The ghost of Ravenclaw - 139

16. 危険生物処理委員会とファイアボルト



 その日のうちから私は図書室通いを始めた。
 ホグワーツの司書であるマダム・ピンスはクリスマス休暇初日の午前中から私が図書室に現れた挙げ句、山のように本を積み上げるので若干――というかかなり――不機嫌そうだった。もしかすると、休暇中はのんびり本の手入れや整理が出来ると思ったのに、思わぬ邪魔が入ったとでも思ったのかもしれない。

 そんな不機嫌そうなマダム・ピンスを尻目に、私は早速情報収集を始めた。利用者が他に誰もいないことをいいことに図書室の中央にある広めのテーブルを丸々独占し、山のように本を積み上げていく。ヒッポグリフの生態が書かれた本、侮辱した愚か者達がどんな目に遭ったのか書かれた本、魔法生物の裁判について書かれた本と種類は様々だ。

 事情聴取は4月20日だけれど、正直十分な準備期間があるとは言い難かった。どうしても事情聴取の下調べだけに時間は割けないからだ。私はシリウスやリーマスのこともあるし、守護霊の呪文の練習もあるし、休暇が終われば授業や宿題だってある。なので、4ヶ月もあるからとのんびりしていられないのだ。

「事情聴取?」

 昼になると私は早めに大広間に行って、2人分の食事を持ち出してから、3階にあるリーマスの私室へと向かった。次の満月がクリスマス当日とあって、このところリーマスは次第に具合が悪くなっているので、様子を見るついでに一緒に食べようと思ったのだ。リーマスは午前中、読書をしてのんびりと過ごしていたらしく、私が私室を訪れると快く迎え入れてくれた。

「例のヒッポグリフの件はそんなことになっていたのか……私も少し話には聞いていたんだが」

 昼食を食べながら午前中に起こったことを話して聞かせると、リーマスは眉根を寄せて言った。心配そうにしているリーマスの顔色は普段より悪いけれど、まだ動けているので体調はまだマシな方なのかもしれない。念の為食事を持ち出してきたけれど、この分だとまだしばらくは大広間で食事をしてもいいかもしれない。

 私室にある小さなテーブルの上には、私が持ち込んだ昼食が所狭しと並べられていた。体調が悪くても食べやすいようにと脂っこいものは避けて、サンドイッチやスープなど食べやすいものが中心だ。因みにホグワーツでは冬になると暖かいスープがよく出てくるようになる。その種類も豊富で、今日は鶏肉とたっぷりの野菜が入ったクリームスープだ。こんな寒い日にはピッタリである。

「そうなの。ハグリッドは辞めずに済んだけれど、ヒッポグリフのバックビークの方は危険生物処理委員会で事情聴取を行うんですって。ルシウス・マルフォイは理事を辞めさせられた腹いせに何がなんでも嫌がらせがしたいんだわ」
「嫌がらせか――それはあるだろうな。今の理事達もダンブルドアの顔を立ててハグリッドについては処分しない決定をしたが、ルシウス・マルフォイを怖がってバックビークの方は危険生物処理委員会に投げたのだろう」
「ええ、私もそう思うわ。両方の顔を立てたのね。だから私、出来るだけバックビークに有利なものがないかって調べてるの」

 そう言って、私はサンドイッチをひと口食べた。テーブルを挟み、私の向かいに座っているリーマスは難しい顔をしながらスープをゆっくりと食べている。

「私も何か手伝えたらいいんだが……」
「貴方はハリーに守護霊の呪文を教えるっていう大事な役目があるもの。休暇明けから教えるのよね?」
「ああ。今どうやって教えるか悩んでいるところだ。手本を見せたいが、私はそれが出来ない――私の守護霊は狼だからね」
「それなら手本は見せずに教えるしかないわよね。私も手本はなく練習を始めたからハリーだってきっと出来るわ。むしろ、ハリーには吸魂鬼ディメンターに似せたものの方が必要かも。そうしたらイメージがしやすいもの。私も練習する時は黒い布を使って吸魂鬼ディメンターに見立てて練習しているの」
「なるほど。それならいい候補がある。考えてみよう」

 それから夕食は大広間で食べようと話し合うと、私は昼食を終え、また図書室に舞い戻った。私が午後になって早々図書室に戻ると、マダム・ピンスは「またこいつか」というような顔をしたけれど、しばらくすると私のことは気にしないことに決めたらしい。いつの間にか書棚の奥に引っ込んで姿が見えなくなった。

