The ghost of Ravenclaw - 188

21. バックビークの処刑



 ファッジ大臣と別れると、私は大広間に向かった。
 聞いたところによると控訴は午後2時から行われるらしい。大臣と危険生物処理委員会の年老いた魔法使いは、この控訴に積極的ではないようだが、マクネアだけはそうではないようで、私と大臣が話している間も早く処刑したいとばかりに大きな斧を撫でていた。私はおそらく、あのマクネアの顔をずっと忘れないだろう。それに死喰い人デス・イーターかもしれない人物の顔は覚えておいて損はない。

 大広間は、まだ試験が残っている生徒も多いというのにどこか賑やかな雰囲気だった。私と同じようにひと足先に試験が終わった生徒達は解放的な気分になっていたし、まだ試験が残っている生徒もほとんどが午後で試験が終わることを楽しみにしているようだった。ただ、何人かはカリカリしているようで、ハッフルパフのテーブルではセドリックが午後の試験に向けて教科書を読んでいたし、レイブンクローのテーブルでも、先にD.A.D.Aの試験を終えていたパドマとリサが頭を抱えながらそれぞれ教科書を広げていた。パドマは占い学でリサがマグル学だ。

「今回の試験、水晶玉なの」

 パドマがヒステリック気味に言った。

「パーバティは水晶玉の中にいろんなものが見えるって言うんだけど、私には才能がないみたい――なーんにも見えないの」
「でっち上げたらダメなの?」

 隣に座っているマンディが気遣わしげな声で訊ねた。

「ほら、先生が好きそうな内容を話せば、高得点が貰えるかもしれないでしょ」
「そうね、そうかも――もしダメならそうしてみるわ」

 私は彼女達の話に耳を傾けながら、パドマの向かいの席でマグル学の教科書に齧り付いているリサの隣に腰掛けた。彼女達は私がやってきたことに気付くと、パッとこちらに顔を向けてD.A.D.Aの試験はどうだったかと訊ねたが、二言、三言話すとパドマとリサは自分達の勉強に戻った。

「ハナ、午後はどうするの?」

 やがて、パドマとリサが図書室で勉強すると言って席を立つと、マンディが訊ねた。私と同じく既に試験が終わっているマンディは、余裕ある表情でのんびりと昼食を食べている。私はその向かいでサンドイッチをいくつか皿に盛りながら答えた。

「私? 私は、午後は予定がぎっしり詰まってるの」
「えー!? 試験はもう終わったのよね?」
「実はね、これからとーっても会いたかった人に会うの。楽しみだわ」
「会いたかった人? 女性? 男性?」
「男性よ。魔法使いなの」
「貴方、セドリック・ディゴリーとはどうなったの? 最近とってもいい感じだったのに!」
「セドもそのことは知ってるわ」

 私の言葉に訳が分からないという顔をするマンディにニッコリ微笑むと、私は手早くサンドイッチを食べ、席を立った。今日はこれからが忙しくなるのだ。2時からバックビークの裁判があるし、その前にレイブンクロー塔に戻って支度もしなければならない。それから、森に行ってシリウスと綿密に打ち合わせて、夜を待ち、その時に備えなければ――けれど、レイブンクロー塔に向かう前にまず、私は大事な用事を済ませなければならない。

「ハナ、もう食べ終わったの?」
「ええ、時間が惜しいの」
「そんなに? 貴方っていつも忙しそう」
「今日が特別忙しいの――そうだ。今夜、寮に帰るのが遅くなるけど心配しないでね。それじゃ、マンディ、またあとで」

 マンディに別れを告げると、私はレイブンクローのテーブルを離れ、すぐ隣にあるグリフィンドールのテーブルに向かった。グリフィンドールのテーブルでは、ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が端の方の席に座り、深刻そうな表情でお昼を食べている。ファッジ大臣が私と会う前にハリーと会ったと話していたから、きっと彼らはマクネアの姿を見てしまったに違いない。彼らにとって、死刑執行人の姿はショッキングなものだっただろう。

「こんにちは、3人共」

 私は空いているハーマイオニーの隣に腰掛けると出来るだけ優しく3人に声を掛けた。向かい側に座るハリーが真っ先にこちらを見て、「やあ」と返事を返したが、その声にはどこか元気がなかった。

「ハナ、正面玄関にファッジがいたのを見た? 僕、さっき会ったんだ」
「ええ、私も会ったの。危険生物処理委員会の人と死刑執行人と一緒で、紹介されたわ。斧を見た? 私、粉々にしてやろうかと思った」
「してやれば良かったんだ」

 ロンが怒ったように言った。

「あんなの公正って言えないよ。きっとあの斧でハグリッドを怯えさせて、僕が長い間準備したことを滅茶苦茶にしようとしてるんだ」
「ハグリッドがしっかり弁護出来たら大丈夫だと思うんだけど……ハナ、ハグリッドは大丈夫かしら」
「分からないわ。でも、あんな斧を見せられたら動揺してしまうでしょうね。それに、ファッジ大臣も処刑ありきで考えてるみいだった。私が“大臣が一緒なら、必ず公正な控訴になると保障されたようなものですもの”って話したら、ダンブルドア先生にそっくりだって言って嫌な顔をしていたもの」
「そりゃ、いやーな顔もするわけだ。だって、大臣もグルなんだから」

 ロンは相当腹が立っているらしく、吐き捨てるようにそう言うと皿に盛られているチキンにフォークを突き刺した。今回の控訴ではロンがとても頑張っていたので、人一倍悔しいのだろう。けれども、子どもの立場では魔法省を動かすことがとても難しいことも彼らはきちんと理解している。理解しているからこそ、余計悔しいのだ。

「バックビークのこともだけど、私、貴方達に報告があるの」

 3人の顔を順番に見ると、私は切り出した。

「前に、私が手伝って貰って、スキャバーズを捜索してるって話したのを覚えてる? 実はそれらしいネズミが城の外に出ていくのを見たって言う話を聞いたの」
「え!?」
「スキャバーズがかい!?」
「ハナ、それって本当なの!?」

 私の言葉に、途端に3人は驚いた声を出した。スキャバーズが生きているかもしれないと聞かされたのだから、無理はないだろう。私は声を潜めると慎重言葉を選びながら続けた。

「私も実際見たわけじゃないからわからないけど、もし外に行く機会があったら気を付けて見てみて――もしかするとスキャバーズは怖いこと・・・・が起こったものだから、怯えて外に逃げ出しただけだったのかもしれないわ」

 実は、私が済ませなければならない大事な用事というのがこのスキャバーズの件だった。以前、スキャバーズを捜索しているという話を伝えてから、私は彼らにスキャバーズの居場所を逐一伝えるようなことはしていなかったのだけれど、それを伝える時が遂にやってきたのだ。特にロンにはスキャバーズを必ず捕まえてもらわなければならない。

「それじゃあ、ベッドシーツの血は逃げ出す時に怪我をしてついた可能性もあるってことだ――僕、確かめもしないでハーマイオニーにひどいことばっかり……」
「ロン、貴方は悪くないわ。私の態度もいけなかったし、クルックシャンクスがスキャバーズをずっと狙っていたのは事実だったもの――」
「でも、ハナ、一体どうやってその情報を掴んだの?」

 ハリーが不思議そうにそう言って、こちらを見た。スキャバーズがいなくなってもう何ヶ月も経っているから、今更こんな情報が出てきたことに驚いているんだろう。私はそんなハリーにニッコリ微笑むと答えた。

「私、この城を知り尽くした友達がたくさんいるの」