The symbol of courage - 034

7. クィレルとスネイプ



 思いがけず始まったリーマスと2人で過ごすクリスマス休暇は、とても心地がいいものだった。私達は失われた16年もの月日を埋めるために、たくさんの話をした。リーマスは主に私がいなくなってからの16年間を、逆に私は完全にこの世界に召喚されてからの数ヶ月を話した。

 ジェームズが抜いたテレビの配線コードを未だに元に戻せないのだという話や、ジェームズが当時私にリリーとの馴れ初めを聞いてもらおうと嬉々として手紙に綴っていたことなど、ジェームズの話題はよく出てきたけれど、シリウスの話題はどちらともなく避けていた。私は話そうかどうしようか何度も考えたけれど、結局秘密を貫くことに決めた。

 話の中で、彼らが私に残してくれた魔法道具の名前を聞くことが出来た。あれは星屑製造機スターダスト・メーカーという名前らしいらしいのだけれど、リーマスは「名前を書くのを忘れてしまったみたいだな」と苦笑いしていた。

 リーマスは私の見た目が16年前から全く変わっていないので、よく懐かしそうな、それでいて悲しそうな顔をした。私の見た目が子どもの姿から変わっていないことがヴォルデモートの召喚魔法の影響によるものだと彼も知っているので、懐かしいけど複雑なのだろうと思う。

 私はリーマスに動物もどきアニメーガスになろうとしていることを話さなかった。言えば彼は反対すると思ったのだ。それになりたい訳をリーマスに詳しく話せないというのも、話さなかった理由の1つだ。脱獄してくるシリウスの手助けをするため、なんて言えるはずがない。

 リーマスは休暇の間一緒に暮らしてくれるというので、2階の空き部屋を使って貰うことにした。彼は長い間さまざまな仕事を転々としているらしく、今は魔法道具店で働いているそうだが、今は店もクリスマス休暇なのだと話していた。

 けれどリーマスは一度仕事に就いても狼人間であることがバレそうになると辞めるという生活を繰り返しているそうで、この仕事もあまり長くは続かないかもしれないと語っていた。マグルの店に勤めたこともあったが、上手くいかなかった、と彼は悲しそうしていた。

 クリスマス前には一緒にダイアゴン横丁へ行き、友達へのプレゼント選びを付き合って貰った。私がハリーと同級生で友達になったのだということは既にリーマスに話していたので、ハリー宛のプレゼントは彼と一緒に選ぶことにした。

「ハリーが見たらがっかりするだろうな」

 ハリーへのプレゼントを選び終えると、リーマスは面白そうな声音で言った。この時ばかりはリーマスも悪戯をする子どものような表情をしていた。

「ええ、でも、とっても気に入ると思うわ」

 私達がハリーに選んだのは古めかしい巾着袋だった。中心に大きく「H」と書かれてあるだけの巾着袋で、ハリーは何でこんなものをプレゼントするんだろうときっと不思議に思うことだろう。けれど、この巾着袋にはあとでリーマスが拡張魔法を掛けることになっている。そこにお菓子を山ほど入れて贈るのだ。

「しかし、ハリーがマグルの親戚にそれほど良く思われていないとは――」
「不思議なことが大嫌いな人達らしいの。でも、そんな彼らもこんなボロの巾着袋には興味を示さないでしょうから、ハリーはもし十分な食べ物を貰えなかったとしても飢えることはないと思うわ」

 ハリー以外の子達へのプレゼントももちろん購入した。ハーマイオニーには彼女が好きそうな本を選んだし、ロンには巾着袋こそないもののお菓子を買った。フレッドとジョージにはそれぞれ悪戯グッズを選んだ。

 ダイアゴン横丁だけではなく、マグルの店にも行った。同室の子達にお揃いのアクセサリーを選んで、ダンブルドアも校長室の合言葉がいつもお菓子だったので、マグルのお菓子を選んだ。

 そして、いつもお世話になっているセドリックにはガラスペンを贈ることにした。このガラスペンは意匠が美しいのに羽根ペンより多くインクを含ませることが出来て何より書きやすいのだ。セドリックはたくさん勉強しているからきっと気にいるだろう。ガラスペンはちゃっかり自分用にも購入した。

 リーマスにもプレゼントを用意した。いつか使って欲しいとネクタイを選ぼうとしたら、「それは恋人にしか贈らないものだ」とリーマスに全力で止められた。訳が分からないという表情をする私にリーマスは「いいかい? 軽々しくネクタイを贈っちゃいけない。イギリスでは、これは貴方に首ったけという意味があるんだ」と説明しなければならなくなった。

 結局リーマスとはお互いにお菓子を贈り合うことになったのだけれど、私は最後まで不満だった。やっと再会できた友人にもっといいものをプレゼントしたかったのだ。

「来年はもっといいものを選ぶわ!」

 鼻息荒く私がそう言うと、リーマスは苦笑いしつつも楽しそうに笑っていた。