The symbol of courage - 031

6. クィディッチとクリスマスプレゼント



「それじゃ、クリスマス休暇は帰るのかい?」

 セドリックにダンブルドアとのお茶会の話をしたのは、あと1週間でクリスマス休暇になろうかと言うころだった。この日も私達は図書室のいつもの席で勉強をしていたのだけれど、自然と話題がクリスマスのことになり、私が「この間ダンブルドア先生に帰宅する許可を貰ったの」と話したのだ。

「ええ。私、ロンドンに家があって、実はホグワーツに来る前はそこで1人で暮らしていたの。もう何ヶ月も家を空けているから、休暇中は帰るつもりよ。手入れをしてあげないと家も可哀想だもの」
「でも、ダンブルドア先生はホグワーツに残るんだろう? 1人で大丈夫かい?」
「大丈夫よ。家に保護魔法が掛けてあるの」

 心配してくれているセドリックにマグル避けやスリザリン避けの魔法――スリザリン避けと聞いてセドリックは苦笑いしていた――や他にも来訪者探知機があることを話して聞かせた。セドリックは未だに心配しつつも「ダンブルドア先生が許可を出したのなら」と納得したようだった。

「なら、ホグワーツ特急は一緒にコンパートメントを取らないかい? それとももう友達と約束してるかな」
「いいえ、まだ約束してないの。嬉しいわ!」

 私がクリスマス休暇に帰ることを知らなかったのはセドリックだけではなかった。同室の子達やハリー、ロン、フレッドとジョージ、ハーマイオニーなども、後見人がダンブルドアなので、当然私が居残るものだと思っていたらしい。家に帰るのだと話したらとても驚かれた。

 その中で、家に帰る予定の同室の子達やハーマイオニーにはコンパートメントを一緒に取ろうと誘われもしたのだけれど、セドリックと約束をしたあとだったので、丁寧に断った。けれど、誰も彼もがセドリックと約束していることを聞くとニヤニヤと笑うのだ。なので私は、

「セドリックは友達です!」

 とその度に訂正する羽目になったのだった。


 *


 クリスマス休暇はあっという間にやってきた。
 初日の朝は早起きをして荷物を確認し、朝食を食べ、ホグズミード駅を11時に出発するホグワーツ特急に間に合うように10時前にはセドリックと待ち合わせをしている玄関ホールへ向かった。クリスマス休暇にはほとんどの生徒が自宅へ帰るので、玄関ホールは既にホグズミード駅へ向かう馬車待ちの列が出来ている。

「私、馬車は初めて!」

 向こうの世界でもこちらの世界でも馬車に乗るというのは初めての経験だった。日本の観光地で人力車に乗ったことはあるけれど、馬車はきっとそれとは違う乗り心地だろう。明らかにウキウキとした様子の私にセドリックは「きっと馬車を見たら驚くよ」と微笑んだ。今日もセドリックはイケメンである。

 列が前に進むにつれて、たくさんの馬車が待機しているのが見えてくると、私はその全貌にギョッとした。ホグワーツの馬車をく馬が私の知っている馬とは全く違ったからだ。

「セドリック、あれはなんていう魔法生物……?」

 その生き物は馬のようで馬ではなかった。見た目はまるで爬虫類のようで、まったく肉がなく、黒い皮が骨にぴったり張りついて、骨の一本一本が見える。頭はドラゴンのようだし、瞳のない目は白濁し、じっとどこかを見つめていた。背中の隆起した部分から生えている翼は巨大なコウモリのそれに見えた。

 幻の生物とその生息地の教科書にこんな魔法生物は載っていただろうか。記憶を総動員したが、何分私はあの教科書を1回しか読んだことがなかった。流石に1度で教科書の内容を把握できるほど私は頭が良くないのである。

「もしかして、セストラルが見えるのかい?」

 びっくりしたようにセドリックが言った。

「セストラル……? あれが、セストラルなの?」
「死を見た者にしか見えないとされている魔法生物さ。正確には死を見て、尚且つそれを受け入れた者、かな。君は――そうか――見えない子が多いからつい。僕にも見えないんだ。大多数の生徒にはあれが馬なしの馬車に見えてる。ハナ、辛かったら目を瞑っていても、大丈夫だよ」

 セドリックは何故私がほとんどの生徒に見えないセストラルが見えているのかすぐに察したようだった。気を使ってくれる彼に私は静かに首を振ると「ありがとう。大丈夫よ」と答えた。

「私の杖の芯材がセストラルの尾毛なの。オリバンダーは “死を受け入れることが出来る魔法使いのみがこの杖の真の所有者となり得る” と仰っていたから、目を背けたらきっと杖に見放されるわ」

 それでも、セストラルの見た目は不吉で怖くもあった。そんな私の様子に気付いたのだろう、セドリックは持っていたトランクを持ち替えると、

「なら、こうしていよう」

 私の手を握って優しく微笑んだ。