The symbol of courage - 033
6. クィディッチとクリスマスプレゼント
「懐かしいな。何も変わらない」
メアリルボーンのバルカム通り27番地は、何ひとつ変わることなくそこにあった。キングズ・クロス駅から電車に乗り家まで帰ってくると、リーマスは感慨深そうに目を細めて、私の家を見つめていた。
本当は姿くらましという瞬間移動的な魔法があるらしくて、キングズ・クロス駅からここまであっという間に帰ってくることも出来たのだけれど、ゆっくり帰りたいという私の我儘をリーマスが聞き入れてくれたのだ。
帰る間際にはもちろんセドリックにこれでもかというほど謝った。彼は急に大泣きし始めた私を心配してくれて、そんな彼に大事な知り合いなのだと言ってリーマスを紹介した。
外でしばらく家を眺めて懐かしんだあと、ようやく私達は中に入った。リビングに入ると暖炉の上の飾り棚に置かれた4枚の写真がそれぞれ、私とリーマスに手を振ってくれている。
この写真は漏れ鍋でジェームズのお父さんであるフリーモントさんが撮ってくれたものだった。4人で撮ったものと、それぞれ2ショットで撮ったものが3枚置かれている。私はこの写真をホグワーツには持っていかなかった。人前でこの写真を見るわけにはいかなかったからだ。
「5年生の終わりの夏休みにこれをここに置いたんだ」
懐かしむような声でリーマスが言った。
「ジェームズがマグル式の解錠術を覚えたと、ある日突然私達の元へやってきてね。私達は君の家に侵入する計画を立てた。なにせ、魔法なしで両親の目を掻い潜ってここまで来なければならなかったからね」
「透明マントは16歳になった私達3人が入るには小さくてね」とリーマスはおかしそうに笑っていた。魔法なしで両親の目を掻い潜ってマグルの街へ繰り出すというのは、当時の彼らからしたらちょっとした冒険だったに違いない。「怒られなかった?」と訊ねると、「そりゃあ、怒られたさ」とリーマスは笑っていた。
「何度怒られても私達は辞めなかった。ジェームズは君が――あの日あんな別れ方をした直後の君がこの家に戻ってきた時、何もなかったら寂しがるだろうといつも心配していた」
「ああ、服だけはリリーが選んだ。私達には生憎センスがなかったんだ」と苦笑い気味で教えてくれた。私は胸が熱くなるのを抑えながら、リーマスの話を静かに聞いていた。
「あの日、あんなことが起こって、私は君に顔向けが出来ないと思った」
私とジェームズが2人で写った写真を見つめながらリーマスが言った。
「再び私の前に現れた君に何と説明したらいいのか、何年考えても答えが出なかった。そんな時、ダンブルドア先生から手紙を貰ったんだ。君が戻ってきた、と。新入生としてホグワーツに通っている、と。それで、長期休暇の間君がどうしてもここに1人になるから、その間は私に君のことを任せたい、と書いてあった」
ダンブルドアは今後ヴォルデモートの危険がどんどん増していくことを危惧していたのだろう。けれど、私は未成年で魔法を使えないし、ダンブルドア自身はホグワーツでの仕事がある。そんな時、大人であり、尚且つ私の事情を知っているリーマスがそばにいてくれたら助かると思ったのかもしれない。
ダンブルドアが話していた「早めのクリスマスプレゼント」とはリーマスのことだったのだ。ホグワーツの中で再会させるのは難しいので、こうして私を帰宅させる手段を選んだのだろう。あとで、お礼の手紙を書かなければ。
「ダンブルドア先生にお礼をしないといけないわね」
「ああ、本当に。でなければ、私は君が戻って来たことを知らないまま過ごすことになったかもしれない。それにジェームズとシリウスの事を謝ることも――」
「リーマス、今日はもう遅いから夕食にしましょう」
私はリーマスの言葉を切ってそう言った。これ以上話を続けていたらきっと私は何の考えもなしに「シリウスは無実だ!」とリーマスに洗いざらい話してしまっていただろうと思ったからだ。
本当なら話したほうがいいのかもしれない。けれど、私は迷っていた。何故なら2年後、リーマスがホグワーツに教師としてやってくるからだ。そしてその年にシリウスが脱獄する。その時彼がシリウスの無罪を知っていたら? リーマスは何に変えてもシリウスを手助けするだろう。
それが本当にいいことなのかが、私には分からなかった。狼人間が教師をすること自体異例なことなのに、もしシリウスの無実を証明することに失敗した挙句、その狼人間が脱獄犯の手助けをしていたなんてことになったら――もし、シリウスとリーマスが早くにピーターを追い詰め、本当に殺人を犯すようなことになったら? それを私が止められなかったとしたら?
考えるだけでゾッとした。そうなれば誰も真実が分からず、リーマスまでアズカバンに投獄されてしまうかもしれない。これは、一時の感情で軽々しく話してはいけない問題なのだ。ダンブルドアも言っていた。順序を間違えなければ、間違いを正すことが出来る、と。しかし、それは暗に順序を間違えれば全て台無しになるという忠告なのだ。だから私は、
「ああ、そうだね。そうしよう」
より慎重に考えなければならない。大事な友人を守るために。彼らの失われた時間を取り戻すために。