The ghost of Ravenclaw - 133

15. 秘密だらけのホグズミード

――Harry――



「フレッドもジョージも、なんでこれまで僕にくれなかったんだ! 弟じゃないか!」

 忍びの地図に関する一部始終を聞いたロンはカンカンだった。フレッドとジョージがこれまで「成功の秘訣」を弟である自分に何1つ打ち明けなかったことが信じられないといった様子で怒りを露わにしている。けれども、だからと言って「地図は僕が持つべきだ」と主張してハリーから取り上げようとはしなかった。

 逆に取り上げたがっているのはハーマイオニーの方だった。ハリーに地図を持っていて欲しくない様子で、話を聞くなり、このまま地図を所持し続けるなんてバカバカしいとばかりに「マクゴナガル先生にお渡しするわよね?」と言ったのだ。これにはハリーもすぐさま断固拒否の姿勢を取ったし、カンカンになっていたロンも怒りを忘れてハーマイオニーを見た。

「気は確かかよ? こんないいものが渡せるか?」
「僕がこれを渡したら、どこで手に入れたか言わないといけない! フレッドとジョージがちょろまかしたってことがフィルチに知れてしまうじゃないか!」

 ハリーは折角譲って貰った地図を手放したくなかったのもそうだが、何よりフレッドとジョージを裏切る真似はしたくなかった。それに、2人はハリーを元気づけようとして譲る決意をしてくれたのだ。にもかかわらず、あっさりと裏切るなんて出来るはずがない。ハリーが強い口調で反論するとハーマイオニーは憮然とした表情で口を尖らせた。

「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの? その地図にある抜け道のどれかを使ってブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ! 先生方はそのことを知らないといけないわ!」

 ハーマイオニーの言うことは尤もだ。でも――。

「ブラックが抜け道から入り込むはずはない」

 ハリーはすぐに言い返した。

「この地図には7つのトンネルが書いてある。いいかい? フレッドとジョージの考えでは、そのうち4つはフィルチがもう知っている。残りは3本だ――1つは崩れているから誰も通り抜けられない。もう1本は出入口の真上に暴れ柳が植わってるから、出られやしない。3本目は僕が今通ってきた道――ウン――出入口はここの地下室にあって、なかなか見つかりゃしない――出入口がそこにあるって知ってれば別だけど――」

 話しながら、ハリーは少しずつ自信がなくなってしまい、ちょっと口籠った。確かに7つの道のうち6本は通れないだろうが、残り1本であるハニーデュークスからの道をブラックが知らないとは限らない。もし知っていたとしたら、やっぱりこの地図をマクゴナガル先生に渡さないといけないだろうか? ハリーが考えていると、不意にロンがわざとらしい咳払いをして、店の出入口の扉の内側に貼りつけてある掲示物を指差した。



 魔法省よりのお達し
 お客様へ

 先般お知らせいたしましたように、日没後、ホグズミードの街路には毎晩吸魂鬼ディメンターのパトロールが入ります。この措置はホグズミード住人の安全のためにとられたものであり、シリウス・ブラックが逮捕されるまで続きます。お客様におかれましては、買物を暗くならないうちにお済ませくださいますようお勧めいたします。

 メリークリスマス!



 そこにあったのは、吸魂鬼ディメンターによるパトロールのお知らせだった。これまでハリーは知らなかったが、ホグズミードでは夜間に吸魂鬼ディメンターがウロウロしているらしい――なるほど、これでは夜間にこっそりハニーデュークスに忍び込もうとしてもブラックはすぐに見つかってしまうだろう。

吸魂鬼ディメンターがこの村にわんさか集まるんだぜ。ブラックがハニーデュークス店に押し入ったりするのを拝見したいもんだ。それに、ハーマイオニー、ハニーデュークスのオーナーが物音に気づくだろう? だってみんな店の上に住んでるんだ!」
「そりゃそうだけど――でも――ハナにだけ印がついてるっていうのも気になるわ。もしもその地図がリドルの日記みたいなものだったらどうするの?」

