The ghost of Ravenclaw - 116
14. 真夜中の襲撃者
テントの外でガサガサと音が聞こえたその日の夜から、私とシリウスは辺りを警戒して慎重に会うようになった。万が一魔法省の人だったり、ホグワーツの先生の誰かだったり、ケンタウロスなど人の言葉を話す魔法生物だったりしたら大変なことになるからだ。そうなれば、この禁じられた森はあっという間に
しかし、警戒を始めてから数日経ち、11月末を迎えてもテントの周りにはなんの姿も見えなかった。時折草木がガサガサと揺れる音は聞こえるものの、外を覗いても何もいないのである。もしかしたら相手も目くらまし術を使っている可能性があるけれど、先日シリウスが話していた通りそれを確認するにはこちらのリスクが圧倒的に高いと言えた。確認に失敗すれば
根城を移動することももちろん考えた。けれども、移動中にバレる危険性があったので、それはやめることとなった。シリウス曰く何日か警戒していたが、犬と鷲が出入りしていても何のアクションも起こしてこないことから、ここ最近近くを
それから間もなく、11月最後の土曜日がやってくるとクィディッチの2戦目が行われた。今回対戦したのはハッフルパフとレイブンクローで、これは今最も注目されている対戦カードと言えた。なぜなら、この試合結果によってグリフィンドールが優勝争いに残るか外れるかが決まるからだ。レイブンクローが勝てば可能性は残るし、ハッフルパフが勝てばもう優勝の見込みはないだろう。
という訳で、前回100点差で負けてしまったグリフィンドールの寮生達の誰もがレイブンクローを応援していた。逆に普段からグリフィンドールと敵対することの多いスリザリンはハッフルパフの応援である。スリザリンからしてみたら、グリフィンドールが早々と優勝争いから外れてくれた方が嬉しいのだ。しかし、多くの生徒達がレイブンクローが優勢だろうと話していた。元々ハッフルパフには穏やかな性格の子が多く、争うことが苦手な子達ばかりだからだ。
試合は、開幕戦ほどではないが天気が悪く、雨が降りしきる中で行われた。この1ヶ月間、
結果は誰もが予想していた通り、レイブンクローの完勝であった。調子のいいレイブンクローに対し、ハッフルパフはどうしてだかセドリックの調子が悪く精細さを欠いていて、スニッチを掴むことが出来ずに大差で負けてしまったのだ。これにより、グリフィンドールはなんとか優勝争いから外れずに済んだものの、遠目から見たセドリックがなんだか疲れているように見えて私は心配になった。けれども、それを直接確かめることはもう叶わないだろう――それを望んだのは他でもない、私なのだから。
*
12月になると寒さが一段と厳しくなった。
冷たい隙間風が吹き込むホグワーツ城の廊下はもちろんのこと、地下も凍るような寒さで、私は例年の如くローブの中に何枚も着込んでなんとか寒さに耐えようとしていた。特にスネイプ先生の魔法薬学の授業は大変で、この間は手が
そんなスネイプ先生だが、どうやらシリウスの娘説を信じきっているようだった。相変わらず私を監視しているらしく廊下では度々スネイプ先生からの視線を感じたけれど、どういうわけかハロウィーン直後のようにあからさまにハリーと接触するのを邪魔したりすることはなくなっていた。このことについて真相を確かめてはいないものの、もしかしたらダンブルドア先生に釘を刺されたのかもしれない。
12月の2週目に入ると、フリットウィック先生がクリスマス休暇に寮に残る生徒は申し出るようにと言って、私は初めて居残りリストにサインをした。毎年クリスマスにはメアリルボーンの自宅に帰り、リーマスと過ごすのが常だったけれど、リーマスと話し合って今年はホグワーツに残ることを決めたのだ。帰ることも可能だったのだけれど、クリスマスには満月も重なっていたので、リーマスにとっては学校に残り脱狼薬を飲んだ方が良いだろうと結論づけたのだ。
