The ghost of Ravenclaw - 177

20. クィディッチの優勝杯



 私が無事退院出来てからしばらくが経った。
 退院したその日の夜に私は早速シリウスに会いに行ったのだけれど、予めセドリックから事情を聞かされていたシリウスは、私が入院したというのが相当ショックだったらしい。わざわざ医務室のそばまでやってきたので、かなり心配してくれていることは察していたけれど、どうやら具体的な原因を言わなかったセドリックを問い詰めて、ストレスで入院したことを聞いていたらしい。だから、危険を冒して様子を見にきてくれたのだ。

「冷静な判断がまったく出来ていなかった……クルックシャンクスが合言葉のメモを持って来て、気が付いたらあのロンという男の子のベッドのそばに立っていた……叫び声に我に返っていなかったら、今ごろどうなっていたことか……」

 あの日のシリウスは完全に冷静さを失っていたらしい。だから、ブレスレットで連絡することさえ忘れてしまったのだ。長い間身動きが取れずイライラした様子だったので、いよいよワームテールの尻尾を捕まえられるかもしれないと、復讐心に火がついて、居ても立っても居られなかったのだろう。あのまま我を忘れて捕まってしまっていたらどうなっていたかと思うと、私はゾッとした。一歩間違えれば、シリウスは吸魂鬼ディメンターに魂を吸い取られていたのだ。

 とはいえ、「入院したのは貴方のせいだ」とか「どうして相談してくれなかったんだ」とシリウスを責め立てる気には到底なれなかった。そもそも私が入院する羽目になったのは、胃の痛みを感じていたのになんだかんだと放っておいた自分のせいだし、グリフィンドール塔への侵入だって肝が冷えたのは本当だけれど、相談されてもされなくても、ワームテールがどこに隠れているか分からないうちは、結局実行に移していただろうからだ。ただ、やっぱり心配なのでこの先のことは綿密に計画してから行動するとお互いに約束をした。

「ワームテールがいなくなったことも、もっと早くに伝えられていたら良かったのだけど――」
「仕方ないさ。同室の子が徹夜していたなら抜け出すのは危険だ。それに、詳しく状況を話し合うなら直接会った方がいいという君の見立ては正しかった……」
「いろいろとタイミングが悪かったわね……ねえ、あの日、ワームテールの姿は見た?」
「いいや――でも、クルックシャンクスはどこかで臭いがすると言っていた」
「猫って嗅覚が鋭いのね」
「人間より遥かにな。聞いた話だと嗅ぎ分ける能力は人間の数万から数十万倍と言われているらしい。私が寝室に真っ直ぐ辿り着けたのも彼の案内があったからなんだ。あの子は本当に賢い――」
「臭いがしていたということは、ワームテールは寝室のどこかに隠れていたのね……」
「おそらく、私は寮内には入ってこないものだと考えていたのだろう。猫が臭いに鋭いということも知らなかったに違いない。隠れていれば安心だと思っていたわけだ。しかし、これでワームテールはグリフィンドール塔を出るだろう。あいつは臆病者だからな」
「イレギュラーは起こったけれど、なんだかんだきちんと進んでいるわね」
「ああ――君が知っている通りにな」
「じゃあ、最後の計画に進みましょう。私にワームテールの動きを知る、いい考えがあるわ」

 それからの数日間、私は、シリウスとこれからどう行動していくかの計画を綿密に立てつつ、いよいよ間近に迫ってきたバックビークの裁判の準備を進めていった。ハーマイオニーもハグリッドも私の体調についてとても気にしていたけれど、私が裁判の手伝いをやめてしまえば次に倒れるのはハーマイオニーに違いないと、どんなに休んでいいと言われても、手伝いをやめなかった。代わりに定期的に医務室へ診察に行くと言うと、ハーマイオニーとハグリッドは渋々私が手伝いを続行することに納得した。

 しかしながら、ここでちょっとした問題が発生した。シリウスが二度も侵入したことで、校内の安全対策がより厳しくなり、どこにいても先生達の目が光るようになったのだ。しかも私が入院してしまったせいで、リーマスが体調を心配して頻繁に会いに来るようになったものだから、「ワームテールの動きを知る、いい考え」を実行するのにかなり苦労した。普通に授業を受けたり、図書室で宿題や裁判の手伝いを進めたりするのは問題なかったが、いざ作戦を実行しようとするとひょっこりリーマスが現れるのだ。

 やっと思いで作戦を実行に移したのは、木曜日の夜のことだった。私は夕食を食べ終えたリーマスが大理石の階段を上がっていくのをしっかりと確認したのち、ハッフルパフ生に紛れて地下に下り、こっそりと厨房に忍び込んだ。もちろん、セドリックという心強い協力者付きで、である。作戦を聞いたセドリックが厨房に忍び込む際の見張りを買って出てくれたのだ。

 私が厨房に忍び込んだ理由は、ズバリ、屋敷しもべ妖精ハウス・エルフ達にワームテール探しを手伝って貰うことにある。彼らは謂わば、ホグワーツのプロだ。人の目がない間に暖炉の火の世話をしたり、掃除、洗濯をしてくれるのも彼らだ。先生達や生徒達ですら知らない隠し通路や隠し部屋をも知り尽くしている可能性が高い。

「今日はホグワーツにとっても詳しい貴方達にお願いがあって来たの」

 厨房にやって来た私を大歓迎で迎え入れ、たくさんの食べ物を持たせようとする屋敷しもべ妖精ハウス・エルフ達を制して、私は言った。

「実は、友達のペットのネズミがいなくなったの。前足の指が1本欠けている子なんだけれど、もし見掛けたらどこで見掛けたのか教えてほしいの。ただ、無理に捕まえなくていいわ。見掛けた場所さえ教えてくれればいいの」

 捕まえてくれと言われるものだと思っていたのだろう。屋敷しもべ妖精ハウス・エルフ達は私の話を聞いて不思議そうに首を傾げた。けれども、無理に捕まえてはならないのだ。なにせ相手はただのネズミではない。動物もどきアニメーガスなのだ。下手をすると彼らに危害が及ぶ可能性がある。私はきょとんとする彼らを真剣な顔をして見渡し、言った。

「教えてくれさえすれば、そのうち私がきちんとあるべき場所・・・・・・に返すわ。絶対に」