The symbol of courage - 017

3. はじめてのホグワーツ生活



 私とダンブルドアのお茶会は、この1週間の授業のことや寮での生活のことなどの話題から始まった。変身術で加点を貰ったことを話すとダンブルドアは「わしも変身術の先生だったんじゃよ」と嬉しそうにしてくれたし、同室の子達がとてもいい子達だと話すとニコニコしながら二、三度頷いてくれた。

 もちろん、魔法薬学についても話した。スネイプ先生が組分け儀式の時に私を見て驚いた顔をしたこと、何故だか私に特に厳しいのでジェームズ達と仲が良かったのを覚えているのではないかということ――告げ口みたいな感じでちょっと気乗りはしなかったが、確認しなければならないと気になることや考えていることを事細かに話した。

「ハナの推測通り、スネイプ先生は君のことを覚えている可能性は高いじゃろう。まさか本人だとは思うておらぬじゃろうが、あの時見た少女の娘くらいには思っているかもしれぬ」

 ダンブルドアは少し考え込んだあと、まっすぐに私を見てそう言った。

「以前、ミスター・ポッターがわしに、スネイプ先生がハナのことを探ろうとしているからどうしたらいいか、と相談に来たことがあった」
「そんなことが……?」
「あの最後の日の数ヶ月後のことじゃ。スネイプ先生はどうやらミスター・ポッター達と特に仲が良さそうなレイブンクロー生が退学になったと考えているようじゃった。そのような事実はないと直接話をしたのじゃが、彼はずっと不審に思っているようじゃた」

 それからダンブルドアは、夏休みに会ったときには話さなかったこともいくつか教えてくれた。あの日私が消えたあと、ダンブルドアはジェームズ達に一切の口外を禁じたそうだ。友達だったピーターにすら私の話をすることを禁じられたのだ。それでも3人は、破れぬ誓いを立ててもいいとすら言ったらしい。

 破れぬ誓いとは、誓いを破ったら死ぬという一種の呪いのようなものだそうだ。ダンブルドアは3人のその決意だけで十分だと言ってそこまではしなかったらしいが、3人は本当にピーターにも私の話をしなかったらしい。もし聞かれたとしても「レイブンクローの幽霊は最近出ていない」と答えていたそうだ。

 それは、私のことを詮索していたスネイプ先生にも例外なく適用されていた。ジェームズ達はスネイプ先生に私の名前は明かさぬようダンブルドアからきつく警告されていたそうだ。だとしたら、スネイプ先生が私を娘だと勘違いするのも無理はない。ダンブルドアにヴォルデモートの例の魔法――召喚魔法というらしい――について話されていないのなら、尚更だ。瓜二つの人間が現れたので思わずぎょっとしたのかもしれない。

 それに、その話が本当ならピーターは私についてほとんど何も知らないと言うことになる。けれど、レイブンクローの幽霊がハナ・ミズマチという名前だということは、口止めされる以前にきっと聞いたことがあるだろう。ホグワーツ特急の中で私に怯えていたのは、ただ単に睨まれて怖かったのか、それとも以前ジェームズ達から聞いたことのある名前と同姓同名の人間が自分を睨んでいたから何かを悟ったのか――

「ただ1人、例外はリリー・ポッターじゃった」

 ピーターについて考えを巡らせていると、ダンブルドアがそう言った。

「ミスター・ポッターが君の後見人に名乗りを上げたとき、彼女にだけは事情を説明する決心をした。彼女は君の身の上をとても心配しておった」

 私は、それまで考えていたことを頭の隅に追いやり、一度だけ会ったことのある彼女に思いを馳せた。たった一度だけ会っただけの私に向けてくれた優しさに、私は応えることが出来るだろうか。もっと勉強してもっと強くなって、ハリーを守ることで彼女や彼らの恩に報いることが出来るのなら、私はきっと頑張れるだろう。こうして彼らの話を聞くたびに恩に報いたいと思う気持ちが強くなっていくのは、きっと、それだけ彼らが私に心を砕いてくれた証なのだろう。

 ダンブルドアは他にも自分が私の後見人だということを、先生方やハグリッドには話をしていることを教えてくれた。しかし、召喚魔法については誰にも話していないとのことだった。

 召喚魔法のことは当然だけれど、私は今まで誰にも後見人がダンブルドアだと話していなかった。秘密にすべきことに含まれると思ったのだ。けれど、どうやら後見人がダンブルドアだということは話しても構わないことだったらしい。だって、ダンブルドアはあのクィレルにもその話をしているのだから。自分の存在がヴォルデモートへの牽制に繋がると考えているのかもしれない。

「先生、今日はありがとうございました」
「実に有意義な時間じゃった。またおいで」
「はい、ダンブルドア先生」

 お茶会は2時間近くも続き、午後5時ごろにようやく終わりを迎えた。校長室を出て螺旋階段を降りながら私は、今日聞いた話を頭の中であれこれ整理をしていた。スネイプ先生は私の顔を知っていたが、私の名前を知らなかった。ピーターは私の名前を知っていたけど、私の顔は知らなかった。召喚魔法について知っているのはダンブルドアとジェームズ、シリウス、リーマス、そしてリリーの5人だけ。うーん、とってもややこしい。

 ヴォルデモートがピーターに私のことを話した可能性もゼロに違いない。なぜなら、召喚魔法が完成したのはつい最近――私がこちらにやってきた日に違いないからだ。その時ピーターはウィーズリー家でぬくぬくと過ごしていただろうし、召喚魔法について知っている人が他にいるとすれば、やはり休職中にヴォルデモートと出会い手先になったクィレルだろう。他は知らないはずだ。

 スネイプ先生については『賢者の石』ではハリーを助けてくれたのは知っているけれど、敵か味方か私にはまだ分からなかった。友人はスネイプ先生についてはあまり語ることはなかったからだ。リリーが好きだったらしいとか、ジェームズ達と仲が良くなかったことは知っているけれど――今は敵でも味方でもない、と考えていた方がいいかもしれない。

 そして私は考え込み過ぎて、その日の夜、スネイプ先生の夢を見てしまったのはここだけの話だ。