 途中、スリザリン生が1人やって来た以外は誰も図書室には訪れず、私は何時間もの間図書室を独占し、情報収集に没頭した。午前中はヒッポグリフの生態を事細かに書き出したりしたので、午後は魔法生物の裁判記録を探すのに精を出した。これがまたかなり大変で魔法生物が勝訴した記録がほとんど見つからず、結局午後のほとんどの時間、私は本に埋もれてうんうん唸るだけだった。

 夕食の時間が迫ってくると、私はその日の作業を終えることにした。とても迷惑そうな顔をしたマダム・ピンスに頼んでなんとか調べ途中の本を取り置いて貰うと、大広間へと向かう。これから私にはシリウスの夕食を頂戴するという重大なミッションがあるのだ。休暇中は人が少なくこっそり食べ物を持ち出すのが難しいので、夜食だと言って堂々と持ち出すしかないだろう。それも無理なら夕食後、厨房に直行だ。

 大広間にはもう私以外の全員が揃っていた。昼食の時には早々にやってきてすぐにリーマスの私室に向かったので気付かなかったけれど、今年の居残り組は私を含めて7人しかいないらしい。ハッフルパフの1年生が2人に、午後に図書室にやってきたスリザリンの5年生が1人、それからハリー、ロン、ハーマイオニー、私である。

 生徒達はそれぞれ自寮のテーブルに座って夕食を食べているようだった。1年生達はハッフルパフのテーブルのところで向かい合って食べていて、スリザリン生はスリザリンのテーブルで1人で、それからハリー、ロン、ハーマイオニーはグリフィンドールのテーブルで食べている。教職員テーブルのところにはリーマスの姿も見えたが、何かと私を監視しているスネイプ先生はまだ来ていないようだった。

 本来なら私もレイブンクローのテーブルに行くべきだろうけれど、これだけしかいないのだから、休暇中は自寮じゃないところで食べても誰も文句は言われないだろう。そう考えると私はレイブンクローではなく、グリフィンドールのテーブルの方に足を向けた。ハリー達は真ん中辺りで食べていて、ハリーとロンが隣同士に、その向かい側にハーマイオニーが座っている。

「こんばんは、みんな」

 ハリー達のそばに立つと私はにこやかに挨拶した。

「休暇中は、私もここで食べていいかしら?」
「ハナ! やっと会えたわね!」
「もちろんいいよ。これだけしかいないしね」
「1人で食事じゃ寂しいもんな。どうせなら夜もグリフィンドールに泊まれたらいいのに」
「それ、とっても素敵だわ」

 ロンの提案にニッコリ笑うと、私はハーマイオニーの隣――ハリーの向かい側――に座った。テーブルの上には普段に比べると大分控えめな量の食事が並べられていて、私はまず小鍋に入っているスープを器に盛った。夜はレンズ豆のスープだ。昼間もそうだったけれど、ホグワーツでは飲むというよりは食べるスープが多くて、具沢山なところが私は好きだった。

「そうだ。ハナもハグリッドの所に行ったのよね?」

 食べ始めて少しして、こんがり焼かれたお肉にソースをたっぷりかけながらハーマイオニーが訊ねた。

「私達も昼ごろにハグリッドの所に行ったの」
「それじゃあ、入れ違いだったのね。例の手紙の話は聞いた? バックビークの事情聴取ですって。でも、話を聞く限りだと有罪ありきの裁判ね」
「うん、僕達も聞いたよ」
「ハグリッド、すっかり落ち込んじゃってたな」

 それから私達の話題はバックビークの裁判一色になった。そこで私が今日1日図書室に籠って本を読み漁っていたのだと話すと、どうやら3人も裁判の手伝いをするつもりだったらしく、明日から図書室で一緒に調べることとなった。4人いれば調べられる本の量もグッと上がるだろう。有力な記述も見つかりやすいかもしれない。

 ハリーとロンとハーマイオニーといえば、私は昨日の三本の箒での出来事のあと、ロンとハーマイオニーがどうしたのか気になったけれど、この場で確認することは出来なかった。ハリーが何も言わないところを見るに、昨日ロンとハーマイオニーが盗み聞きした話はまだ聞いていないのだろうか。それとも私には三本の箒での件を話すつもりが無いのだろうか――。

 前者だったらいいのだけれど。私はそう思いつつ、ハリー、ロン、ハーマイオニーとの夕食を楽しんでいた。