The ghost of Ravenclaw - 140

16. 危険生物処理委員会とファイアボルト



 クリスマス休暇2日目――ハリー、ロン、ハーマイオニー、それから私は朝から早速図書室に行き、バックビークの裁判に役立ちそうな本を片っ端から調べ始めた。私はマダム・ピンスに取り置いて貰っていた本を調べ、ハリー達は動物による襲撃に関する有名な事件を書いた本に目を通した。基本的にはみんな無言で黙々と本を読んでいたけれど、時々何か関係ありそうな記述を見つけるとマダム・ピンスの目を盗んでヒソヒソ話し合ったりした。

「これはどうかな……1722年の事件……あ、ヒッポグリフは有罪だった――ウヮー、それで連中がどうしたか、気持ち悪いよ――」
「これはいけるかもしれないわ。えーっと――1296年、マンティコア。ほら頭は人間、胴はライオン、尾はサソリのあれ。これが誰かを傷つけたけど、マンティコアは放免になった――あ――ダメ。なぜ放たれたかというと、みんな怖がってそばに寄れなかったんですって……」
「『ヒッポグリフと哀れな愚か者の末路』に書かれてある内容はまあまあかも。どれもこれもヒッポグリフを怒らせて手痛い仕打ちを喰らったっていう内容なの。ただこのヒッポグリフ達が裁判されたのかとか、もし裁判になったとして判決はどうなったのかとか書かれていないわね。それが分かれば、証言に使えるけど――」

 そんな風にして、私達は毎日飽きもせずに朝食後から夕食前まで、ひたすらバックビークの裁判に必要な資料を探した。少しでも役立ちそうだと思った内容はひとまず羊皮紙に書き出し、あとで分かりやすくまとめる予定だ。魔法界の裁判がどういうものかイマイチ分からないけれど、証言する時のメモは分かりやすく取り出しやすくした方がいいだろう。

 調べる本はまだまだ山のようにあったけれど、私達は夕食の時間が来ると一先ずその日の作業を終えることに決めた。クリスマス休暇中も少なからず宿題はあったし、お互い他にやることがたくさんあったからだ。特にハーマイオニーは誰よりも多く授業を抱えていたので、私は彼女のためにもこのことを徹底することにしていた。

 という訳で、私達は午後6時になると1日の作業を終え、大広間で夕食を食べ、それぞれの寮へと戻った。寮に戻るとそこからは1人の時間なので、私は貸切状態の談話室で守護霊の呪文を練習したり、本を読んでまだ試していない呪文に挑戦してみたり、マートルにプレゼントするクリスマス・リースを作ったり、宿題をしたり、合間を見てリーマスの様子を見に行ったりして自由に過ごした。

 もちろん、シリウスに会いに行くのも欠かさなかった。夕食の時にはハリー達の前で堂々と夜食にするのだと言って食事を持ち出し――ロンは「君、そんなに大喰らいだった?」と驚いていた――学期中と変わらず毎晩シリウスの所へ持っていった。そんなシリウスは、休暇中ともなるとクルックシャンクスが合言葉を盗み出すのが難しいと分かっているので、休暇の間はのんびり過ごすようだった。聞けば、日中は私とセドリックがプレゼントした本を読み耽ったり、遊びにやってきたクルックシャンクスと戯れたりしているらしい。

 シリウスのテントの中では、相変わらず私はハリーのミニチュア箒の仕上げ作業をした。ミニチュア箒は休暇に入る前からもうそろそろ完成というところまできていたけれど、私もシリウスもかなりの凝り性で、最後の仕上げに相当時間が掛かっていた。「ハリーにプレゼントするなら絶対細かいディテールにも拘るべきだ」というのが私達の意見だった。

 それでも、クリスマス2日前にミニチュア箒はもうこれ以上作業するところはないという状態になり、遂に完成した。拘りに拘り抜いたミニチュア箒は、「アップ」と言って杖を振ると浮上して、もう一度杖を振り「ゴー」と命令すると当たりをスイスイ飛び始める造りになっている。この魔法を掛けるのにあれこれ試行錯誤をしたのだけれど、成功した時には私もシリウスも大喜びでハイタッチした。

「やったわ! 成功よ!」
「これは最高傑作だ!」


 *


 クリスマス休暇の最初の1週間は瞬く間に過ぎていき、遂にクリスマス当日の朝がやって来た。メアリルボーンの自宅で過ごしている時は、クリスマスの朝目覚めるともう既にプレゼントの小包が届いていたものだけれど、ホグワーツではどのように届くのか、私は少しワクワクしていた。いつもの郵便と同じように朝食の時にふくろう達が運んできてくれるのだろうか?

