The symbol of courage - 026

5. ハロウィーンとトロール



 練習ではいつも成功していて、マルフォイを吹き飛ばすことにも成功した魔法は、トロール相手には全く効かなかった。震えていたせいでちゃんと魔法がかけられなかったのかもしれない。兎に角、トロールは「何か当たったかなぁ?」とでも言うように首を捻らせただけだった。

 何かもっと強い攻撃魔法を使わなければならない。失神魔法は使えるだろうか。私の杖は呪いと相性がいいから呪いはどうだろうか。トロールに効くだろうか。それよりも、ハーマイオニーをここから出してあげることが先決かもしれない。ハーマイオニーに怪我なんてさせられない。私はトイレの入口に視線を投げた。が、

 バン! ガチャ!

 と勢い良く扉が閉まって、私は一瞬頭が真っ白になった。しかも、聞き間違いでなければ、鍵もかけられてしまった。

 トロールは私の攻撃魔法よりも扉の閉まる音の方が不快だったらしい。閉められた扉を見遣り、それから、ゆっくりとこちらを振り返ると、私を見て手に持っていた棍棒を振り上げた。

「プロテゴ!」

 私が叫ぶようにそう言うのと、ハーマイオニーのつんざくような悲鳴が聞こえるのはほぼ同時だった。防御魔法でなんとか跳ね返した棍棒はちょうど洗面台を薙ぎ倒したところだった。

「ハーマイオニー! 私が引きつけるから、廊下まで走って! ハーマイオニー!」

 ハーマイオニーに声を掛けたが、彼女は恐怖から縮み上がって壁にピッタリ張り付いてしまっていた。私はそんな彼女の前に立ち塞がるともう一度攻撃魔法を唱えようと杖を構えた。次の瞬間、

「ジェームズ……!」

 トイレの扉が開いて、中に入ってきた人物に私は思わず叫んだ。しかし、そのあとに続けてロンが入ってきたのを見て、私は自分が今なんて口走ったのか気付いたが、それを訂正する時間はなかった。

「こっちに引きつけろ!」
「やーい、ウスノロ!」

 ハリーとロンがトロールに蛇口やパイプを投げつけて、私達を襲おうとしていたトロールはくるりと後ろを振り向くと、今度はハリーとロンを襲おうと棍棒を振り上げ近付きはじめた。

「ハーマイオニー! 動いて! 早く!」

 なんとかその隙にハーマイオニーを壁から引き剥がそうとしたが、出来なかった。その間にもトロールはハリーとロンを今にも襲おうとしていたが、トロールがロンに向かって棍棒を振り上げた瞬間、ハリーが後ろからトロールに飛びついた。私は今度こそ間違えることなく、

「ハリー!」

 と叫んだ。
 トロールはハリーが飛びついてきても何とも思っていないようだったが、偶然にもハリーの持っていた杖が鼻に突き刺さると痛みに唸り声を上げて暴れ始めた。棍棒を振り回すせいで、今にもハリーは振り落とされそうだったが、ハリーはしっかりとトロールにしがみついたままだった。

 私はハリーを助けようと杖を構えたものの、どの呪文を使ったらいいのか分からずにいた。攻撃魔法ではハリーも攻撃してしまうかもしれないからだ。

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 私が躊躇している間に杖を取り出してそう唱えたのはロンだった。次の瞬間、トロールの手にあった棍棒は突然空中に飛び出し、高く高く上がったかと思うと、ゆっくり一回転してからトロールの頭目掛けて落ちてきた。トロールはフラフラしたかと思うと、ドサっとその場に倒れ込み、その衝撃でトイレがガタガタと揺れた。

「これ……死んだの?」

 誰もが恐怖でブルブル震えている中で、ようやく正気に戻ったハーマイオニーが口を開いた。

「いや、ノックアウトされただけだと思う」

 ハリーも立ち上がってトロールの鼻から自分の杖を引き抜きながら言った。そんな2人とは打って変わってロンは杖を振り上げたままの状態でぼーっとしていた。自分が何をやったのかまだよく分かっていないようだった。そして、私はといえば、

「良かった……」

 ハリーもロンもハーマイオニーも無事だったことに安心して、気付けばポロポロと涙を流していた。