The symbol of courage - 027

5. ハロウィーンとトロール

――Harry――



 慌ただしかったハロウィーンが終わろうとしていた。ハリーはベッドに潜り込むと長かった1日を振り返りながらベッドの天蓋の屋根を見つめた。午前中はハーマイオニーを泣かせてしまい、夜はトロールと戦って、なんと、最後にはあのハナがポロポロ泣いていた。マルフォイを吹き飛ばしたことがある彼女が、だ。

 ハリーはハナのことを何でも出来る完璧な女の子だと思っていた。勉強だって出来るし、魔法だってきっとハーマイオニーより知っているかもしれない。そんな彼女が泣くだなんてハリーは思いもよらなかったのだ。ハリーもハーマイオニー――ロンはぼーっとしていた――もギョッとして、何か慰めの言葉でも掛けようとしたが、その前に先生達が来てしまって何も声を掛けられず終いだった。

「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべきあなた方がどうしてここにいるんですか?」

 マクゴナガル先生は冷静ながらも怒りに満ちていた。ハリーがなんて言い訳しようか悩んで俯くと――ロンはまだ杖を振り上げたままぼーっとした――なんと、ハーマイオニーが真っ赤な嘘をついてハリー達を庇ってくれたのだ。

「マクゴナガル先生。聞いてください――3人とも私を探しに来たんです。私がトロールを探しに来たんです。私……私1人でやっつけられると思いました――あの、本で読んでトロールについてはいろんなことを知ってたので」

 ハーマイオニーが素直にトイレにずっといたことをマクゴナガル先生に言わなかったのは、泣いてたことを知られたくなかったからだろうとハリーは思った。それに、何故泣いているのか問われたら、ハーマイオニーはハリーやロンとの間に起こった出来事を話さなければならなくなる。ハーマイオニーは傷付けたにも関わらず、ハリーとロンのことも庇ってくれたのだ。

「もし3人が見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。ハナはあらゆる魔法で私を守ってくれて、そして、ハリーは杖をトロールの鼻に刺し込んでくれ、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。3人とも誰かを呼びにいく時間がなかったんです。3人が来てくれた時は、私、もう殺される寸前で……」

 その後マクゴナガル先生はハーマイオニーから5点減点すると、ハリーとロン、それからハナに5点ずつ加点してくれた。ハナはこの時にはもうだいぶ落ち着いていたが目も鼻先も真っ赤になっていて、泣いていることは明白だった。

「ミス・ミズマチ、貴方は怪我はありませんか?」
「はい、マクゴナガル先生」
「貴方の寮でも生徒達がパーティーの続きをしているでしょう。ダンブルドア先生にはご報告しておきます。怪我がないのなら、帰ってよろしい」

 ハリーはハナとそこで別れたが、ハリーは1つ疑問に思うことがあった。ハーマイオニーとハナがいる女子トイレに鍵をかけてしまったことに気付いて急いで戻ってトイレに駆け込んだ時だ。

「ジェームズ……!」

 確かにハナがそう言ったように聞こえたのだ。けれど、そのあとはしっかり「ハリー!」と叫んでいるのが聞こえたので、もしかしたら聞き間違えかもしれない、とハリーは考えた。どう考えてもおかしいのだ。ハナが自分の父親の名前を呼ぶだなんて。

 ハリーはロンにも訊ねてみたが、ロンはそんなことさっぱり覚えていなかったし、ハーマイオニーも恐怖に縮み上がっていたので誰が何を叫んでいたかなんて聞いていなかったのだ。

 そういえば、汽車の中でも不思議に思ったことがあった、と思いながらハリーは寝返りを打った。あれは、マルフォイがハリーの両親を侮辱した時だ。ハナがカンカンに怒って「二度と――彼らを――侮辱――しないで!」と言ったのだ。ハナが自分の両親と知り合いなわけがないのに、どうしてだか、ハナの言う「彼ら」が自分の両親のことではないかとハリーは一瞬思ってしまったのだ。そんなわけがないのに。


 *


 その日の夜、ハリーは不思議な夢を見た。
 赤ん坊のハリーを抱いた父親が、ハリーに向かってこう言うのだ。

「ハリー、君にも早くハナと会わせたいよ。僕達の家族になる女の子だよ」

 しかしハリーは翌朝目覚めると、そのことをすっかり忘れているのだった。