The symbol of courage - 028
6. クィディッチとクリスマスプレゼント
ホグワーツの冬は日本よりも早くにやってきた。
11月にもなるととても寒くて、レイブンクローの談話室から見える山々は灰色に凍りついていたし、湖も冷たい鋼のように張りつめていた。私はローブの下にたくさん重ね着をして靴下だって2枚履きをして過ごす羽目になって、同室の子達に笑われることになったが、気にしていられなかった。寒いのだ。
ハロウィーンの一件以来、ハリーとロン、それにハーマイオニーはとても親しくなって仲の良い友達となった。3人はあの日私が泣いていたことにびっくりしたようで、本当はどこか怪我をしたんじゃないかと心配して翌日話し掛けてくれたのだけれど、「無事だったと分かってホッとしたの」と言うと彼らも納得してくれたようだった。
トロールは私が初めて対峙した恐怖そのものだった。ヴォルデモートはあれ以上に恐ろしいのだと思うと今でも怖くなるが、11歳の子ども達が泣かずにやり遂げたのに、私が泣いていては話にならないと、あの日以来私は魔法の練習に力を入れるようになった。フリットウィック先生に頼んで空いている教室を借り、セドリックが練習に付き合ってくれることもあった。
セドリックとは図書室での勉強会も密かに続いていた。彼はクィディッチの練習もあるのに私の勉強や魔法の練習にも付き合ってくれるので、本当に頭が上がらない。前に「私、貴方に足を向けて眠れないわ」と言うと、セドリックは笑いながら「僕は好きでやってるからいいんだよ」と言っていた。紳士か。
「そういえば、明日はグリフィンドールとスリザリンの試合だね」
さて、11月になるといよいよ待ちに待ったクィディッチシーズンの幕開けだ。初戦のグリフィンドール対スリザリンの試合が明日に控えたこの日、図書室のいつもの席でセドリックと勉強をしていると、彼が思い出したようにそう言った。因みにオリバーが秘密兵器として極秘扱いにしていたハリーの情報は今や極秘ではなく、セドリックも知っていた。
「ええ、ハリーのデビュー戦だから見に行かなくちゃ!」
「君は本当にポッターが好きだね」
そう言って、セドリックは呆れたように笑った。セドリックとは同室の子達の次に長く一緒に過ごしているので、彼は私がハリーのことをまるで姉か母親のように可愛がっているのを知っているのだ。彼がこうして
「ええ、とっても大好き! でも、貴方のこともとっても大好きよ、セドリック」
これは下心も何もない純粋な気持ちだった。でも、男の子に対してこんなに素直に大好きだと言えるのは、英語で喋っているからだろうか。ハグは流石に恥ずかしいけど、日本語より英語の方が素直に感情表現が出来る気がするのだ。けれど、セドリックは私のその言葉をまるっと無視して、
「ハナ、えっと、明日、一緒にクィディッチの試合を見に行かないかい?」
と真剣な表情でそう言うのだった。
*
翌日は晴れ渡った絶好のクィディッチ日和となった。
ハリーは食事が喉を通らないくらい緊張しているようで、ハーマイオニーとロンがそんな彼を心配そうに見ていた。私も何か声をかけようかと思ったが、なんと声を掛けても彼のプレッシャーになりそうな気がして、結局声が掛けられなかった。
10時半には玄関ホールでセドリックと待ち合わせをしてクィディッチ競技場に向かった。昨日2つ返事でセドリックの誘いを受けたのだけれど、寮に帰ってから同室の子達にセドリックと一緒に行くと伝えたらあのクスクス笑いで
それは何も同室の子達だけではなかった。玄関ホールでの待ち合わせからクィディッチ競技場へ向かう最中に至るまで、あらゆる生徒の視線が私とセドリックに突き刺さった。セドリックがあまりに完璧な芸術級イケメンなので、私が隣にいると不釣り合いなのかもしれない。私、変じゃないよね? ね?
「ハナ、ソワソワしてどうしたんだい?」
「みんながこっちを見るから、私が変なんじゃないかと思って。ほら、貴方はとっても素敵なのに私はちんちくりんの1年生でしょう?」
「君がちんちくりんって言うなら、ほとんどの女子が怒り出すだろうな」
セドリックは面白そうにクスクスと笑っていた。そして改めて真面目な顔をすると、2、3度咳払いをして、
「君はとっても素敵な女の子だよ」
と言った。まさか、セドリックがそんなお世辞を言ってくれるとは思わず、私は年甲斐もなく舞い上がりそうになった。だって、あの芸術級イケメンが私のことを褒めてくれたのだ。嬉しくないわけがない。
私はクォーターとはいえやっぱりアジア系の顔立ちなので、周りのヨーロッパ系の顔立ちの子達がとっても魅力的に見えてしまうのだけど、卑屈になってしまうのは良くないよね、と思い直した。なんたって、セドリックが褒めてくれたのだし!
「私、その言葉家宝にするわ」
胸に手を当ててしみじみとそう言うと、何故かセドリックは残念そうな顔をしていた。