The ghost of Ravenclaw - 249

27. 生涯の友



 ペティグリューが生きていると報道されて以降、ホグワーツでは至るところでその話が聞かれるようになった。しかしながら、あの晩一体何があったのか詳しく知る人は、叫びの屋敷ですべてを見た私達とセドリック、それにダンブルドア先生以外、誰もいなかった。誰も彼もが、とんでもない間違いを犯す前にシリウスが逃げ果せたことに魔法省は感謝すべきだと言いつつも、一体どうやってシリウスがホグワーツから逃げ出せたのかを話し合った。私はその話のいくつかを耳にしたけれど、どれも真相に迫るものはなかった。

 あれから、ホグワーツを去ったリーマスは、シリウスと連絡を取り、一足先にメアリルボーンで暮らし始めた。もちろん、バックビークも一緒で私の家の裏庭に早速小屋を建てて、中をあれこれ改造し、今はそこで飼っているという。バックビークをどうするかはダンブルドア先生とも話したようだけれど、処刑から逃げ出してすぐだったので、ハグリッドにはまだ知らせず、このまま私の家で預かることになった。

 シリウスは現在、私の家と魔法省を何日かに1度往復し、魔法省の事情聴取に応じているらしい。日刊予言者新聞によると、マグルの首相にも、その危険性を知らせるため、早くもペティグリューが生きていることが伝えられたそうだ。しかし、あれから何日か経ち、事情聴取も始まったというのに、マグルの世界ではシリウスが無罪であるという報道は一切なされていないという。これ以上失態を重ねたくない魔法省が判断に慎重になり、未だ正式な判決が出ていないためだ。シリウスが堂々と出歩ける日はまだもう少し先のようだ。

 とはいえ、事情聴取の方は順調だった。真実薬を飲まされることもなく、シリウスは動物もどきアニメーガスだということを上手く隠して事実を話しているようだ。動物もどきアニメーガスであることを隠すことはダンブルドア先生の指示らしく、私は、ヴォルデモートが復活したあとのことを見越しているのだろうとなんとなく思った。動物もどきアニメーガスであることを知られていなければ、それは大きな武器となるからだ。なので、実は私もダンブルドア先生と相談し、未だに登録はしていない。

 私やスネイプ先生のところにも何度か魔法省から闇祓いオーラーの人が訪れて、事情を聞かれた。魔法省の人が私の元にやってきたのはカメラの件で、私はいつどこで購入したのかを仔細に話した。その時にはダンブルドア先生も同席してくれて、先生がお茶の準備もすべてしてくれたので、私も真実薬を飲まされるようなことはなかった。

 そして、ハリーと一緒に暮らす件だが、これがなんとダンブルドア先生からNGが出た。ハリーはダーズリー家で暮らすべきだとダンブルドア先生が主張したのだ。シリウスは、家と魔法省の往復の日々にうんざりし始めたころにそれを言われてしまったので、大いに機嫌を損ねたらしい。リーマスの手紙によると、シリウスは相当ダンブルドア先生に文句を言ったらしいが、ダンブルドア先生は頑として受け入れなかったという。先生にはなにか理由があるんだろうとリーマスは手紙に書いていたが、私もそうだろうと思う。ハリーのためにダーズリー家にいなければならない理由があるのだ。とはいえ、私達全員がこの結果にひどく落ち込んで、特にハリーは夏休みが近付くにつれみるみる元気がなくなっていったので、私はもう少しダンブルドア先生と交渉してみるとハリーを励まし、6月の後半はダンブルドア先生と手紙のやりとりに費やした。

 それからそう、シリウスの報道と同じくらい、リーマスが教師を辞めたこともホグワーツ生を騒がせた。リーマスが私の保護者代わりだと知っている子達が代わる代わる私の元にやってきては「素晴らしい先生だったのに」「どうして辞めたの?」「どうにかならない?」とリーマスが辞めたことを残念がった。リーマスが狼人間だからだとは言えるはずもなく、私は「家庭の事情で仕方なかったの」と答えたが、親友がこんなにも子ども達に慕われていたことを内心誇りに思った。

