The symbol of courage - 024

5. ハロウィーンとトロール



 9月が終わり、10月になった。
 当初、物珍しさから私やハリーを見ようとしていた生徒達は、もうすっかり見慣れたのか私達をジロジロと見なくなり、随分と落ち着いてきていた。私は一度、噂が一気に広まったことに対して、ダンブルドアに謝罪の手紙を書いたのだけれど、彼はこの状況を少し面白がっているように思えた。

 一方でハッフルパフの王子様と名高いセドリックは、私の癒しとして遺憾なくその才能を発揮していた。彼とはあれからもよく図書室の奥の席で会うのだけれど、彼は会うたびに私を気遣ってくれた。

「何か困ったことがあったらいつでも言って」
「ありがとう、セドリック」
「この席を秘密にしてくれているお礼だよ」

 彼は紳士の鑑だと思う。私が本当に11歳だったらその優しさに勘違いして好きになっていただろうな、と思う。彼はそれくらい素敵な人だった。

 ハリーはいうと、あれからマクゴナガル先生にニンバス2000をプレゼントされて、週に3回のクィディッチの練習に励んでいる。一度ロンの誘いもあって練習を見に行こうとしたのだけれど、ハリーはグリフィンドールの秘密兵器らしく、キャプテンのオリバー・ウッドに追い出されてしまった。ああ、ハリー……。

 クィディッチの練習風景を見られなかったことは残念だったけれど、ハリーにはハグリッドを紹介してもらうことが出来た。ハグリッドは「おめぇさんが、ダンブルドア先生が後見人になったちゅーハナか!」と快く私を迎え入れてくれた。ハグリッドはやっぱり優しい人だった。

 そんなハリーだが、ロンを含めてハーマイオニーとの仲があまり良くなかった。彼らは三頭犬事件以来口を聞いていないらしく、ハリーとロンはそれでも良さそうだったが、ハーマイオニーはグリフィンドールで孤立しているように見えた。彼女は図書室で会うと「私もレイブンクローに入ったら良かったのかしら。組分け帽子は私をグリフィンドールかレイブンクローで迷ったのよ」と良く話すようになった。

 たくさんの友達と交流を深める一方で、休日の必要の部屋通いも続けていた。日曜日は朝早くから夕方まで必要の部屋にこもって姿を見せないので、フレッドとジョージが度々私に「君、日曜日はどこに行ってるんだ?」と聞くようになった。その問いに私は「城内にずっといたわ」と答えるのだけど、彼らは全く納得がいっていない顔をして首を捻っていた。前は私に印がどうのと言ったり、フレッドとジョージは私のことをどこで見ているのだろうと不思議に思うことが度々あった。

 そんなこんなで、あっという間に10月は過ぎ去り、気付けばハロウィーンの日を迎えていた。この日の朝は、パンプキンパイを焼く美味しそうな匂いで目が覚めた。きっと夜はかぼちゃ料理でいっぱいになるのだろうと同室の子達も朝からソワソワとしていた。

 ハロウィーンといえば、日本では仮装をして楽しむ日だったので魔法界ではどんな風に過ごすのだろうと考える一方で、私はハーマイオニーの心配をしていた。この日、ハーマイオニーがロンと言い争って泣いてしまうことを知っていたからだ。

「ねえ、ハナ。貴方、ハーマイオニーと仲が良かったわよね?」

 午前の授業が終わり、ハーマイオニーは大丈夫だろうかと思いながら同室の子達と大広間に向かっていると、グリフィンドールの女の子達に声を掛けられて私は立ち止まった。私に声を掛けたのは同じ1年生のラベンダー・ブラウンとパドマの双子の姉妹のパーバティ・パチルだった。

「ごめんなさい。3人共、先に行ってて」

 きっと、ハーマイオニーのことだろうと、同室の子達にそう言うと私はラベンダーとパーパティの元に歩み寄った。2人は言いづらそうにお互い顔を見合わせたのち、ポツリポツリと私に呪文学での出来事を話し始めた。それは映画でも見て本でも読んだことのある出来事だった。

「それで、ロンが “悪夢みたいなやつ” ってハーマイオニーのことを悪く言っていたのね?」
「そうなの。彼女はいつも気丈に振る舞っているけど、流石に泣いてしまって。それからトイレにこもって出てこないのよ」
「声を掛けたけど、1人にしてって言うだけでどうしたらいいか分からなくて。それで、貴方ならハーマイオニーも話してくれるんじゃないかと思って。ハーマイオニーと一番仲がいいのは貴方だもの」

 ちょうどその時、そばをハリーとロンが通りかかった。ラベンダーとパーバティの話が聞こえていたのだろう。2人は気まずそうな顔をしてすぐに私達から視線を逸らした。そんな彼らに対して、私はどう対応するか悩んでいた。

 この件はハリーやロンだけが悪いだなんて私は思っていない。もちろん、規則を破ろうとする方が悪いのだし、それを注意したハーマイオニーは正しいのだけれど、彼女ももっと優しく諭せばよかったと少し思うところはあったからだ。かと言って、友達がいないだとか、悪夢みたいなやつだとか言っていいことにはならない。それに、ハーマイオニーの友達ならここにいる。この私だ。でも、

「ええ、私はハーマイオニーの友達だもの」

 聞こえよがしに大きな声でそう言ってしまう私も、なかなかに大人気ないのかもしれない。