The symbol of courage - 047

9. 本当の友達



 医務室は、私もハリーも面会謝絶となっているらしく静かなものだった。ベッドの脇のテーブルに置かれたお菓子達は、面会謝絶なのでマダム・ポンフリーが毎回医務室の入口で受け取っていたらしい。フレッドとジョージはハリーに便座をプレゼントしようとして没収されたと聞いて、私は思わず笑ってしまった。

 ダンブルドアによると、ハリーは私の右隣のベッドに寝ているそうだが目立った外傷もなく、近いうちに目覚めるだろうと話していた。むしろ怪我の具合でいくとハリーより私の方がひどかったそうで、マダム・ポンフリーが寝ている間にハナハッカを傷口に塗り込み懸命に治療をしてくれたらしい。

 マダム・ポンフリーは「こんなに小さな女の子を切り裂くなんて!」とそれはもうお冠で、一時は私の治療のためにダンブルドアでさえ閉め出したという。その彼女のお陰で、私の身体には目立った外傷は無くなっていたが、まだ痛むところがあるから、彼女は私を医務室から出そうとはしないだろう。

 賢者の石は壊してしまったこともダンブルドアは話してくれた。600年以上も生きたフラメル夫妻はその長い生涯に幕を閉じることになってしまうが、2人は既に納得しているそうだ。それに賢者の石から出来る延命させる薬――命の水――の蓄えもあるので、今すぐということではないので大丈夫だとダンブルドアは話した。

「それからそう――君の手紙の件について話をせねばならんの、ハナ」

 地下で起こった出来事や私が寝ていた2日間の出来事についてたっぷり話をしたあと、ダンブルドアはそう切り出した。私は自分で書いたくせに一連の出来事のせいですっかり忘れてしまっていたのだけれど、一角獣ユニコーンを襲っている夢を見たことをダンブルドアに相談していたのだった。

「先生、私、一角獣ユニコーンの血を啜っている夢を見たんです。確か、試験が始まる1週間ほど前のことです」

 「まるで私がヴォルデモートかクィレルになったかのようだった」と話すとダンブルドアは大丈夫だという顔をしなかった。難しそうな顔で考え込み、「フーム」と唸っている。

「もしかすると君とヴォルデモートに召喚魔法の影響で不思議な繋がりが出来ているかもしれぬ」

 たっぷり考え込んだあと、ダンブルドアは言った。

「繋がり、ですか?」
「ハナ、君はヴォルデモートの心の中に入り込んだのじゃ。開心術を知っているかね?」
「開心術――ですか?」
「心を覗き見る魔法じゃ。君は無意識のうちにヴォルデモートの心を覗き見たのじゃ」

 そういえば、ダンブルドアにも心を読まれているのではないかと不思議に思う出来事がいくつかあった。心を読む魔法がないか調べてみようと思ったこともあったけれど、他のことばかりしていて調べないままだったように思う。

 でも、開心術という魔法があるのなら、話は簡単だ。ダンブルドアに初めて会った時、彼はきっと私に開心術を使ったはずだ。ホグワーツの校長として、私が本当に嘘をついていないのか、見抜かなくてはならないからだ。そして、心を覗き見たからこそ、彼はあの時、私の話をすんなり信じたのだ。

 でも、覗き見たのは全てではないのかもしれない。そうでなければ、ダンブルドアはシリウスがピーターを秘密の守人にすることも、ピーターが裏切ることも、ジェームズとリリーが殺されることも分かったはずだからだ。きっと、そこまで深くは覗かなかったのだろう。

「先生、逆にヴォルデモートが私の心に入り込むことも可能ですか?」

 ダンブルドアに心を覗かれるよりも心配なのはそっちだった。私が訊ねると、ダンブルドアは深刻な顔で静かに頷いた。

「今はまだ気付いておらぬだろうが、いずれ気付く日が来るじゃろう。ハナ、君はその日の為に備えねばならぬ」
「ダンブルドア先生、私は何をしたらいいですか?」
「開心術に対抗出来る唯一の魔法として閉心術というものがある。心を閉ざす魔法じゃ」

 ダンブルドアは、それから閉心術にいて私に基本的なことを教えてくれた。

 閉心術とは、古代または中世から存在している古い魔法で、他者から自身の感情や内面に侵入されるのを防ぐ魔法だそうだ。閉心術の基本は、開心術で自身をの思考や感情を支配されないように心を空にし、そして、自身の感情をコントロールすることがとても重要らしい。

「自分の感情をコントロールする……」

 まるで、禅の世界だ、と私は思った。
 座禅をするときに無心になるのと、閉心術は似ているような気がした。静かな心で無心になり、他者を自分から追い出すのだ。とはいえ、私は座禅をしたことがないけれど。

「来学期、閉心術を学べるよう時間を作ろう」
「先生が教えてくださるんですか?」
「如何にも。本来なら、スネイプ先生が優れた閉心術士なのじゃが――わしにも心得がある。ハナ、この夏の間はどうしたら無心になれるのか、考えるのじゃ」

 「はい、ダンブルドア先生」と答えたところで、話は中断せざるを得なくなった。マダム・ポンフリーが乱入してきたからだ。

「さあ、もう充分でしょう! 薬を塗る時間です!」

 私はダンブルドアにすら容赦のない彼女に苦笑いしつつも、献身的に看病してくれる彼女に「ありがとうございます」と心からお礼を述べたのだった。