The symbol of courage - 038

7. クィレルとスネイプ



 無言呪文がなかなか成功しないまま、気付けばホグワーツは復活祭イースター休暇に入ろうとしていた。クリスマスの時にリーマスが言っていた通り、家に帰る余裕がないくらい宿題が出て、私は必要の部屋通いを一時中断せざるを得なかった。

 そんなリーマスとは約束通り定期的に手紙のやりとりをしている。ついこの間も「復活祭イースター休暇は宿題が山ほど出たわ」と書いたら、リーマスからの返事は「言った通りだったろう?」だった。なんだかリーマスが手紙の向こうで笑っているような気がした。

 一方、あの5分で終了したグリフィンドールとハッフルパフの試合以降、何故だかハリー達は頻繁に私に会いに来るようになった。「やあ、ハナ」「ハナ、お元気?」「ハナ、何か変なことはなかった?」と会う度に聞いてくるので、私はむしろ彼らに何があったのか知りたかった。

 それにハリー達は、頻繁に会いに来るわりには私に賢者の石のことやニコラス・フラメル、フラッフィーなどに関する話を一切しなくなった。更には、4階の奥の廊下の辺りで3人を見掛けた時、

「ハリー! ロンとハーマイオニーも偶然ね!」
「ああ、ハナ。僕達、えーっと」
「何でもないのよ、ハナ」
「僕達、行かなくちゃ。じゃあね、ハナ」

 と、声を掛けたら慌ててどこかに行ってしまったことがあった。ここまであからさまだと何か隠しているのは明白だったけれど、彼らが何を隠しているのかまではさっぱり分からなかった。

 それに、今までは寮が違っても色んなことを話してくれたのに、どうして急にそんなことになったのかも分からなかった。嫌われるようなことをしてしまったのだろうかとも考えたけれど、全く心当たりがなかった。

「一体どうしたのかしら……」

 頻繁に会いに来るわりには、どうやら避けられているようだと思い始めたのは、ハリー達がハグリッドの小屋によく行くようになってからだった。きっとハグリッドがドラゴンの卵を手に入れたので、様子を見に通っているのだろうと思うのだが、私が話を聞こうとすると、3人は口を揃えて「なんでもない」と答えるのだ。

 3人は私に関わって欲しくないようにも見えた。関われなくても、クィレルとヴォルデモートと対峙する時には必ず手助けをしようと決心していたが、こうなった原因がさっぱり分からず私は相当落ち込んだ。会いに来てくれてはいるので嫌われてはいないと思いたかったが、もしや嫌われたのではと良くないことを考える時間も増えてしまった。

「ハナ、大変!」

 そんな日々が続いていたある日のことだった。
 朝食を食べに同室の子と大広間へ向かう途中、寮の得点を表示している大きな砂時計の前を通りかかると、リサが驚いたように声を上げた。彼女は口をあんぐりと開けて砂時計を見つめている。

「グリフィンドールが150点も減点されてるわ!」

 このことに気付いたのは私達だけではなかった。ほとんどの生徒が砂時計の前で足を止め、流石に何かの間違いではないかと囁き合っている。けれど、これが間違いではないことを私は知っていた。これは――

「ハリー達さ」

 私が砂時計を見つめていると、隣にやってきたフレッドが囁くように言った。

「夜中に抜け出したらしいな」

 フレッドとは反対側にやってきたジョージもこちらに顔を近付けてヒソヒソ声で言う。

「俺達も抜け出すことはあるし見つかって点数を引かれたこともあるけど、ここまでひどいことにはならなかった」
「ハナ、何があったのか知らないか?」
「いいえ、私、何も知らないの……でも、あの、決してふざけていたわけではないと思うの。何か理由があったのよ。そう思うでしょ?」

 私がそう言うと、2人はお互いに苦い表情のまま顔を見合わせた。それからまた私に顔を近付けると言う。

「ハナ、そう思うのは君だけさ」
「誰も彼もが君みたいに優しくはないんだ」

 2人の言う通り、そう思っているのは私だけのようだった。次第にハリー達が点数を減らしたと噂が広まると、グリフィンドールに限らず、レイブンクローもハッフルパフの生徒もみんなハリーを軽蔑したように見るようになり、私は信じられない気持ちでいっぱいだった。レイブンクローもハッフルパフも自分達が寮杯を獲得しようとは微塵も思っていないのだ。寮杯を7年連続でスリザリンが獲得することが悔しいなら、自分達で頑張ろうとしたらいいのに。

 私はハリー達に普通に接することにしていたが、減点を受けたハリーとハーマイオニーは相当参っているように見えた。だからだろうか――減点騒ぎ以降、ハリー達が私の元へ頻繁に来ることはすっかりなくなってしまったのだった。