The ghost of Ravenclaw - 144

16. 危険生物処理委員会とファイアボルト

――Harry――



 ブラックに対する憎悪を募らせていたハリーだったが、翌日になるとブラックのことばかり考えている余裕がなくなった。あれから、なんとかハリーの気をブラックのことから逸らそうとロンが提案したことでハグリッドの小屋に行くことになった――ここでも一悶着あった――のだが、そこで新たな知らせを聞いてしまったからだ。

 新たな知らせというのは、バックビークの件についてだった。ハグリッドの初授業でマルフォイに侮辱され、傷を負わせてしまったあのヒッポグリフである。ハグリッドは辞めずに済んでいるし、ダンブルドアの口添えでなんとかなったとばかり思っていたのに、あれはまだ解決していなかったらしい。

 ハグリッドの小屋で読んだ手紙によると、理事会はハグリッド自身については不問としたものの、バックビークはマルフォイに怪我を負わせた罪で事情聴取を行うという。つまり、裁判である。ハグリッドが証言台に立ち、バックビークの弁護をし、裁判官達が有罪か無罪かを決めるのだから。

 裁判を行うのは手紙を寄越してきたホグワーツの理事会ではなく、危険生物処理委員会というところだった。この危険生物処理委員会というのはハグリッド曰く「怪物」で「処理屋の悪魔」らしい。委員会の人々は面白い生き物――ここはハグリッドとその他大勢でかなり見解が分かれるが――を目の敵にしてきて、すぐに処理しようとするそうだ。しかも、ルシウス・マルフォイの手の内というからタチが悪い。

 ハグリッドはこのことですっかり意気消沈していた。ハリー達が小屋に着いた時には大泣きしていて、お陰でハリーはブラックを憎んでばかりはいられなくなった。ハグリッドは教師である前にハリーにとっては大事な友達だったし、なんとか力になってあげたかった。これには、ハリーの自暴自棄をなんとかしたがっていたロンとハーマイオニーもひと安心した様子で、口々にハグリッドを慰めては、裁判の手伝いをすると約束した。

 そういう訳でハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は翌日からバックビークの裁判に役立ちそうなものを手分けして探すことにした。しかもなんとハナも一緒である。実はハリー達がハグリッドの小屋を訪れるよりずっと前にハナもハグリッドの小屋を訪れていたらしく、裁判のことを知ったハナはその直後から早速図書室に籠り、調べていたらしい。

 クリスマスになるまで、ハリー達は毎日図書室に通い、あらゆる本を調べた。調べている時のほとんどは無言だったけれど、ハリーはハナと1日中過ごせることがなんとなく嬉しかった。ハナとは寮が違うのでこんなに長い時間一緒に過ごすことは滅多になかったのだ。しかも、クリスマス休暇の間はハナもグリフィンドールのテーブルでご飯を食べるというからハリーは尚更嬉しかった。

 ハリー達が図書室通いをしている間に、ホグワーツではクリスマスの飾り付けが進んでいた。それを楽しむ生徒がほとんど残っていないのだけが残念だったが、金色に輝く星を飾った12本ものクリスマス・ツリーが大広間に並ぶ様は圧巻だった。更には美味しそうな匂いが廊下中に立ち込め、クリスマス・イブにはそれが最高潮に達したので、ここ最近クルックシャンクスに怯えて隠れているスキャバーズも、避難していたロンのポケットから鼻を出して匂いを嗅いでいた。


 *


「おい! プレゼントがあるぞ!」

 そうして訪れたクリスマスの朝――ハリーはロンに枕を投げつけられて目覚めた。どうやらロンはプレゼントが楽しみで早起きをしたらしい。まだ陽が昇っていないのか、寝室の中は薄暗い。それでもプレゼントが楽しみなのはハリーも一緒だったので、目を凝らして眼鏡を探すと、それを掛け、薄明かりの中ベッドの足元を覗き込んだ。