 いそいそと起き出すと、カーディガンを羽織り、私はベッドから抜け出した。今日はこれから日課である朝の運動をして、まずはマートルのところへ行く予定である。そこでプレゼントを渡したあと、今日は1日中リーマスと過ごす予定だ。今夜は満月なので相当具合が悪くなっているに違いない。

 ベッドの周りのカーテンを開けるとまだ外は日が昇る前で薄暗かった。しかも早朝のこの時間は1日のうちでも1番冷え込む時間帯なので、かなり寒く、カーディガンを羽織っても震えてしまうほどだった。これは早く着替えを済ませて談話室に下りた方がいいだろう。明け方になると屋敷しもべ妖精ハウス・エルフが暖炉をつけてくれているので、談話室は暖かいはずだ――そうして着替えを済ませようと明かりを灯したところで、私はあるものを発見した。

「うわあ!」

 それは小包の山だった。
 真夜中にシリウスのところから戻って来た時には確かになかったはずなのに、いつの間に運び込まれたのか、ベッドの足元に山となって積まれている。中には小包とは呼べない大きさの包みがあって、私は年甲斐もなく声を上げた。いくつになってもクリスマスの朝はワクワクするものである。

「これはウィーズリーおばさんからだわ。こっちはフレッドとジョージ、マンディとリサとパドマにルーナまで!」

 着替えをすることも忘れ、私は早速プレゼントの開封に取り掛かった。丁寧に包装紙を取って折り畳み、1つ1つ確認していく。

 ウィーズリーおばさんからは落ち着いた色合いをしたブルーのセーターだった。ウィーズリーおばさんは編み物がとても上手で、今年は胸元にレイブンクローの鷲が編み込まれている。去年の真っ白なセーターも素敵だったけれど、今年のセーターも素敵で、今日はこのセーターを着ることにした。プレゼントに気を取られ、うっかり着替えを忘れたことはある意味正解だったかもしれない。

 フレッドとジョージからは今年も悪戯グッズがどっさりと、ジニーは可愛い飾りがついたヘアゴム、マンディとリサとパドマからハニーデュークスのお菓子がたっぷりと、ルーナからは派手なサングラス――とりあえず頭につけてみた――が、リーマスからは暖かな手袋と靴下が、ハリー、ロン、ハーマイオニーからもそれぞれ本やお菓子が届いた。

 ダンブルドア先生からは今年も本だった。一昨年の変身術の本、去年のD.A.D.Aの本に引き続き、今年は魔法薬学だ。パラパラと中身を流し読みしてみると、到底授業では習わなさそうな小難しい魔法薬学の理論がぎっしりと書いてある。先生がどうしてこんなに難しそうな魔法薬学の本を私に贈ってくれたのか不思議だったけれど、本の中に脱狼薬の理論のページを見つけてひどく納得した。なるほど、これは何より私に必要なものだ。

 一番大きな箱はなんとシリウスからで、中には一般人には到底手が出せないほど高級そうな天体模型が入っていた。夏休みの時に似たような天体模型をハリーに贈ろうか迷ったことがあったけれど、これはその時見たものより遥かに高そうな造りで、小粒のサファイアが1つ嵌め込まれている。添えられたクリスマス・カードにはバレン・シュバルツの偽名が綴られていて、そこにはハリーのニンバスの欠片でチャームやミニチュア箒を作る際、ダイアゴン横丁に材料の調達に行った時に購入したと書いてあった。あの時、どうしてもやらせてくれと買い出しに行きたがったのはこういう理由があったかららしい。それにしてもどうやってブラック家の金庫からお金を引き出したのか……私の胃が持たないので聞かないでおこうと思う。

 最後に残ったのはセドリックからだった。なんと小包が3つもある。セドリックはクリスマス・イブが私の誕生日だと知っているので、クリスマスと誕生日、両方のプレゼントを送ってくれたのだろう。ドキドキしながら開封すると1つ目には可愛らしいデザインのサファイア・ブルーのインク瓶が、2つ目には美しい装飾のブックマーカーが入っていた。ブックマーカーは緩やかな曲線を描いた真鍮製の細長いもので、美しい蔦の模様が彫られていた。先端には私の杖に似たバラの装飾がされている。そして、

「わあ……」

 最後の3つ目には、小さな花束とグリーティング・カードが入っていた。プレゼントに花束を貰うなんて初めての経験で、私はフワフワとした気持ちになりながら、箱に入れられたそれを慎重に取り出した。

「素敵だわ」

 花束はブルーを基調としたものだった。青いバラやカーネーションが中心を彩り、その周りに真っ白なかすみ草が添えられている。ブーケをまとめているリボンは魔法のリボンで可愛い星がキラキラと瞬いていて、まるで流星のように可愛い星がリボンの中を流れていた。もしかしたら先日のホグズミードで、私が魔法のリボンを可愛いと言ったことを覚えていてくれたのかもしれない。

「それにとってもいい香り――」

 鼻先を近付けて香りを嗅いでみるととても上品な甘い香りがした。その花の香りが胸いっぱいに広がって、私はそれだけでなんだかクラクラする思いがした。

 気の済むまで花束を堪能したあと、ベッド脇のキャビネットの上に丁寧に飾ってから私は添えられていたグリーティング・カードを手に取った。カードは花束と一緒に入っていたからか、花束と同じく上品な甘い香りになっている。



Merry Christmas & Happy Birthday

With best wishes for Merry Christmas.
May all your Christmas wishes come true.
I am always on your side.



 メリークリスマス、そして誕生日おめでとう、という文章から始まった手書きのメッセージは「クリスマスに願いを込めて。君の願いがすべて叶いますように」と極々一般的なものだった。けれどもその最後に「僕はいつも君の味方だよ」とメッセージか添えられていて、私は心がぎゅっと締め付けられた。

「ありがとう……セド」

 セドリックの優しさにまるごと包まれているような気がして、私は小さく呟くと、しばらくの間、カードをそっと胸に抱き締めていた。