 ハーマイオニーが心底心配そうな顔をして言った。

「考えすぎだよ、ハーマイオニー。それに、仮にそうだとしたらフレッドとジョージが持ってた間にとっくに何か起こってるはずだ。でも、実際には何も起こってない。だろう?」
「でも、印って誰かがハナをすぐ見つけられるようにつけたに違いないわ。ホグワーツに現れたらひと目で分かるようにしたかったのよ。それって、例のあの人にハナが狙われているのと関係があるって思わない?」

 確かに「好みの女の子に印がつく」よりハーマイオニーの意見の方が尤もらしく聞こえた。でも、だからと言ってこの地図をマクゴナガル先生に渡したら一体どうなるだろう? フレッドとジョージはとんでもなく叱られるだろうし、最悪退学になってしまうかもしれない。それに、それに――。

 ハリーは先程ハナの名前がセドリックの名前と共に校門を抜けていくのを思い浮かべた。あれはきっとハナがセドリックと離れるのを考え直したということだ。2人の間に何があったのか分からないけど、セドリックは諦めないって話していたし、もしかしたら話し合って離れるのをやめにしたのかもしれない。それなのに、印のことを知ってしまったら、ハナはどう思うだろう?

「ハナは印の件、どう思うだろう?」

 ハリーはポツリと呟くように言った。

「僕、ここに来る前に地図でハナがセドリックと一緒にいるのを見たんだ。仲直りしたんじゃないかって思うけど、もし僕が先生に地図を渡してこの件がハナの耳に入ったりしたら、また離れそうとするんじゃないかって思うんだ」

 ハリーの言葉に、ハーマイオニーはいろんな感情がごちゃ混ぜになったような奇妙な表情をした。

「そうかもしれない――」

 ややあって、ハーマイオニーは答えた。

「でも、ねえ、ハリー。ハナの件は抜きにしても、ハリーはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインをもらっていないんだから! 誰かに見つかったら、それこそ大変よ! それに、まだ暗くなってないし――今日シリウス・ブラックが現れたらどうするの? たった今?」

 ハーマイオニーはなんとしてでもハリーがこっそり城を抜け出してホグズミードを彷徨うろつくのを阻止したいようだった。特に今日のハリーはフレッドとジョージから話を聞いてすぐにハニーデュークスへやって来たので透明マントを持っていなかったからだ。しかし、ロンが窓の外を顎で指し示すととうとうハーマイオニーは黙り込んだ。

「こんな時にハリーを見つけるのは大仕事だろうさ」

 いつの間にか外が吹雪いていたのだ。これでは流石にブラックも現れないだろうと納得したのか、最終的にはハーマイオニーも今日限りという条件付きで、ハリーがホグズミードを楽しむのを許してくれた。

 ロンとハーマイオニーが買い物を済ませるのを待ってから、ハリーは2人と一緒に店を出てホグズミードを歩き始めた。クリスマス・ムード一色になったホグズミードはまるでクリスマス・カードから飛び出して来たようで、どこもかしこもキラキラ光る雪ですっぽりと覆われている。

 これで吹雪でなければもっと景色を楽しむ余裕があったのに――ハリーはガタガタ震えながらそう思った。ロンとハーマイオニーはマントやマフラーをしているが、ハリーは着の身着のまま出て来てしまったので、マントも何も着ていなかったのだ。風が容赦なく吹き付けて、体中が凍りつきそうなくらい冷え切っている。

「あれが郵便局――」
「ゾンコの店はあそこ――」
「叫びの屋敷まで行ったらどうかしら――」

 ハリーほどではないものの、ロンとハーマイオニーも寒さでガタガタ震えていた。やがて、このままホグズミードを回るのは無理だと判断したロンが、歯をガチガチ言わせながら言った。

「こうしよう。三本の箒まで行ってバタービールを飲まないか?」