The ghost of Ravenclaw - 182

20. クィディッチの優勝杯

――Harry――



 ハーマイオニーと仲直りしてからしばらくが経った。
 吸魂鬼ディメンター防衛術の訓練はひと通り終えたものの、ハリーは相変わらずクィディッチの練習の合間に宿題を行わねばならず、毎日クタクタになり、大変な日々を過ごしていた。けれども、ハリーは以前に比べると大分気分が軽かった。ハーマイオニーも含めた3人でまた過ごせるようになったし、それにより、ハナとも気兼ねなく話せるようになったからだ。

 口を利かなくなってからというもの、ロンはハーマイオニーの味方をするハナにも度々怒っていたけれど、ハナがスキャバーズへのこれまでの態度をよくなかったと素直に謝ったことで、そのことで一切怒らなくなった。けれども、ネズミが嫌いな訳ではないらしいのにスキャバーズのことをロン曰く「親の仇」のように見ていたことについて、ハナは言葉を濁したので、これにはロンだけではなく、ハリーもハーマイオニーも首を傾げた。

 更に分からなかったのは誰もが、クルックシャンクスが犯人ではないにしろ、どこかの猫にでも食べられてしまったに違いないと考えていたスキャバーズの行方をハナが捜しているということだった。ハナは誰かに協力して貰ってスキャバーズを捜してくれているようで、そのせいか、一緒に勉強していても度々1人でどこかに消えては思いもよらないところから戻ってきたりした。

 けれども、ハナとまた気兼ねなく話せるようになったのはハリーにとって利点でしかなかった。ハナは空いている時間があればフラッといなくなったり、放課後はよくセドリックと過ごしていることも多かったけど、週末になると必ずハリーの宿題を手伝ってくれたからだ。ハリーはクィディッチの練習でクタクタだったけれど、ハナが手伝ってくれると、宿題が倍近くの速さで終わるのでこれが相当助かった。

 それから、我慢の限界がきたハーマイオニーがマルフォイにパンチをお見舞いしたり、呪文学の授業をすっぽかしたり、占い学を突然辞めたりする事件は起きたものの、ハリー達自身は再び仲違いすることなく春学期を終え、ホグワーツは復活祭イースター休暇に突入した。とはいえ休暇とは名ばかりで、3年生はかつてないほどの量の宿題を出され、苦手科目の多いネビルなんてほとんどノイローゼだったし、他の生徒も似たり寄ったりだった。

 しかし、ハーマイオニーほど抱え込んだ生徒はいなかった。占い学は辞めたものの、それでもハーマイオニーは誰よりもたくさんの科目を選択していたので、夜は遅くまで談話室で粘っていたし、朝は誰よりも早く起きて図書室に向かった。けれどもそんな生活が体にいい訳がない。次第にハーマイオニーの目の下にはひどい隈が出来、いつ見ても、今にも泣き出しそうな雰囲気になり、ハナが懸命にフォローしていた。けれどもそれだけではなく、ハナはハリーの宿題も手伝ってくれていたので、ハリーはハナがまた入院してしまうのではないかと心配になった。

「ハナ、最近体調はどう?」

 復活祭イースター休暇も半ばとなったころ、あまりにも心配になったので、ハリーは思い切って訊ねた。この日もハリーは4人で図書室の一画を占領して宿題をこなしていたところで、ハナはちょうど図書室の書棚をあちこち回り、宿題に必要な参考書をいくつか持ってきたところだった。

「体調?」

 ハナは一瞬きょとん、とした表情でハリーを見ながら椅子に腰掛けた。その隣ではハーマイオニーが本に埋もれるように黙々と宿題をこなしていて、ロンは『ヒッポグリフの残忍性に関する研究』を夢中で読み耽っているところだった。ここ最近のロンはバックビークの控訴の準備が忙しく、クルックシャンクスに目くじらを立てることすら忘れているようだった。

「ウン、この間入院してたから」

 ロンとハーマイオニーの邪魔にならないよう声を潜めてハリーは言った。すると、ハナはハリーには到底分かりっこないヘンテコな記号ばかりが書かれたルーン語の辞書を手に取り、パラパラ捲りながらニッコリ笑って答えた。

「それなら大丈夫よ。顔色も悪くないでしょう?」

 そう言ったハナの顔色は確かに悪くないようだった。それに、ハーマイオニーみたいに目の下に隈も出来ていなければ、今にも泣き出しそうになっている訳でもない。ハリーはホッと胸を撫で下ろし、ハナが辞書を片手に何やら羊皮紙に書き込むのを見た。古代ルーン文字学で出された気の遠くなるような翻訳の宿題をしているらしい。

「それ、難しそうだね」

 ハリーは半分ほど埋まっている羊皮紙を見て言った。

「あら、楽しいのよ。確かに翻訳はややこしいけど――でも、ルーン語って1文字1文字に意味があって、それを占いに利用したりも出来るの」
「僕、占いはあんまり……」
「私が見る限り、貴方に死神犬グリムの影はないわ」

 占いと聞くなりハリーがしかめっ面をすると、ハナはきっぱりと答えた。ハナはハリーが度々死神犬グリムを目撃していることを知らないからそんな風に言えるのだろう。ハリーはそう思ったが、同時にハナの口調がどこか、ハリーが度々目撃している死神犬グリムの正体を知っているようにも聞こえた。

「誰もが死神犬グリムを怖いと言うから怖い気がするのよ。魔法界では確かに死に際に死神犬グリムを見る人もいるかもしれないし、存在を否定は出来ないわ。けれど、恐れるが故に誰も目の前に現れた死神犬グリムが本当に亡霊かどうか確かめもしないし、内面にも興味を持たない――」
「ハナは死神犬グリムの内面に興味があるの?」
「ええ、あるわ」

 ハリーの問いにハナが頷いて答えた。

「だって、死神犬グリムが本当は何を求めているのかは、知ろうとしない限り分からないままだもの」