The symbol of courage - 043

8. 勇気の象徴

――Harry――



 誰もが寝静まった夜――寮を抜け出すのを阻止しようとしてきたネビルに全身金縛りの魔法を掛け、途中出くわしたピーブズを追払い、ハリー達は3人で4階の奥の廊下に辿り着いた。扉は既に少し開いていて、スネイプが仕掛け扉を突破したことがうかがえた。

 ハリー達はフラッフィーや悪魔の罠、鍵がたくさん飛んでいる部屋も突破し、大きなチェス盤のある部屋へとやってきた。ここでは自分達も駒の1つになり、実際に魔法使いのチェスをして勝たなければ先に進めない仕組みになっているらしかった。

 3人の中でチェスが1番強いのはロンだった。ロンの指示で、ハリーがビショップ、ハーマイオニーがルークの位置に立ち、ロンはナイトの位置についた。ハリー達は黒で相手が白だ。

 試合が始まると白駒は、黒駒に容赦はしなかった。白のクイーンはロンと対になっている黒のナイトを取る時に容赦なく床に叩き付け、チェス盤の外へ引き摺り出したし、その後も負傷した黒駒が壁際に累々と積み上がった。ハリーとハーマイオニーが取られそうになっていることに、間一髪でロンが気付く場面も2回ほどあった。

「ちょっと待てよ――うーん……」

 詰めが近付いてくると、ロンが唸った。白のクイーンがのっぺらぼうの顔をロンに向けている。

「やっぱり……」

 ロンが静かに言った。

「これしか手はない……僕が取られるしか」
「だめ!」

 ハリーとハーマイオニーは同時に叫んだ。

「これがチェスなんだ!」

 ロンはきっぱりと言った。

「犠牲を払わなくちゃ! 僕が1駒前進する。そうするとクイーンが僕を取る。ハリー、それで君が動けるようになるから、キングにチェックメイトをかけるんだ!」
「でも……」
「スネイプを食い止めたいんだろう。違うのかい?」
「ロン……」
「急がないと、スネイプがもう石を手に入れて、ハナを連れ去ってしまっているかもしれないぞ!」

 ロンが前に出ると、白のクイーンが飛び上がった。ロンの頭を石の腕で殴りつけ、ハーマイオニーが悲鳴を上げた。ロンのところへ駆け寄りたかったが、ハリーもハーマイオニーも何とか自分の持ち場に踏みとどまった。床に倒れ込んだロンは、白のクイーンによって、隅へと引き摺られていく。どうやらロンは気絶しているようだった。

 震えながら、ハリーは3つ左に進んだ。
 すると、白のキングは王冠を脱ぎ、ハリーの足下に投げて出して負けを認めた。ハリー達が勝ったのだ。チェスの駒達が左右に分かれ、前方の扉への道を空けてお辞儀をした。

 ハリーはもう1度だけロンを振り返ると、ハーマイオニーと共に次の通路へと進んだ。次の部屋はトロールだったが、スネイプが倒したあとで、気絶して横たわっていた。ハロウィーンの日に戦ったよりも大きなトロールで、ハリーもハーマイオニーもこのトロールと戦うことにならずに済んだことに心底ホッとした。

 トロールの部屋の次はただテーブルの上に形の違う7つの瓶が1列に並んでいるだけの部屋だった。これはきっとスネイプに違いない。ハリーはすぐに思った。

 この部屋では何をすべきなのかと訝りながら扉の敷居をまたぐと、2人が通ってきたばかりの入口でたちまち火が燃え上がった。ただの火ではない。紫の炎だ。同時に前方のドアの入口にも黒い炎が上がっている。ハリーとハーマイオニーはこの部屋に閉じ込められたのだ。

「見て!」

 ハーマイオニーが瓶の隣に置いてある巻き紙に気付いた。書かれてあることを読んでみると、どうやらこの7つの瓶のうちのどれかが黒い炎の中を通れるようにしてくれ、また別のどれかが紫の炎を通れるようにしてくれるらしい。

 ここではハーマイオニーが活躍した。ハーマイオニーは巻き紙に書いてある内容を読み解き、見事にどの瓶になんの薬が入っているのか解読することに成功したのだ。1番小さな瓶が黒い炎を、大きな丸い瓶が紫の炎を通してくれるらしい。

 ハリーが小さな瓶の薬を飲み、ハーマイオニーが大きな丸い瓶の薬を飲むことになった。そうすることが1番だとハリーには分かっていた。何故ならハリーは1度目は幸運だった。だったら、もしかしたら2度目も幸運かもしれない。

 そうして、ハーマイオニーが薬を飲み、無事に紫の炎を通り抜けロンの元へと向かったのを見届けると、ハリーは自分も薬を飲んだ。途端に、身体中が冷たい冷水を浴びたかのように冷たくなった。冷たい氷が身体中に流れているようにも思えた。

「行くぞ」

 ハリーは意を決して黒い炎に向かって歩き出した。炎がメラメラとハリーの体をなめたが、熱くはなかった。しばらくの間、黒い炎しか見えなかったが、とうとう炎の向こう側に出た。そこは最後の部屋だった。

 最後の部屋には案の定誰かがそこにいた。しかし――それはスネイプではなかった。ヴォルデモートでさえもなかった。ハリーは叫んだ。

「あなたが!」

 そこにいたのはクィレルと、そして、

「ハナ!」

 縄で縛られ、気を失ったまま倒れているハナだった。