 ベッドの足元には小包が小さな山を作っていた。ロンはもう既に自分のプレゼントの包装紙を破っていて、また栗色のセーターが届いたとぼやいている。ハリーはそのセーターが誰のプレゼントなのかすぐに分かった。ウィーズリーおばさんの「ウィーズリー家特製セーター」だ。おばさんのプレゼントは毎年セーターで、ロンは毎年栗色だった。

 ウィーズリーおばさんからのプレゼントはハリーにも届いていた。包みを開けると中には真紅のセーターと、お手製のミンスパイが1ダース、小さいクリスマス・ケーキ、それから、ナッツ入り砂糖菓子が1箱入っていた。セーターは胸のところにグリフィンドールのライオンが編み込まれている力作だ。

 それらをすべて脇に寄せると、その下にはまだプレゼントの包みが置かれていた。かなり大きな細長い包みとハリーの両手を広げたくらいの小ぶりな包みが、それぞれ1つずつある。大きな包みの方には差出人の名前がなかったけれど、小さな方にはあった。ハナだ。

 一体ハナは何を送ってくれたのだろう。ハリーは期待に胸を膨らませながらプレゼントを手に取った。ワインレッドの包装紙を破るとそこには同じ色をした小箱があって、黒地に金色の刺繍がされたリボンが掛けられている。リボンは魔法のリボンで、中を箒の刺繍が縦横無尽に動いていた。ハリーはそのリボンをしばらく眺めたあと、ようやく解き、小箱を開けた。すると、

「ウ、ワ――」

 途端に中から何かが浮かび上がってきて、ハリーは驚きの声を上げた。浮かんできたそれはハリーの目線の高さくらいまで来たかと思うと、ハリーの周りをスイスイ飛びはじめた。

「…………僕のニンバスだ」

 そう、それは暴れ柳によって無惨にも壊されたハリーのニンバス2000そのものだった。手のひらサイズで小さなものだが、確かに自分の箒だとハリーにはすぐに分かった。よくよく目を凝らしてみると箒の柄の部分には継ぎ目が見えたし、ハナが壊れたものを継ぎ合わせて作ったのだということが分かった。

 ニンバスが壊れたその日の夜、ハナが「いいことを思いついた」と言って破片を持っていったのはこういうことだったのだ。ハリーは小さなニンバスが自分の周りをクルクルスイスイ飛び回るのを見ながら思った。ハナならきっと大丈夫だと初めから何も心配していなかったけれど、これは予想外だ。ハナはハリーが想像していたものよりもっと素晴らしいものをハリーに作ってくれたのだから。

 しかも、ハナが作ってくれたのはこれだけではなかった。やがて小さなニンバスがスーッと小箱の中に戻って軟着陸すると、そこにもう1つプレゼントがあることに気付いたのだ。それはハリーが気付くのを今か今かと待っていたかのように、艶やかに輝いている。

 もう1つは、チャームだった。歪な形の木片で、金の文字で「Nimbus 2000」と書かれている。ハリーがチャームを手に取り握ってみると、懐かしい感覚がして、これは元の大きさのままなのだとすぐに分かった。継ぎ目も見当たらないので、運良くここだけ綺麗に残っていたのをハナが整えてチャームにしてくれたに違いない。添えられていたクリスマス・カードには「貴方にずっと借りたままだったニンバスを返すわ。素敵なクリスマスを」と綺麗な文字で綴られていた。

「すっげぇ!」

 一連の様子を見ていたロンが興奮気味に言った。

「ウン――ウン、とっても」
「君のニンバスが蘇ったみたいだ。これって誰にでも出来ることじゃないよ。きっとすごく複雑な魔法が掛けられてると思うな。小さくする魔法とかいろいろ」
「ウン」
「ハリー、残りの包みも開けてみろよ。こっちもハナからかもしれない」

 ロンに促されるとハリーはハナのプレゼントを慎重にベッドの上に置いてから最後の包みに取り掛かった。薄い包装紙に何やら細長いものが包まれている。ハリーは一体何が入っているのかと包みを破った。すると、中から見事な箒が、キラキラと輝きながら転がり出て、ハリーは息を呑んだ。

 炎の雷・ファイアボルトが確かに目の前に転がっていた。