 学期最後の日には、試験結果が発表された。私は学年2位の成績で、D.A.D.Aはもちろん、魔法薬学も満点でパスした。残りの科目は100点満点中200点とか315点とか100点以上の数字が並び、特に呪文学と変身術は学年トップの成績だった。私達の試験が返された日には、N.E.W.LとO.W.Lの試験結果も出たのだが、N.E.W.Lではパーシーが一番の成績で、O.W.Lではセドリックが一番だったと耳にした。私はあの――以来、セドリックとは顔を合わせていなかったのだけれど、どうにか勇気を振り絞って学年末パーティーの前に「おめでとう」を言った。セドリックは綻ぶように微笑んでお礼を言って、私は彼が微笑んだ途端心臓が爆発するかと思った。

 そんな風にセドリックの前ではどこかドギマギした感じだったけれど、それでもあの――の直後よりかはまともに話せるようになった。話をしている中で、セドリックは私が逆転時計タイムターナーの件を誰にも言わなかったことに対してお礼を言い、目標を達成するためには全科目必要なのだと教えてくれた。しかし、その目標がなんなのかや、どうしてあんな――までしたのにまだ気持ちを言わないのかは一言も話さなかった。そもそも、こんな風に考えるなんて、自惚れも甚だしいし、告白を心待ちにしているようにしか思えなくて、私は考えるのを一旦放棄した。そして、この――の一件は、なんとハーマイオニーに知られてしまい、嬉々として話を聞き出そうとするので大変だった。

 夏休みの宿題は、不思議とどの科目からもあまり出されなかった。けれども私だけはみんなと違ってまだ習ったことのない魔法薬学の理論のレポートやら、6年生以上で習うような難しい魔法薬を3つ作る宿題が課された。ハリーもロンもハーマイオニーもそのことを知ると私に対する嫌がらせだと憤慨したが、脱狼薬を教えて貰えるように頼んでいるからだと話すと驚きつつも納得してくれた。そんな3人の反応を見ているとスネイプ先生が足し引きすると0だったとはいえ、私に1点加点したと知ったらどれほど驚くだろうかと思ったが、スネイプ先生の名誉のために黙っていることにした。

 試験が返された日の夜には学年末パーティーがあり、グリフィンドールが3年連続で寮杯を獲得した。レイブンクローは残念ながら今年は3位で、リサとパドマがスリザリンに負けたことを大いに悔しがっていたが、私たちはいつもより豪華な食事を楽しみ、笑い合った。

 しかし、夏学期はパーティーで終わりではなかった。
 パーティーのあと寮の寝室に戻ると、私のベッドに100枚近いメモ紙と共にスイーツがたくさん積み上げられていたのだ。見てみるとどれも屋敷しもべ妖精ハウス・エルフからだ――「お嬢様、キャンディお召し上がりになりました」「こんなに美味しいキャンディ初めてです」「こんなに名誉ある贈り物をありがとうございました」「包み紙はわたくしの勲章でございます」――メモにはどれもキャンディの感想とお礼が書いてあって、私はにっこりした。彼らは「学期が終わるまでに、キャンディを舐めた感想を聞かせてね」という私の話を覚えていてくれたのだ。

 私は貰ったメモを1つ残らずポシェットに入れて、お気に入りのインクを取り出すと、「貴方達が協力してくれたおかげで私は親友を助けられたわ。ありがとう」とお礼を綴り、小さな協力者達に手紙を送った。貰ったスイーツはマンディとリサとパドマにも分けてパーティーの続きをし、それでも食べきれない分はルーナに分けた。ルーナはエクレアを両手に抱えて「ありがとう!」と嬉しそうに笑った。


 *


 翌日、ホグワーツ生全員が馬車に乗ってホグズミード駅に向かい、ホグワーツ特急に乗り込んだ。私は今回、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人と同じコンパートメントだ。ハーマイオニーは私が3人と同じコンパートメントになりたがった理由を察してニヤニヤしていたが、私はそんな彼女の脇腹を肘で小突いた(「ハーマイオニー、彼は監督生で専用のコンパートメントがあるのよ」)。

「私、今朝、朝食の前にマクゴナガル先生にお目にかかったの。マグル学をやめることにしたわ」

 11時になり、汽車が定刻どおり発車すると、ハーマイオニーが唐突に言った。ハーマイオニーに何も聞かされていなかったのだろう。ロンが驚いたように目を丸くして声を上げた。

