンブルドアはハナに色んなことを教えるわけがないからだ。

 クィレルはダンブルドアがハナに口止めしていたと話していたけれど、それが本当ならばハナはずっと1人で怯えていたんじゃないだろうかとハリーはふと思った。ハナは、誰にも助けてなんて言わなかった。それがどれだけ孤独だったかと思うと、ハリーはこの1年真実を告げなかったハナを責める気には到底なれなかった。

「ハリー、こんにちは」

 ハリーが目覚めたのは、あれから3日も経ってからだった。ダンブルドアと色んな話をして、賢者の石のことやフラメル夫妻のこと、クィレルが自分に触れられなかったのは母親の愛が死してなお、ハリーを守る力になったからだということが分かった。

 他にも父親がスネイプの犬猿の仲だったという話や、スネイプの命を救った話、みぞの鏡から賢者の石を取り出せた仕組みなども話した。けれど、ダンブルドアは何故ハリーがヴォルデモートに殺されかけたのかや何故ハナがヴォルデモートをより強力にするのかは教えてくれなかった。

「さあ、もう質問は終り。そろそろこのお菓子に取りかかってはどうかね。あっ! バーティー・ボッツの百味ビーンズがある! わしゃ若い時、不幸にもゲロの味に当たってのう。それ以来あまり好まんようになってしもうたのじゃ……でもこのおいしそうなタフィーなら大丈夫だと思わんか」

 ハリーはもっと話を聞きたかったが、ダンブルドアは話はもう終わったとばかりに話をお菓子のことに持っていくと、茶色のビーンを口に放り込み――途端にむせかえってしまった。ダンブルドアが食べた味は、耳くそ味だったらしい。

 「なんと、耳くそだ!」とダンブルドアが叫ぶと、今まで静かだった左隣のベッドから「ふふ」 と笑い声が漏れてきた。ハナの声だった。

 どうやらダンブルドアの発言がツボに入ったらしいハナはくっくっと声を漏らして笑い続けていた。そんな彼女の声になんだか色々考え込んでいたのがいい意味でバカらしく思えて、ハリーも笑った。そして自然と、

 ――ハナはハナだ。僕の大事な友達なことには変わりない。それに今は話せないだけで、いつかきっと、ハナは僕に話してくれるはずだ。

 そう思えたのだ。何故ならハナは真実を教えてくれなかったこと以外はいつでもハリーの味方をしてくれたからだ。周りがどんなにハリーに冷たくしようとハナだけは優しくしてくれたし、今回も身を呈してハリーを守ろうとしてくれた。ハリーは、そんなハナの優しさを信じようと思ったのだ。

 でも、笑いすぎたハリーとハナがマダム・ポンフリーに叱られて、直接対面する時間が延びてしまったのは、ここだけの話だ。