The ghost of Ravenclaw - 129

15. 秘密だらけのホグズミード



 クリスマスのホグズミードは、10月に来た時とはまた違った雰囲気だった。小さな家や店が雪にすっぽりと覆われ煌めいていて、どの戸口にも柊のリースが飾られている。通りに並ぶ街路樹には、魔法でキャンドルがくるくると巻き付けられ、揺らめく炎が幻想的だ。

「うわあ、クリスマスは一段と素敵ね」
「大きなツリーを置いている店もあるんだ」
「見てみたいわ!」
「三本の箒にも飾られてるからあとで見れるよ」

 馬車を降りると、私とセドリックはメインの通りを進み、生徒で溢れかえっているハニーデュークスの前を過ぎ、まずは「バットワーシー雑貨店」へ向かった。ホグズミードの一画にあるこの店は、雑貨店というだけあって魔法界ならではの小物に溢れている。私達が入店すると既に何人かの生徒がクリスマス・プレゼントを選んでいて賑わっていた。

 この店を訪れたのはチャームとミニチュア箒のラッピングの材料を買うためだった。ラッピングを買うならこの店が一番いいとセドリックが勧めてくれたのだ。店内を進んでいくと、隅の方に専用のコーナーが設けられていて、ラッピング用の小箱や魔法が掛かったリボン、イラストが動き回るカードが置かれていた。

「ピカピカ光る魔法のリボン――小さな星がたくさん輝いててとっても可愛いわ。でも、ちょっぴり女の子向けね」
「こっちに箒がリボンの中を飛び回るやつがあるよ」
「That’s awesome! それ、最高だわ!」

 金色に輝く箒が縦横無尽に飛び回る黒地のリボン、それから落ち着いたワインレッドを思わせる色合いの小箱の他にクリスマス・カードを何枚か購入すると、私達は店を出た。暖かな店内から一歩外に出ると風が強くてとても寒く、おまけに雪も強くなってきているようだった。私はマントをしっかりと体に巻き付けて通りを歩き、セドリックと2人でさまざまな店に入った。

 「ドミニク・マエストロ音楽店」は、ジャズが流れる落ち着いた雰囲気のお店で、目立つところにクラシカルな蓄音機が置かれていた。マホガニー製の台座に50センチはあろうかという大きなラッパが取り付けられている。店内には楽器はもちろんのこと、私の知らない魔法界の歌手のアナログレコードが所狭しと並べられていた。電化製品は魔法だらけの場所だと軒並み壊れてしまうので、魔法界ではアナログレコードが主流なのだろう。

 「トムズ・アンド・スクロールズ」は小さな本屋だった。天井まである書棚の中にぎっしりと本が並べられていて、ホグワーツの図書室と同じような紙の匂いがした。私とセドリックはこの店でシリウスの暇つぶしになりそうな分厚い本を1冊ずつクリスマス・プレゼントに選んだ。因みにシリウスの話をする時は夏休みにも使った偽名である「バレン」と呼ぶようにしている。万が一聞かれでもしたら困るからだ。

 「スピントウィッチズスポーツ用品店」は、クィディッチ関連の商品がたくさん売られている店だった。私がハリーにプレゼントしたゴーグルもあったし、試合で着けるグローブや、観戦用の双眼鏡などもあった。箒を手入れする道具もひと揃えあり、セドリックはそれを欲しそうに眺めていた。

 「スクリビュルス筆記用具店」は、文房具のお店だった。羽根ペンやインク、羊皮紙なんかが取り揃えられている。私はそこで少なくなっていたインクや予備の羽根ペンを買い足し、リーマスにもインクと羽根ペンを買っていくことにした。リーマスはクリスマスの日にやってくる満月の夜に向けて、そろそろ脱狼薬も飲み始めなければならないので、あとでチョコレートも買っておくべきかもしれない。

