The symbol of courage - 042
8. 勇気の象徴
――Harry――
あのハッフルパフとの試合後に禁じられた森でスネイプとクィレルの話を聞いてからというもの、ハリーはクィレルに優しくし、何故だかスネイプに狙われているらしいハナの安否を頻繁に確認するようになった。
ハナはハーマイオニーに負けず劣らず物知りなので、今までハリーはその身に起こったこと全てをハナになんでも話した。けれど、これ以上巻き込むのは危険だと、ハリーはその日以降、賢者の石の件については彼女には話さないことに決めた。賢者の石のことに詳しいとますますスネイプがハナを狙うかもしれないと思ったからだ。
これにはロンとハーマイオニーも賛成だったが、ハナに話さないというのはとても難しいことだった。4階の奥の廊下でフラッフィーがまだ破られていないか確認していた時にハナと会った時なんか、誤魔化すのが大変だったし、ハグリッドがドラゴンを育て始めた時も隠すのが大変だった。
ハナは狙われているから負担を掛けられないとドラゴンの件も秘密にしていたけれど、ロンは手が腫れ上がるし、こんなことならドラゴンだけでもハナに手伝って貰えばよかったとハリーは心底後悔した。ロンもハーマイオニーも同じことを思っていたが、結局3人はハナを頼らなかった。
そんなことをしているうちに、ドラゴンの件で色々あって150点も減点され、ハリーは人気者から一転、嫌われ者になった。そんな中でもハナだけは普通に接してくれていたが、試験の勉強が忙しくなった上に、森での罰則でもいろいろあって、ハナに会いに行けなくなったことをハリーは申し訳なく思っていた。
ハリーの代わりにハナのそばにいたのは双子のフレッドとジョージだった。2人は試験期間が始まる1週間くらい前から頻繁にハナに構うようになって、悪戯をしたり、時には一緒にマクゴナガル先生に注意を受けたりしていた。
「ミスター・フレッド、ミスター・ジョージ・ウィーズリー! ミス・ミズマチに付き纏うのはおやめなさい! しかも、下級生を悪戯に誘うなんて何事です! グリフィンドール、5点――」
「違うんです、マクゴナガル先生。私がお願いしたんです」
「ミス・ミズマチ。庇わなくてもいいのですよ」
「いいえ、先生。実は、彼らが悪戯で使っている魔法に興味があって、どんな魔法が使われているのか教えて貰う約束をしていたんです。けれど、先生、決して悪戯には使わないと約束します。彼らも魔法を教えてくれるだけなんです」
その場面に出くわした時、ハリーはハナがデマカセを話していると分かっていたが、フレッドとジョージは「実はそうなんです」という顔を装っていた。更にはマクゴナガル先生が渋々納得して去っていくと、3人でハイタッチしている姿まで目撃した。
「あの言い訳ちょっと変かもってヒヤヒヤしたわ」
「いいや。最高だぜ、ハナ」
「持つべきものは優等生の友達だな」
それからあっという間に試験期間に突入し、ハリーはハナのことを気にしている余裕がなくなっていた。勉強が忙しい上に、森での罰則が行われた日以降、額の傷痕がズキズキと痛んで悪夢に
試験が終わると解放感からハリーも思わず歓声を上げたが、他の人達のようには喜べなかった。今までこんなことはなかったのに、もう何日も傷が疼いたままだった。ロンもハーマイオニーもこの気持ちを分かってはくれなかった。もし、ハナだったら、心配してくれただろうに。「ああ、ハリー、大丈夫? 心配だわ」と。
その上、ハリーは何か大事なことを忘れている気がしてならなかった。ハーマイオニーにそれを説明すると、「それって、試験のせいよ」と言ったが、絶対に違うということは分かっていた。そして、
「すぐ、ハグリッドに会いにいかなくちゃ」
突然、ハリーは気付いた。
ドラゴンが欲しくてたまらなかったハグリッドの前に、ドラゴンの卵をポケットに入れた人物がたまたま現れるはずがないのだということに。魔法界の法律で禁止されているのに、ドラゴンの卵を持ってうろついている人がいるわけがないのだ。
急いでハグリッドの小屋へ行くと、彼はうっかり見ず知らずの人物にフラッフィーの弱点を話してしまっていたことを、これまたうっかりハリー達に話した。
「お前達に話しちゃいけなかったんだ!」
ハグリッドは慌ててそう言ったが、もう聞いてしまったあとだ。ハリー達はこのことをダンブルドアに伝えようとしたが、その前にマクゴナガル先生に門前払いされてしまった。しかも、ダンブルドアは今日ロンドンに旅立ったという。
今夜だ、とハリーは思った。スネイプが仕掛け扉を破るのは、ダンブルドアが留守にしている今夜しかない、と。そこで、手分けしてハーマイオニーがスネイプを、ハリーとロンが4階の廊下を見張ることにしたのだけれど、ハリーとロンはマクゴナガル先生に見つかり、作戦は失敗に終わってしまった。
「ハリー、ごめん!」
ハーマイオニーの方も失敗だった。談話室で待っていると、オロオロとした様子で彼女が戻ってきた。
「スネイプが出てきて、何してるって聞かれたの。フリットウィック先生を待ってるって言ったのよ。そしたらスネイプがフリットウィック先生を呼びに行ったの。だから私、ずっと捕まっちゃってて、今やっと戻ってこれたの。スネイプがどこに行ったか分からないわ」
そして、ハーマイオニーはとても重大なことをハリーに告げた。
「それにハナの姿が、ど、どこにも見当たらないの。私、心配になって戻ってくる最中探したけれど、いないの」
ハーマイオニーの顔は蒼白だった。もしかしたらスネイプが連れ去った後かもしれない、とハリーは思った。次の瞬間ハリーは、考えるより先に、
「じゃあ、もう僕が行くしかない。そうだろう?」
と口にしていた。