レイブンクローでは今のところ居残るのは私だけのようだった。けれども、ハリーはもちろんのこと、ロンやハーマイオニーはホグワーツに残るようで、私達はお互い大喜びした。居残ることについてロンは「2週間もパーシーと一緒に過ごすんじゃかなわないからさ」と言ったし、ハーマイオニーは「どうしても図書室を使う必要があるの」と言い張っていたけれど、その実、ハリーのために残るのだと私もハリーもよく分かっていた。
「箒の柄の部分には縮小呪文を掛けた方がいいかしら? ヤスリで小さくすると折角のニンバスの塗装が全部ダメになってしまうもの」
「ああ、その方がいいだろう。先に小さくしてから切れ端をヤスリで整えたらチャームの時ほど時間が掛からずに済むかもしれない」
「じゃあ、そうしましょう。組立てはどうするのが一番いいかしら? 接着剤?」
「それもいいが、永久粘着呪文の方が確実だ。こいつを使うと絶対に剥がれない」
12月のある日の真夜中も、私は例のごとくシリウスのテントの中にいた。チャーム作りは11月末で無事に終わったもののまだミニチュア箒作りが残っているので、相も変わらずニンバスの欠片達と格闘する毎日である。特にミニチュア箒作りはチャーム以上に神経を使うので大変だったけれど、こういう細かい作業はシリウスが得意だったので、私は苦戦しつつもなんとか進められていた。この分だとクリスマスまでには完成するだろう。
「縮小呪文や永久粘着呪文は私が掛けよう。教えてもいいが、君はその前に早くこれを完成させて守護霊の呪文の練習に戻るべきだ。まだ完全に守護霊は出せていないだろう?」
ミニチュア箒に使えそうな欠片を選びながらシリウスが言って、私は眉尻を下げた。実を言うと毎朝必要の部屋に通い守護霊の呪文の練習をしたり、図書室で参考になる本を読んでみたりしているのだが、私の守護霊の呪文は最初のころから一歩も進歩していなかったのだ。出るのは煙草の煙のような頼りない
「毎朝練習してるけど全然進歩がないの。図書室で調べてもみたんだけれど、何のヒントも得られなかったわ。でも、その代わり面白い本を見つけたのよ」
先日図書室で見つけた守護霊の呪文に関する研究書のことを思い出して私は言った。あの時は途中で読むのをやめてしまったけれど、あれはなかなか興味深い内容だった。特に
「待て――何かいる」
テントの外で例の草木を掻き分けるようなガサガサという音がして、私とシリウスはほとんど同時にテントの出口に視線を向けた。ガサガサという音は遠くから次第にこちらに近付いてきて、もうすぐそばまで来ただろうと思うころピタリと止まった。
この音の正体を私達は一度も確認出来たことがなかった。大抵外を覗くとそこには何もいないし、それに目に見えない音の正体に何かされることもなかったので深追いしなかったのだ。現時点では動物が動き回っている可能性が高いと考えているのだが、正体を確認していないので、私達は音が聞こえると念のため慎重に確認するようにしていた。もし、私を疑っているスネイプ先生なんかが現れた日には最悪である。
「そっと覗くぞ」
私達は杖を手に息を潜めて出口に近付いた。テントを隠している目くらまし術の効果はテントの周囲まで及んでいるので、こうして覗くくらいなら相手にバレやしない。
「やっぱりいないわね」
そっと外の様子を
すると、茂みの向こうで何かが動く気配がした途端、見えない何かが頭上にスーッと飛んできたような奇妙な感覚に囚われた。目に見えないはずなのに、その何かの影に自分がすっぽり取り込まれていくのがはっきりと分かった。これは、まさか――。
「しまった。人現し呪文だ――ハナ!」
「シリウス……!」
次の瞬間、私とシリウスは見えない力に強く引っ張られていた。それはまるで巨大な掃除機が辺り一体丸ごと吸い込んでいるかのようだ。私達の体は何かに掴まることも踏ん張ることも出来ず、あっという間にテントの外へと投げ出された。ぬかるんだ地面に体が打ち付けられ、そして、
「……セド……」
私はこの時初めて、暗い森に潜んでいた音の正体を目の当たりにしたのだった。