The symbol of courage - 018

3. はじめてのホグワーツ生活



 待ちに待った休日がやってきた。
 この1週間ですっかり疲れてしまったのか、同室の3人は今朝はのんびり寝ているというので、私はホグワーツに入学してから初めて1人で大広間に向かうことになった。授業のある日の朝は生徒達でごった返している大広間は同室の子達のようにゆっくりしている人が多いのか、今朝は疎らでグリフィンドールの席にもハリー達の姿はなかった。

 この土日は図書室に通い詰め、早めに宿題を終わらせたあとは変身術について勉強する予定だ。宿題は毎日授業が終わったら談話室でしていたんだけれど、教科書だけでは補えない部分があるので仕上げを図書室でしようと思っているのだ。元の世界ではこんなに真面目ではなかったけど、私は1週間目にして早くもガリ勉の称号を得ようとしている。「私がガリ勉になったのはヴォルデモートのせいよ」とは口が裂けても言えない。

 軽めの朝食を済ませたあとは、予定通り図書室に直行した。今日は既にポシェットを持って来ているので、その中に勉強道具を色々と詰め込んできた。この週末でしっかり勉強したら、来週からは魔法の特訓を徐々に始める予定にしている。どこで特訓するかはもう決まっている――必要の部屋だ。

「あの、魔法薬学と薬草学の宿題で参考になる本を探しているんですが――この範囲です」

 ホグワーツの広い図書室を取り仕切っているのは、マダム・ピンスという魔女だった。司書だという彼女は図書室内でのお喋りなどにはとっても厳しいらしいのだけれど、質問すると早々と図書室に訪れた私に驚きつつも丁寧に本を見繕ってくれた。

 マダム・ピンスには人気ひとけの少ない席はどこなのか訊ねることにも成功した。彼女は私が朝早くから図書室を訪れるガリ勉生徒だと判断したようで、図書室の奥の席を教えてくれた。そこは歴代のホグワーツ生の名前を記録した本が年代順に並べてあるエリアで、なるほど確かにここなら人があまり来ないだろうと納得した。

 本が良かったのか、それとも席が良かったのか、はたまた朝の静かな時間に訪れたのが良かったのか――宿題の仕上げは考えていたよりも早くに終わった。次は変身術の勉強だ! と喜び勇んで立ち上がると、私は羊皮紙はそのままに、本を抱えて一旦その場を離れた。本を戻して次は変身術の本をゲットするのだ。

 マダム・ピンスがどの書棚から本を取ったのか分からなかったので、私はキョロキョロしながら彼女の姿を探した。すると、私の目の前から同じようにキョロキョロしながら歩いてくる女の子の姿があった。ふさふさの栗毛にグリフィンドールのローブを着た――

「ハーマイオニー!」

 そう、ハーマイオニーだった。彼女は既に何冊かの本を抱えていたが、まだ何か本を探しているようだった。マダム・ピンスに怒られない程度の声量で声を掛けると、ハーマイオニーは私を見てパッと笑顔を見せた。ハーマイオニーってとっても可愛い!

「ハナ! 汽車で会った時以来ね。マクゴナガル先生が貴方がとても優秀だって話していらっしゃったから、私話がしたかったの」
「優秀だなんて、そんな。でも、嬉しいわ。私もハーマイオニーとは話がしたかったの」

 私もにっこり笑ってハーマイオニーに応えると、彼女も嬉しそうに笑みを深くした。『賢者の石』の映画を観たときから思っていたけれど、本当に可愛い女の子だ。私が男の子だったら、絶対恋に落ちているだろう。

「ここじゃマダム・ピンスに怒られてしまうから、またどこかで話しましょう。ところで、その本はまだ使う?」
「いいえ、返却しようと思っていたところなの」
「良かった! 私、探していたの」

 ハーマイオニーに本を渡すと彼女は「また今度!」と言って空いている席へと向かってしまった。私はそれに手を振って見送ると、変身術の本を探すべくまたキョロキョロしながら図書室内を歩き始めた。えーっと、変身術、変身術……。

「あ、あったわ!」

 ようやく変身術の書棚を見つけて私は立ち止まった。流石に動物もどきアニメーガスに関する本は一般書架には置いていないだろうけれど、基礎を勉強するだけならここにある本で十分事足りるだろう。

 ダンブルドアは私がこっそり動物もどきアニメーガスになる勉強をしていると知ったらどう思うだろう。でも、これはとても必要なことなのだ。手引き書があるからやってみようと思ったのではない。私が動物もどきアニメーガスになれたら、シリウスがアズカバンから脱獄してきたあともホグワーツでこっそり会うことが出来ると思ったからだ。

 これは友人の影響としか言わざるを得ないが、何を隠そう私は映画を観たことも原作を読んだこともないくせに『アズカバンの囚人』の内容には詳しい。シリウスが脱獄後時にはネズミを捕まえて食べていたことも知っている。「私なら絶対シリウスに食べ物を届けるのに!」と友人は熱く語っていたが、届けるには動物の姿の方が怪しまれないだろう。それに、動物もどきアニメーガスになれたら、満月の夜、リーマスと一緒にいてあげられることが出来る。彼は今1人なのだ。どこにいるか分かるなら手紙を書けるのに――

 そんなことを考えながら本を1冊、また1冊と手に取っていく。低い位置にある本は難なく取れるのだけれど、書棚は11歳の身体になった私より高くて、1番上にある本は取れそうになかった。1番上にある本が良さそうなんだけど。

「うーーん、と、取れない……!」

 爪先立ちをして、手を目いっぱい伸ばして取ろうとしてみたけれど、無駄な足掻きだった。マダム・ピンスにまた頼んだ方がいいかもしれない、と考えていると、

「これかい?」

 横から手が伸びてきて、私が読みたかった本はあっさり抜き取られた。見てみると、黒髪に灰色の目の男の子――しかも芸術品級イケメン――が隣に立っていた。どこかで見たことがある顔だ。確か、

「貴方、マダム・マルキンの店にいた……!」

 そう、あの私の赤っ恥現場にいた男の子だ。きっとそうだ。会いたくないと思っていたのにまさかこんなに早く遭遇するなんて!

「ハッフルパフのセドリック・ディゴリーだよ」

 そんな私の様子にクスクス笑いながら、彼はこちらに本を差し出した。