 「スクリベンシャフト羽根ペン専門店」も文具店だけれど、文字通り羽根ペン専門の店だった。あらゆる羽根ペンが売られていて、通常の使うものから大鷲の羽根ペン、高級なものだとグリフィンやサンダーバードなどという珍しい魔法生物のものまで売られていた。その中で一際鮮やかな色をした孔雀の羽根ペンを見つけて、私はダンブルドア先生のプレゼントにすることにした。先生ならきっと気に入るだろう。

 「ゾンコの悪戯専門店」の前にはド派手なツリーが飾られていた。ツリーを彩るオーナメントは店で売られている悪戯グッズ達で花火がバンバン音を立てている。私もセドリックもその奇抜なツリーにひとしきり笑って、そのツリーの前で写真を撮った。

「吹雪いてきたわね」
「本当だ。早めに三本の箒に行こうか」
「賛成! 行きましょう」

 写真を撮って少しすると、とうとう吹雪出して、私とセドリックは三本の箒に向かうことにした。強い風が容赦なく吹き付けてきて、顔をマフラーに半分埋めても寒いくらいだ。けれど、危ないからとセドリックに手を取られると途端に寒さが気にならなくなってしまった。顔が赤くなっていないことを祈るばかりである。

 そうして辿り着いた三本の箒は既に多くの人々で賑わっていた。通常の飲食スペースには生徒達がたくさんいたし、バースペースには魔法戦士のような風貌の魔法使い達が座っている。壁際に設けられているカウンターの奥にはマダム・ロスメルタがいて、忙しそうに客の注文に応えていた。

 店の奥にある暖炉の脇にはゾンコの店とは違った雰囲気の見事なクリスマス・ツリーが飾られていた。色とりどりのオーナメントで飾り付けられ、魔法でキラキラと輝いている。本来なら多くの人達がそのツリーのそばに座りたがるだろうと思ったけれど、窓際に近い位置に置いてあるせいか、その辺りの席は比較的空いているようだった。どうやら窓から漏れる冷気で寒いようだ。私達もなるべく寒くないようにと、そのツリーから少し離れた所にあるテーブルに着いた。

 席を確保するとセドリックがカウンターで熱いバタービールと軽食を買ってきてくれた。戻ってきたセドリックの手には大きなジョッキに入ったバタービール2杯にフィッシュ・アンド・チップスの大皿だけでなく、瓶入りのバタービールを3本も抱えられている。

「テイクアウト用に瓶があるんだ」

 テーブルの上に買ったものを載せながらセドリックが言った。

「これがあれば、バレンとパーティーが出来ると思って買ってきたんだ。僕は休暇中、家に帰ることになってるから、今夜にでも」
「素敵だわ。それじゃあ、今夜は厨房に忍び込んでチキンも貰いましょう。彼が好きなの」
「いいな。僕、一度でいいから厨房に入ってみたかったんだ」

 顔を見合わせてニッコリ笑い合うと私とセドリックはジャッキを掲げて乾杯した。泡立った熱いバタービールは今日のような日にはピッタリで、一口飲むと体の中からじわじわと温まるのを感じた。フィッシュ・アンド・チップスも出来立てほやほやで、何よりマダム・ロスメルタお手製のソースがとても美味しかった。

 私達が三本の箒にやってきて少しすると、店の扉が開いて一際冷たい風が店内に吹き込んで来た。見てみると、マクゴナガル先生とフリットウィック先生が、吹雪から逃れるように店内に入って来るところだった。そのすぐ後ろにはハグリッドの姿があり、誰かと夢中になって話している。

「ファッジだ」

 セドリックも気付いたのか、声を潜めて言った。

「本当だわ。どうしてホグズミードに来たのかしら?」
「何かあったのかもしれないな。話を聞いてみよう」
「ええ。そうしましょう」

 先生達とファッジはバースペースの方に向かうようだった。私達はこっそりそちらの方へテーブルを近付けると、4人の方へ背を向けるようにして座り直した。そうして、4人がテーブル席に着く音が背後から聞こえると、案の定シリウスに関する話が聞こえてきて、私とセドリックはお互い顔をしかめたまま耳を澄ませた。