The symbol of courage - 032
6. クィディッチとクリスマスプレゼント
ホグワーツ特急は11時ピッタリに発車した。
私とセドリックは真ん中辺りの車両にコンパートメントを取ることが出来て、2人でクリスマス休暇はどうやって過ごすのかお喋りをしたり、出された宿題の話をしたりして過ごした。
12時を少し回ったくらいには車内販売の魔女がコンパートメントを訪れて、私達はランチにかぼちゃジュースや軽食になるものを購入した。9月1日に汽車に乗った時はハリーがお菓子ばかりを大量購入していたので気付かなかったが、車内販売には軽食もあったのだ。サンドイッチがとっても美味しくてリピートしようと決意した。
ランチを食べるとお互い本を読んで過ごした。セドリックとは図書室で勉強することが多かったので、お互い無言の時間も全く嫌ではなかった。実は私もセドリックもお互いふくろうを連れていたのだけれど、どっちのふくろうもとても静かで大人しかった。
静かなコンパートメントには、扉の向こうの通路から他の生徒達が話すざわめきが微かに聞こえ、それが逆に心地良かった。その上汽車が一定間隔で揺れるので、私は本を読みながらウトウトしてしまったのだけれど、気付いたらとっくに本を読むのをやめていたセドリックがこちらを見ているところだった。
「お、起こしてくれたら良かったのに!」
慌てて居住まいを正す私にセドリックはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「気持ちよさそうに寝ていたから」
「でも、私だけ寝ているなんて、つまらなかったでしょう?」
それだけではない。こんなイケメンに寝顔を見られるなんて恥ずかしいどころの騒ぎではない。私は真っ赤になるのをなんとか耐えながらセドリックに言った。けれども彼は、
「とっても有意義な時間だったよ」
と嬉しそうに笑っただけだった。セドリックが有意義だったと言った意味が分からず首を傾げていると、彼はおかしそうに笑いながら「1年生にはまだ早いかもしれないな」と
辺りが暗くなるころ、ようやく汽車は次第に見慣れた街並みに突入した。やがてもう少しでキングズ・クロス駅に到着するというアナウンスが流れると、我先に汽車から出ようとする生徒達で通路は埋め尽くされた。
「危ないから僕達はゆっくり降りようか」
「ええ、そうしましょう。この人混みはロキもきっと嫌がるわ」
現にロキは通路が騒がしくなって来ると不機嫌そうに嘴をカチカチ鳴らしていた。ロキは繊細な男の子なのである。
「さ、そろそろ僕達も行こう」
キングズ・クロス駅に到着し、通路にいた生徒達が少なくなるとようやく私達もコンパートメントから出た。懐かしい9と4分の3番線のプラットホームは生徒達やそれを迎えに来ている家族で埋め尽くされている。
その人混みをセドリックは私が通りやすいように掻き分けながら、9番線と10番線の間の柵に向かって歩いた。セドリックの両親はいつもその近くで待っているそうで、私はずっと彼の後ろを歩いた。然りげ無く歩きやすいようにしてくれるなんて本当に紳士だ。
「ハナ」
あともう少しで柵が見えて来るというところで、誰かに声を掛けられて私は足を止めた。見れば、人混みの向こうに白髪混じりの鳶色の髪をした男性が立っている。おそらくそれほど年齢はいっていないだろうに疲れた表情をしている彼は、継ぎ接ぎだらけのローブを着ていた。
「嘘……」
私は信じられないものを見るかのように呟いた。そんな私の様子を心配したセドリックが何か話かけてきていたが、今の私には彼の声は全く聞こえなかった。
「ハナ、おかえり」
男性がぎこちなく笑ってそう言った次の瞬間、私の目からは自然と涙がボロボロと溢れた。私はこんなに泣き虫ではなかったのに、彼らと出会って、別れ、随分涙脆くなってしまった。それとも、心まで11歳になってしまったのだろうか。いや、今はそんなことどうでもいいのかもしれない。
「リーマス……!」
彼の名前を叫ぶのと同時に私は走り出した。この時ばかりは、男の子とハグするのが恥ずかしいという感情はどこかに消え去っていた。荷物を放り出す勢いでリーマスに抱き着くと、彼は
「ダンブルドアからのクリスマスプレゼントだそうだ。気に入ったかい?」
と私を抱き留めながら、まるで幼な子をあやすように私の背中を撫でた。
「リーマス、私、本当にごめんなさい。ごめんなさい。私――」
「君だけのせいじゃない。大丈夫」
彼は私が何に対して謝っているのか分かっているようだった。「大丈夫」と言うリーマスの声は僅かに震えているように思えた。そうしてリーマスは、
「会いたかった、ハナ」
そう言って私を強く抱き締め返した。