The ghost of Ravenclaw - 128

15. 秘密だらけのホグズミード



 ホグズミード休暇のお知らせが談話室の掲示板に貼り出されたのは、あの真夜中の密会が明けてすぐのことだった。学期の最後の週末にホグズミード行きが許されたとあってハリー以外の子達はみんな大喜びである。

 今回は前回と違って、掲示が貼り出されてすぐに同室の子達やハーマイオニーが私のところにやった。前回セドリックと行かなかったことを覚えていたのだろう。みんな「一緒に行こう」と誘ってくれたけれど、私はそれらを丁寧に断った。既に約束していたからだ。しかし、彼女達には誰と約束したのかは話さなかった。セドリックと行くのだと言ったら女の子達がどういう反応をするか、目に見えているのだから。

 それでも私はあの日以降、再びセドリックと良く会うようになった。図書室のいつもの席はもちろんのこと、最近では夕食後にもこっそり会っている。セドリックが持ち出してきた夕食を受け取るためだ。セドリックは毎晩のように寮を抜け出して禁じられた森へやって来ることこそしなくなったものの、こうして陰ながらサポートしてくれている。不安はやっぱり付き纏うけれど、心強い味方だった。

 私は、あの日の翌日こそ休んだものの、守護霊の呪文の練習も毎朝変わらずにしている。最近ではなんと煙草の煙のようだった頼りなげなもやが大きくなり、何やらぼんやりと動物の形になり出した。それをシリウスに大喜びで報告したら、シリウスがニヤニヤし出したので私はこの話題をシリウスに話すのはやめにした。シリウスはセドリックの件で私の幸福感が増したと考えているのだ。しかも実際そうだから否定出来なかった。私は、不安以上にセドリックの気持ちがとても嬉しかったのだ。

 ミニチュア箒作りも順調だった。小さな箒はあともう少しで完成というところまできていて、次のホグズミード休暇の際にはラッピングの材料を選ぶ予定にしていた。ミニチュア箒はセドリックも完成を楽しみにしていて、ラッピングを選びたいのだと話したら快く頷いてくれた。

「ハナと行くならどこだって楽しいよ」


 *


 秋学期の残りは比較的穏やかに過ぎていった。
 城内は次第にクリスマスに彩られていき、至るところにオーナメントが飾りつけられた。レイブンクローの寮監であるフリットウィック先生は特に大張り切りで、誰よりも先に自分の呪文学の教室を飾り付けていた。その飾りというのが本物の妖精だったと知った時には誰もがギョッとした。ハロウィーンの時も本物のコウモリが大広間に飾られたが、魔法界というのは本物を飾るのが好きらしい。

 そんなクリスマスムード一色になった秋学期最後の土曜日にやってきた第2回のホグズミード休暇の朝は、ベッドから抜け出したくなくなるほどの寒さだった。スカイブルーのケワタガモの羽毛布団からちょっぴり顔を出しただけでも、窓から漏れる冷気で震えてしまうほどで、布団から抜け出して着替えを済ませるのにかなりの時間を要した。

 ようやく抜け出して閉め切られたカーテンの隙間から外を覗いてみると、なんと雪がちらついていた。どおりで寒いはずである。この分ではホグズミードはかなりの寒さになるだろう――私は自分の私服を引っ張り出してベッドの上に広げると、あれやこれやと今日の服装について悩み始めた。おしゃれ且つ暖かな服装をしなければならない。セドリックと一緒に歩くのだ。変な服装だけは出来ない。

 軽く運動をしてから着替えを済ませると、寮を抜け出して必要の部屋へと向かった。ホグズミード休暇の朝といえども守護霊の呪文の練習は欠かせない。やっと銀色のもやがそれっぽい大きさになってきたのだ。早くちゃんとした動物の形を作れるようになって、シリウスやリーマスに披露したかった。ただ、流石に高等な魔法なので、そう簡単に行くわけもないのだけれど。

 同室の子達が朝食を食べに大広間に行く時間になるまで練習を続けあと、必要の部屋を抜け出して大広間に向かった。3年生以上の生徒達は誰もが出掛ける準備バッチリで朝食の席に着いていて、今日はまずどこから回るかと楽しそうに話している。同室の子達も同じようにウキウキした様子で、私がリサの隣に座ると丁度、マダム・パディフットの店に行ってみようと話しているところだった。

「マダム・パディフットの店っていったらあのピンクのお店よね?」

 トーストを手に取り、バターを塗りながら私は訊ねた。

「そうそう。そのお店よ。内装はとっても派手だけど、紅茶の種類が豊富でこの時期だとホット・フルーツ・ティーがとても美味しいらしいの。りんごとかオレンジとかたくさん入ってるんですって」
「それにスイーツも! 大鍋ケーキがこの時期だけ、フォンダンショコラのようになってて、中に温かいチョコレートが入ってるんですって」
「軽食もあるのよ。具沢山のスープ!」

 それはとても美味しそうだ。同室の子達が口々に教えてくれるのを聞きながら私は「いいわね」とニッコリした。ピンクを基調にした派手な内装でも訪れる人達が多いのは紅茶やスイーツや食事が美味しいからだろう。特にカップルには大ウケで、店内はイチャイチャしているカップルで溢れているらしい。

 朝食を食べ終えると、一旦寮に戻り冬用マントやマフラー、手袋、ニット帽と防寒対策を完璧に整えた。足元も寒くないようにタイツの上から靴下を履き、更にブーツを履く念の入れようだ。これで雪のちらつく中外を歩いても震えることはないだろう。

 待ち合わせの時間が近づいてくると、ポシェットを持って少し早めに玄関ホールに向かった。ハロウィーンの時と同じように樫の木の玄関扉の横には長いリストを持って城から出ていく生徒達を入念にチェックしているフィルチさんの姿がある。ミセス・ノリスは今日は別行動なのかこの場にはいなかった。

「おはよう、セド」
「おはよう、ハナ。寒いね」
「本当に。三本の箒でバタービールを飲まなくちゃ」
「いいね。あとで行こう」

 少し早めに行ったというのに、セドリックはもう既に待っていてくれていた。セーターにジーンズ、それから冬用のマントという出立だ。マフラーはもちろんハッフルパフのもので、きっちりとワンループ巻きにされている。

「セド、寒くない?」
「大丈夫だよ。セーターの下にも着込んでるんだ。ハナの方こそ大丈夫かい?」
「ええ、私も着込んで来たの。バッチリよ!」

 ホグズミードへはセストラルがく馬車での移動だ。フィルチさんのチェックを無事に通り抜け、玄関ホールを出るとたくさんの馬車が待機していて、生徒達が次から次へと乗り込んでいる。私とセドも馬車待ちの生徒の列に並んでから、馬車に乗り込んだ。

 私達が乗り込むと馬車は前方の馬車に続いて動き始めた。校庭を進み、吸魂鬼ディメンターが見張る校門を身を隠して通り抜けると、ガタゴト揺られながら私はようやくひと心地着いた。元の姿のまま吸魂鬼ディメンターの横を通るのはどうも苦手だ。

「大丈夫だった?」

 校門を抜けてしばらくして、セドリックが気遣わしげに言った。

「ええ、離れたら平気よ。ありがとう――そうだ。今日、カメラを持ってきたの。それで、良かったらあとで、あの、一緒に撮りましょう」
「もちろん。どこか景色のいい場所で撮ろう」

 それからも私達はホグズミードに着くまでどこを回るかとあれこれ話をした。セドリックはいつも以上にニコニコしていて、私はそんな彼の隣になんだかフワフワした気分のまま座っていたのだった。