The ghost of Ravenclaw - 152

17. いなくなったスキャバーズ

――Harry――



 クリスマスに一悶着あってからというもの、ハリーもロンもハーマイオニーとはほとんど口を利かなくなった。ハリーはハーマイオニーが自分のことを心配してマクゴナガル先生にファイアボルトのことを報告したのだと頭では分かっていたものの、やっぱり腹が立ったし、あの素晴らしい箒があらゆる呪い崩しのテストを掛けられたあと、どんな状態になってしまうのかと思うと気が気ではなかった。お陰でハリーはそのこと以外何も考えられず、他の大事なことが頭からすっぽり抜け落ちてしまった。

 ハリーと同じくロンもファイアボルトの一件で腹を立てていた。むしろ、ロンの方がクルックシャンクスの件も相まって、カンカンだったかもしれない。新品のファイアボルトを分解するなんて「まさに犯罪的は破壊行為だ」というのがロンの主張だった。

 一方ハーマイオニーは、自分は正しいことをしたと信じて疑っていなかった。ハリーやロンに対して、ツンとした態度を貫き、クリスマスの次の日には2人を避けてグリフィンドールの談話室で過ごさなくなった。きっと図書室に避難して、ハナと一緒に過ごしているのだろうと、ハリーもロンもハーマイオニーを談話室に戻るよう、説得しようともしなかった。

 ハナはどちらかというとハーマイオニーの味方だった。実際にハナがファイアボルトの件をどう考えているのかは分からなかったけれど、一先ずハーマイオニーが孤立してしまわないよう、一緒にいることに決めたらしい。そういう訳で、クリスマス休暇の残りの期間、ハナは朝から晩までハーマイオニーと一緒に図書室に籠り、ハリーとロンとはほとんど顔を合わせようとしなかった。

 その状況は春学期が始まっても続いた。
 授業が始まると流石にハナとハーマイオニーが四六時中一緒に過ごすということはなくなったけれど、それでも放課後になるとハナはハーマイオニーと一緒に図書室に籠り続けた。ハリーはもしやハナは完全にハーマイオニーの味方で、ハリーとロンとは顔を合わせることすら嫌なのではないかと思ったけれども、ハナは時々ハリー達のところにもやってきた。なんとかハリー達3人の仲を取り持とうとしたのだ。しかし、ハナがどんなに仲を取り持とうと努力しても、ロンは「どうせ君はハーマイオニーの味方なんだろ」とカンカンになって取り合おうとしなかったし、ハリー自身もショックから抜け出せないままだった。

 そんな中、春学期最初の木曜の夜8時にルーピン先生による吸魂鬼ディメンター防衛術の訓練が始まった。場所は広い方がいいだろうとD.A.D.Aではなく、魔法史の教室だ。ハリーにとっては待ちに待った訓練の日である。ハリーは早々にグリフィンドール塔を抜け出し、約束の時間に遅れないよう、魔法史の教室に向かった。

 ハリーが到着した時、魔法史の教室はまだ真っ暗だった。どうやら少し早く来すぎて、ルーピン先生はまだのようだ。ハリーは杖を使って教室に備え付けられているランプの明かりを灯すと、先生がやって来るのを今か今かと待った。吸魂鬼ディメンターの防衛術はどんなものだろう。その呪文を使えば、吸魂鬼ディメンターを完全に追い払えたり、消し去れたりするのだろうか。

 期待に胸を膨らませハリーが待っていると、5分ほどしてルーピン先生がやってきた。未だに病気が良くならないのか、旅行用の大きなトランクを抱えている先生の顔色はあまり良くない。今週の初めごろ、ハリーとロンがそのことを話している時、ハーマイオニーが「分かりきったことじゃない」と言っていたけれど、あれは本当に先生の病気の原因が分かっているのだろうか。それとも、ハリー達と口を利く口実が欲しかっただけだろうか。

「それは、なんですか?」

 ルーピン先生が教卓の上にトランクを置くのを見て、ハリーは訊ねた。訓練に必要なものだろうが随分と大荷物だ。気になってハリーがまじまじとトランクを見ていると、先生が答えた。

「またボガートだよ」

 ハリーは訊いたことを後悔した。自分がボガートと対峙した時、ボガートが一体何の姿に変身するかと思うと到底喜べる気分ではなかった。

「火曜日からずっと、城を隈なく探したら、幸い、こいつがフィルチさんの書類棚の中に潜んでいてね。本物の吸魂鬼ディメンターに一番近いのはこれだ。君を見たら、こいつは吸魂鬼ディメンターに変身するから、それで練習出来るだろう。使わない時は私の事務室にしまっておけばいい。ボガートの気に入りそうな戸棚が、私の机の下にあるから」
「はい」

 それでもハリーは努めて明るく聞こえるよう返事をした。折角ルーピン先生が訓練してくれるのに、ボガートが怖くて出来ませんなんて言いたくはなかった。しかし、本物でも偽物でも、吸魂鬼ディメンターを相手にするのは気が重かった。ボガートの吸魂鬼ディメンターでも、母親のあの最期の悲鳴が聞こえてしまうのだろうか。そういえば――。

「あの、ルーピン先生」

 ハリーはふと気になることがあって訊ねた。

「ハナも一緒に訓練出来たりしますか?」

 そうハナのことだ。ハリーは自分が訓練出来ることに安心してしまいうっかりしていたが、ハナもハリーと同じように吸魂鬼ディメンターを目の前にすると気を失ってしまうのだ。どうせ訓練するのなら、ハナにも声を掛けるべきだったのに。ハリーはそんな風に思ったが、ルーピン先生の答えは意外なものだった。

「ハナはもう練習に入っている」
「え?」

 驚いて、ハリーは思わず声を上げた。

「もう練習してる?」
「君の訓練が決まってすぐに声を掛けた時にそう話していたよ。それで、訓練には参加しないことになった。もう練習を始めているし、自分がいない方がハリーは練習に集中出来るだろうってね」

 ハリーはハナと訓練出来る機会が失われたことを残念に思う一方で、確かに1人の方がいいかもしれないと思った。クリスマス以降ハーマイオニーのとこでハナとはほとんど話せていなかったし、それにたとえボガートが変身した姿だとしても、吸魂鬼ディメンターを前にしてハリーがどんな風になってしまうか分からなかったからだ。

 納得したように頷くとルーピン先生は杖を取り出しながら言った。

「さて、ハリー。はじめよう」