The ghost of Ravenclaw - 150

17. いなくなったスキャバーズ



 いよいよ春学期が迫ってきた。
 休暇が終わる1日前には、帰宅組の生徒達がみんな戻ってきて、閑散としていた城内はあっという間に賑やかになった。貸し切り状態だったレイブンクローの談話室はすっかり混み合っていつもの状態に戻り、同時にハーマイオニーは他の生徒の目を避け、朝早くに5階の廊下にやって来ることはなくなった。私はハーマイオニーの様子が気掛かりだったけれど、授業が始まると休暇中のように常に一緒にいることは難しいかもしれない。

 セドリックもみんなと同じ1日前に戻ってきた。久し振りに生徒で溢れ返った大広間での夕食のあと、休暇前と同様にシリウスの夕食をやり取りするために顔を合わせた私達は、誰もいない教室に滑り込んでこの休暇中に起こった出来事を報告し合った。

「父さんにそれとなく聞いてみたんだ」

 夜食にするといって持ち出してきた夕食を私に差し出しながらセドリックが言った。

「父さんは魔法省に勤めているからね。何か予言者新聞にも載っていない動きが分かるかもしれないと思って――」
「おじさんに変に思われなかった?」
「大丈夫だったよ。寧ろ、僕が父さんの仕事に興味を持ってることが嬉しそうだったな」
「目に浮かぶわ。貴方のことを話す時もおじさんはいつも嬉しそうだったもの」

 夏休みに泊まりに行ったことを思い出して私は思わずクスクス笑った。おじさんはセドリックが自慢で堪らない様子で、夜に庭で夕食を食べた時には上機嫌でお酒を飲みながらセドリックがどんなに素晴らしい息子かと話して聞かせてくれていた。私はそんな息子への愛に溢れたおじさんがとても好きだった。けれど、セドリックは照れ臭かったらしい。

「――それで、魔法省だけど」

 わざとらしく咳払いするとセドリックは本題に戻した。

「バレンがどこに潜伏してるかは分かっていないようだった。まさか禁じられた森にいるとは思ってないみたいだったな。けど、やっぱりハリーを狙っているのは間違いないというのが、魔法省の見解だ」
「それじゃあ、今後も学校の出入口やホグズミードに吸魂鬼ディメンターがウジャウジャするのね」
「みたいだよ。ファッジは森を含め校内を隈なく捜索したいみたいだけど……ほら、休暇前にもそのことでダンブルドア先生に会いに来てたから」
「ダンブルドア先生が吸魂鬼ディメンターに否定的で良かったわ。でないと今ごろどうなっていたか……一先ず、去年のように理事会がダンブルドア先生を追い出す決定をしない限りは安全ね」

 廊下に足音が聞こえてこないか、突然壁からニュッとゴースト達が現れて来ないかと注意しながら、私達は声を潜めて話した。セドリックは今後も両親と手紙のやり取りをする際に然りげなく魔法省の動きを聞いてみると言ってくれて、私は彼のその提案を有り難く思った。私とシリウスだけではどうしても予言者新聞からでしか魔法省の動きを知ることが出来ないからだ。けれど、セドリックがいてくれたら新聞で知るよりも先に情報を得られるかもしれない。それはかなり大きなことだった。

「ハナの方はどうだった?」
「そうね、バレンはのんびり過ごしていたから特に変化はないけど、他のことでいろいろあったわ……」

 セドリックの次は、私が休暇中に起こった出来事を話す番だった。私はバックビークの裁判の件に始まり、クルックシャンクスの件でロンとハーマイオニーが喧嘩したこと、そして、シリウスがハリーに匿名でファイアボルトを送って一悶着あったことの一切を話して聞かせた。

「ファイアボルトだって? 本当に?」

 ファイアボルトと聞くなり、セドリックはソワソワしながら言った。一悶着あったのだからと我慢しているようだったが、クィディッチ選手としてはどうしても反応せざるを得ないのだろう。セドリックはファイアボルトについてあれこれ聞きたそうな顔をしつつも、遠慮がちに訊ねた。

「あんなに高価なものを、一体どうやって?」
「ハリーのニンバスをチャームにしたりする際、バレンにダイアゴン横丁へ必要なものを買いに行って貰ったんだけれど、どうもその時にファイアボルトを見つけてしまったみたいね。どうやったのかまでは詳しく聞いていないけど、上手いことブラック家の金庫から代金を引き落とさせたんだわ」
「ファイアボルトか……それをポンッと買えるなんて凄いな。僕もダイアゴン横丁で飾られているのを見たけど、素晴らしい箒だった」
「ただ、高価すぎるのが問題なの」

 私は溜息混じりに答えた。

「あんな高価な箒を匿名で送るなんて明らかに不審でしょう? どうして私に相談してくれなかったのかしら……私にもとんでもなく高価なプレゼントを送ってきたのよ」
「バレンはハナやハリーを喜ばせたかったんだよ。ただ、一悶着あるのも無理はないな……僕はハリーの気持ちもよく分かるけど、グレンジャーの気持ちも分かるよ。兎に角、心配でたまらなかったんだ。危ないことにならないかってね。それで、強行手段に出たのもある程度頷けるし、事実、彼女の読みは正しかった。真実はどうあれね」
「私、ハーマイオニーが心配だわ。授業だってたくさん抱え込んでるのに、ヒッポグリフの裁判の手伝いもしていて、それだけも大変なのに、ハリーとロンから口も利いて貰えなくなって、しょっちゅう泣いているの……」

 同じ寮だったら授業が始まってからも一緒に行動することが出来ただろうに。私は明日から始まる春学期のことを考えて、気分が沈むのが分かった。すると、セドリックが何やら思案しながら訊ねた。

「グレンジャーはどれくらい授業を取ってるんだい?」
「全部よ。宿題も大変そうで、休暇の間は私が時々連れ出して気分転換させてたんだけど、授業が始まるとそれが出来なくなるから余計心配だわ」
「なるほど……それは大変だな」

 セドリックは難しそうな顔をして言った。

「1つだけ負担を軽くする方法があるとしたら、あの奥の席にグレンジャーを誘うことだと思う。彼女も静かなところで人目を気にせず勉強出来たら少しは――って思うんだけど、どうかな?」
「とってもいいと思うわ」

 セドリックの提案に私はすぐさま頷いた。

「貴方さえいいなら、私は大歓迎よ」
「僕も3年生の時、勉強が増えて大変だったけど、あそこでゆっくり勉強が出来たからきちんとこなせたんだ。だから、グレンジャーの助けにもなるかと思って。それにあの席なら僕も時々フォロー出来ると思う」
「ありがとう、セド。貴方がいてくれて本当に良かったわ。私だけだったら、この選択は出来なかったもの」

 心からそう思って私は言った。もし、セドリックに相談出来ない状況だったら、私はハーマイオニーのことを心配しつつもなにも出来ないままだっただろう。セドリックがそばにいて、こうして味方でいてくれるからこそ、今の私はきちんと対応出来ているのだと思う。でなければ、私は今ごろたくさんの問題に擦り切れていたかもしれない。

「どういたしまして」

 私の言葉にセドリックは嬉しそうに笑った。