The ghost of Ravenclaw - 110
13. はじめての敗北
――Harry――
月曜日の朝に、ハリーはようやく退院した。
朝食を食べに大広間に行くと早速ドラコ・マルフォイの冷やかしを我慢しなければならなかった。マルフォイはグリフィンドールが負けたことで有頂天になっていて、遂に包帯を取り去り、嬉々としてハリーが箒から落ちる様子を真似していたのである。しかし、それらを我慢している間、
1時間目の魔法薬の授業中もマルフォイはほとんどずっと
「D.A.D.Aを教えているのがスネイプなら、僕、病欠するからね」
午前の授業が終わり、昼食を挟んでもなお怒りを引きずっているロンがD.A.D.Aの教室に向かいながら言った。どうやらついこの間罰を与えられたばかりだと言うのに、今回50点も減点されてしまったことを根に持っているらしい――とは言え、ハリーも退院早々2回もスネイプの授業を受けるのは真っ平ごめんだったので、教室にルーピン先生の姿があった時には心底ホッとした。
ルーピン先生は本当に病気だったように見えた。目の下に隈が出来ているし、顔色もあまり良くはなく、まだ病気なのではないかとすら思えた。これで着ているローブが古いものであればルーピン先生はもっと見窄らしく見えただろうが、割と新しいきっちりとしたローブがなんとかそれを阻止していた。
授業が始まると、グリフィンドールの3年生達は前回の授業に対する不平不満をルーピン先生にぶちまけた。習っていない狼人間の授業をしたばかりか、代理だったのに羊皮紙2枚分も宿題を出すなんてあんまりだとクラスメイト達が一斉に口々に文句を言い出したのである。すると、「私からスネイプ先生にお話ししておこう。レポートは書かなくてよろしい」とルーピン先生が言ってくれて、ほとんど全員がそのことを喜んだ。唯一喜んでなかったのはハーマイオニーで、彼女だけががっくりと肩を落としていた(「そんなぁ。私、もう書いちゃったのに!」)。
その後の授業は予定通り、ヒンキーパンクについて習った。ヒンキーパンクは別名、おいでおいで妖精と呼ばれている生き物で、ルーピン先生はそれをガラスの箱に入れて持ってきていた。箱に入っているヒンキーパンクは一本足で、鬼火のように微かで儚げで害のない生き物に見えたが、実は旅人を迷わせて沼地に誘う悪い生き物なのだそうだ。
「ハリー、ちょっと残ってくれないか」
楽しい授業が終わり、荷物をまとめてみんなと一緒に教室を出ようとすると、ルーピン先生に声を掛けられてハリーは立ち止まった。何やらハリーに話があると言う。一体なんだろうかと戻ってみると、ルーピン先生は丁度ヒンキーパンクの入った箱に布を掛けているところで、ハリーはその作業が終わるのを大人しく待った。
「試合のことを聞いたよ」
布を掛け終え、クラスメイト達も教室から出て行くとルーピン先生が教卓に置いてある本を鞄に詰め込みながら言った。もしかしたらハナか他の先生達から話を聞いたのかもしれない。ルーピン先生は箒のことも聞いたらしく、「修理することは出来ないのかい?」と訊ねた。
「いいえ。あの木が粉々にしてしまいました」
もう少し形が残っていればなんとかなっただろうがあそこまで粉々になっては無理というものだろう。ハリーが答えると、ルーピン先生は残念そうに溜息を零した。
「あの暴れ柳は、私がホグワーツに入学した年に植えられた。みんなで木に近づいて幹に触れられるかどうか競い合ったものだ。終いにデイビィ・ガージョンという男の子が危うく片目を失いかけたものだから、あの木に近づくことは禁止されてしまった。箒などひとたまりもないだろうね」
ルーピン先生がそう言うのを聞きながら、ハリーは先生が
「先生は
勇気を出してハリーは訊ねた。ルーピン先生はそんなハリーをチラリと見ると「ああ、聞いたよ」と答えた。
「ダンブルドア校長があんなに怒ったのは誰も見たことがないと思うね。
「はい――あの、一体どうして? どうして
「弱いかどうかはまったく関係ない」
ルーピン先生は、まるでハリーの心を見透かしたようにピシャリと言った。
「そして、ほとんどハナの推測通りだ。
ルーピン先生がそう言うと、不意に冬の陽光が教室の窓から差し込んだ。柔らかな日差しがルーピン先生の白髪とまた若い顔に刻まれた皺とハリーの黒髪と眼鏡、そして、グリーンの瞳を照らしている。
「
それからルーピン先生は
やろうと思えば、
「ハリー、君の最悪の経験はひどいものだった。君のような目に遭えば、どんな人間だって箒から落ちても不思議はない」
ハリーの思っていた通り、ルーピン先生はこれっぽっちも笑わなかったばかりかハリーが不安に思っていることに対して理解を示してくれた。それは今のハリーにとっては何よりの救いだった。
「ハリー、君は決して恥に思う必要はない」