Blank Days - 011

人気者の仲間

――Peter――



 夏休みの最後の日にレイブンクローの幽霊の家に遊びに行ってからというもの、ジェームズ、シリウス、リーマスの3人は僕のいないところでコソコソとすることが増えた。これまで、3人は僕がその場にいない時に会話したことでも、自ら進んでその話を聞かせてくれたり、僕が「何をしてたの?」と聞くとすぐに答えてくれていたのに、突然気まずそうにして「なんでもないよ、ピーター」と答えることが圧倒的に増えたのだ。

 けれども、5年生が始まってすぐにそうなったわけではなかった。9月1日に再会した時にはいつも通りだったし、僕がいない間の出来事を彼らはなんでも話してくれたし、それから2週間くらいは何もおかしなところはなかったように思う。彼らは僕に隠し事なんてしなかったし、僕はまだ・・彼らの仲間だった。でも、ある日、3人がこれまでにないくらい落ち込んだ日を境に彼らは変わってしまったのだ。

 原因は分からない。いつもなら何が起こったのか話してくれるはずなのに、この時ばかりは僕が何を聞いても、何も教えてくれなかったからだ。彼らはただ談話室の隅で深刻そうな顔をして俯いているばかりで、僕以外の他のグリフィンドール生達が事情を聞いてもやっぱりなにも答えなかった。

 例外はリリー・エバンズだけだった。
 仲間だったはずの僕はその他大勢と同じ扱いだったのに、エバンズだけが何か事情を知っている素振りでジェームズやシリウス、リーマスを励ましていたのだ。普段はジェームズのことを傲慢だと言って何かと目くじらを立てている彼女が、その日ばかりは優しくて、ジェームズ達もそれを受け入れている。いつもならその輪の中には僕がいたのに、僕だけは仲間外れで、輪の外でぽつんと立っているしかなかった。

 僕の心の中がいろんな感情でぐちゃぐちゃになっていくのが分かった。そりゃ始めは強い人と友達になれて僕の7年間は安泰だ、ラッキーくらいなものだった。彼らといれば怖いものなしだし、守って貰えるから機嫌を損ねないように気を付けながら後ろをついて回っていれば良かった。けど、それだけで4年間彼らと一緒にいたわけではなかった。僕は彼らと一緒にいるのが好きだった。仲間でいたかった。

 それなのに、なぜだか僕は仲間になりきれない。僕だけいつものろまで勉強は出来ないし、置いてけぼりだ。もしこのまま仲間外れになってひとりぼっちになったらどうしよう。そうしたら、誰が僕を守ってくれるんだろう――ああ、こんな僕だから仲間になりきれないのか。僕も勉強が出来てもっと勇気があれば、彼らの隣に堂々と立てただろうか。仲間はずれにされずに済んだだろうか。僕がもし、真のグリフィンドール生だったのなら。

「ピーター、昨日はごめんよ」

 3人が落ち込んだ次の日、朝になるとジェームズは申し訳なさそうに言った。

「君に事情を話したいんだけど、僕達、訳あって話せないんだ。誰にも話さないってダンブルドアと約束したんだ。でも、話せる時がきたら君にもきっと話すって約束するよ」

 この時僕は人気者の仲間・・・・・・からはずれることが怖くて、全然気にしてないよとばかりに返事をした。3人はそんな僕の言葉を鵜呑みにしていたけれど、実のところ、僕はひどい疎外感を味わっていた。ある日突然爪弾きにあったような、そんな気分だった。実際に僕は爪弾きにあって、この日を境に3人は僕のいないところでコソコソするようになった。

 彼らの言う「話せる時」は、待てど暮らせどやって来ないまま、秋学期が終わり、春学期が終わり、夏学期も終わり、5年生の1年間は過ぎ去った。復活祭イースター休暇のあと、夏学期の始めには進路相談が行われて、僕は闇祓いオーラーを希望した。ジェームズやシリウスが希望したからだ。マクゴナガル先生は難しい顔をして「もし貴方が本当になりたいのなら、O.W.L試験はよい成績を取る必要があります」と言った。結果はギリギリだったが、僕はなんとか人気者の仲間の地位にしがみつくことが出来た。

 そして、5年生が終わり、夏休みがやってきた。僕は毎年8月の満月のあと、1週間程度ジェームズの家に泊まるので、今年もその予定だった。けれど、いざ訪れた8月の満月のあと、ジェームズの家に行くといろんなことが変わっていた。僕の知らないところで、いろんなことが。

 まず、シリウスが家出をしていた。なんでもとある理由でシリウスがとうとう家を出たらしい。ジェームズやリーマスはその理由について知っているようだったけれど、彼らは家出の原因について僕には詳しく話してくれなかった。聞いてもレギュラスがどうの、というだけだった。

 それから、6年生になったら閉心術の訓練を始めると言い出した。理由を聞いても、またレギュラスがどうのというだけだった。何か家出の原因と関係があって訓練を始めると言い出したようだけれど、僕にはさっぱり分からなかった。

 最後に3人共が進路変更を希望していた。5年生の夏学期の始めにマクゴナガル先生に伝えていた進路を辞めると言い出したのだ。ジェームズとシリウスは闇祓いオーラーにはならないし、狼人間で特定の進路を決めるのが難しいリーマスも確固たる進路先を決めたようだった。

「ど、どこにするの?」

 ジェームズの家に泊まりにいったその日、僕は戸惑いながら訊ねた。僕が選べるような進路だろうか。難しくはないだろうか。もしかして、今度こそ置いていかれて爪弾きに合うのだろうか――。そして、

「ピーター、僕達、不死鳥の騎士団に入る」

 新たな希望先に僕は恐怖を感じざるを得なかった。