「だって、君、100点満点の試験に320点でパスしたじゃないか!」
「そうよ」

 ハーマイオニーが溜息混じりに答えた。

「でも、また来年、今年みたいになるのには耐えられない。あの逆転時計タイムターナー、あれ、私、気が狂いそうだった。だから返したわ。マグル学と占い学を落とせば、また普通の時間割になるの」

 やはり、逆転時計タイムターナーは返すことにしたらしい。私はハーマイオニーならそうするだろうと思っていたので、何も言わなかったが、ロンは納得いかないのか膨れっ面だ。

「君が僕達にもそのことを言わなかったなんて、未だに信じられないよ。僕達、君の友達じゃないか」
「誰にも言わないって約束したの」
「ロン、そういう決まりだったのよ。それに、ハーマイオニーが約束をきちんと守っていたからあれをずっと手元に持っていられて、シリウスを助けられたんだから」

 私は宥めるようにそう言うと向かいの席に座るハリーを見た。ハリーは会話に入らず、ずっと窓の外から遠のいていくホグワーツ城を見つめて元気がなさそうだ。私達と暮らす話がすぐには実現しないと分かって以降、ハリーはずっとこんな調子だった。無理もない。ダーズリー家に帰らなければならないのだから。

「ねえ、ハリー、元気を出して!」

 ハーマイオニーが気遣わしげな声で言った。

「僕、大丈夫だよ」

 ハリーが慌てて答えた。

「休暇のことを考えてただけさ」
「ウン、僕もそのことを考えてた」

 ロンが言った。

「ハリー、絶対に僕達のところに来て、泊まってよ。僕、パパとママに話して準備して、それから話電フェリトンする。話電フェリトンの使い方がもう分かったから――」
「ロン、電話テレフォンよ。まったく、貴方こそ来年マグル学を取るべきだわ……」

 ハーマイオニーが呆れながら訂正した。ロンはウィーズリーおじさんが「話電フェリトン」と言ってしまうので、間違えて覚えてしまったのだろう。しかし、ロンはハーマイオニーの言葉を知らんふりして続けた。

「今年の夏はクィディッチのワールドカップだぜ! どうだい、ハリー? 泊りにおいでよ。一緒に見にいこう! パパ、大抵役所からチケットが手に入るんだ」
「ウン……ダーズリー家じゃ、喜んで僕を追い出すよ……特にマージおばさんのことがあったあとだし……」
「それにハリー、今年の夏はそれほど嫌な夏にはならないと思うわ」

 初めてのクィディッチ・ワールドカップに少しずつ元気を取り戻した様子のハリーに私は言った。

「私、実はダンブルドア先生と手紙のやり取りをして、素晴らしい計画を立てたの。だからダーズリー家でしばらく待っていてね。不当な扱いをされそうになったら、凶悪殺人鬼と狼人間と幽霊が貴方の家族だって脅してやったらいいわ――」

 ペティグリューを逃してしまったことやヴォルデモートの復活に関する予言など、心配なことはたくさんあったが、きっとこの夏は、今までになくハリーを楽しませることが出来るに違いない。私がニッコリ微笑むとハリーもようやく気持ちが明るくなってきたのか、私達は爆発スナップをして遊んだり、車内販売の魔女からランチを買い込んでみんなで食べたりして過ごした。途中、見回り中だったのか、セドリックがコンパートメントの前を通ってヒラヒラ手を振ると、ハーマイオニーのニヤニヤ笑いが止まらなくなる事件が発生したが、夕方になっても特に騒ぎは起こらなかった。

 しかし、夕方を過ぎると驚く出来事が起こった――不意に窓の外を見てみると、小さな灰色のふくろうが窓の外でひょこひょこ動いていたのである。ふくろうはその体に似つかわしくない大き過ぎる手紙を運んでいる。どうやら、私達の誰かに手紙を運んできたらしい。けれども、あまりに小さいので、走る汽車気流に煽られて吹き飛ばされそうになっている。

「大変だ」

 ハリーはそう言うと席を立ち、大急ぎで窓を開けて腕を伸ばし、あやうく転がりかけたふくろうを捕まえると、汽車の中に入れたのだった。