The symbol of courage - 016

3. はじめてのホグワーツ生活



 金曜日の授業が全て終了すると、昼食を食べ、少しだけ寮の談話室で宿題をしたあと、私は余裕をもって校長室へと向かった。なにせ1人で校長室に向かうのは初めての経験だったので、迷うことが大いに想像出来たからだ。

 けれども私の心配を他所に、あの見覚えのある石像の前には随分と早く到着してしまった。しまった、3時になる10分も前だ。こういうお呼ばれの時は5分遅く訪問するのがいいとどこかで聞いたことがあるので、時間を潰さないといけない。

「遂に退学にでもなるのか、ミズマチ」

 校長室の前でウロウロしていると、運の悪いことにマルフォイに出くわした。彼はクラッブとゴイルを引き連れて、廊下を闊歩しているところだったようで、私を見ると心底小バカにしたような口調でそう述べた。

 私はマルフォイのことにはあまり詳しくない。友人が「私年下には興味ない」と言って、いつも親世代とかシリウスとリーマスがたくさん登場するらしい『アズカバンの囚人』の話しかしなかったからだ。なので、『賢者の石』の映画を見ただけの私にとっては、今のところ彼はハリーに突っかかる嫌な男の子なのである。

 けれど、ハリー視点で物事を捉えてしまえのは私の悪いところなのかもしれない。しかも、カッとなって初対面で吹き飛ばしてしまったのも反省すべき点だ。もっと違う対応の仕方があったはずだ。でも、侮辱されたのは事実だから謝ったりはしないけれど。私も大人気おとなげないのかもしれない。

「えーっと、道に迷ったの」

 ただお茶をしに来ただけと言ってもあれこれ詮索されてしまうかもしれない、と思って私はそう言うことにした。汽車の中で聞いたロンの話では彼の父親はヴォルデモートの手下だったそうだし。私は既にヴォルデモートに名前がバレているから変に隠すのも無意味かもしれないけれど、かと言って、情報をあまり渡す必要はない。

「フン、いい気味だな」

 マルフォイは私のことを鼻で笑うと、廊下の角を曲がって行ってしまった。クラッブとゴイルも彼に続き私をバカにしたように笑いながら去っていく。仕方ないこととはいえ、私は何だか悔しい気持ちになりながらも、彼らがすぐに去ってくれたことにホッと胸を撫で下ろした。

 完全に彼らがいなくなったのを確認してから、時間を見るとちょうど時刻は3時を5分過ぎたところだった。完璧である。私はマルフォイ達のことを頭の隅に押しやり、にこやかな表情を作ると石像の前に立った。あとから知ったのだが、これはガーゴイルという怪獣らしい。ホグワーツの歴史に書いてあったのだ。

「ペロペロ酸飴!」

 合言葉を言うと、ガーゴイル像は前の時と同じくピョンっと跳んで脇に避けた。私はガーゴイル像の後ろに現れた螺旋階段に乗り、上へ上へと向かっていく。同じ螺旋階段でもレイブンクロー寮とは違って、エスカレーターみたいに自動で上がってくれるから楽だけれど、螺旋階段はあまりにぐるぐるするので、ちょっと目が回ってしまう。実は毎回寮を出入りするのもまだ慣れていなかったりする。

 考えごとをしている間に螺旋階段は一番上へと辿り着き、目の前には輝くような扉が見えた。扉は私が螺旋階段を降りると勝手に開かれ、あの不思議な魔法道具で溢れた部屋に招いてくれた。ジェームズ達が残してくれた魔法道具もとっても不思議で素敵だけれど、ここにあるものはその何倍も不思議で溢れている気がする。

 扉の近くの色の止まり木には前にも見た美しい鳥がいた。その鳥は全体が真紅の羽根で覆われていて、孔雀のように長い尾や鉤爪、嘴は金色だった。改めてよく見ると大きさは結構大きくて、60センチくらいはあるかもしれない。私が「こんにちは、お久し振りね」と挨拶をすると、鳥は美しい声で鳴いた。

「それは不死鳥でな。フォークスというんじゃよ」

 私が鳥をマジマジと観察していると、ダンブルドアにそう声を掛けられて慌てて事務机がある方へと顔を向けた。「いらっしゃい、ハナ」というダンブルドアのそばでは、ティーポットが勝手にティーカップに紅茶を注いでいるところだった。魔法ってすごい。こんなことも出来るなんて。私も使ってみたい!

「こんにちは、ダンブルドア先生。とっても綺麗な鳥だったので見惚れてしまっていました。不死鳥だったんですね」

 校長室の事務机の前には、この部屋に不釣り合いなちょっとファンシーなデザインの丸いテーブルセットが置かれていた。テーブルの上には3段のケーキスタンドが置いてあり、下段はサンドイッチ、中段は温料理、上段にデザートが置かれている。これは下から順番に食べていくのがマナーだっけ?

「実に美しい鳥じゃ――さあ、こちらにお座り。屋敷しもべ妖精ハウス・エルフ達にハナとお茶をすると話したらこんなに素晴らしいものを用意してくれたのじゃ」

 ダンブルドアに促されて私は席に着いた。私はこんなにしっかりとしたアフターヌーンティーを用意して貰えるだなんて思っていなかったので、何か手土産が必要だったかも、と思った。次の機会があれば絶対何か用意しよう。魔法界は通販ってあるか同室の子達に聞いてみよう。

「とっても美味しそうです。屋敷しもべ妖精ハウス・エルフ達にお礼を言わないといけませんね」
「梨をくすぐるといいんじゃが――おっと、わしは今何か口を滑らせてしまったかな?」
「いいえ、ダンブルドア先生」

 分かりやすく素っ惚けるダンブルドアにくすくす笑いながら私は否定した。けれども、梨が描かれてある絵を見つけたら片っ端からくすぐってみようと心に誓った。もしかしたら、フレッドとジョージなら梨の絵がどこにあるのか知っているかもしれない。

 前に来た時はジロジロとこちらを見ていた肖像画達は今日は何故か全員寝たフリをしていた。どうして寝たフリだと分かったのかと言えば、みんな薄っすらと目が開いているからだ。そんな肖像画達に見守られながら、

「この1週間はどうだったかね?」

 私とダンブルドアのお茶会は始まった。