The ghost of Ravenclaw - 100

12. 嵐の中のクィディッチ

――Harry――



 ただでさえ許可証にサインが貰えず、みんなと一緒にホグズミードで週末を過ごす機会を失ったというのに、ハロウィーンの夜に起こったシリウス・ブラック侵入事件以降、ハリーは更に窮屈な生活を強いられるようになった。先生達はハリーが廊下を歩いているだけでブラックに襲われるとでも思っているのか、何かと理由をつけてハリーと一緒に歩こうとしたのである。このことにハーマイオニーは「これは当然のことだ」という顔をしていたが、ロンはハリーと同じように「流石にやり過ぎでは」とした顔をしていた。

 ハリーはここまでするのならいっそのこと「貴方はブラックに狙われています」と告げて貰った方がマシだ、と密かに思った。そもそも先生達は知らないだろうが、ハリーは夏休み最後の夜にウィーズリー夫妻の話を聞いて自分がブラックに狙われていることを知っているのだ。今更真実を告げられたところで驚いたりはない。

 しかし、ハリーに対する監視は更に厳しくなる一方だった。先生達がいないところではパーシーがハリーにぴったり張り付いてくる有り様で、きっとパーシーはハロウィーンの夜の話を聞きつけたウィーズリーおばさんに何か吹き込まれたに違いないとハリーは思っていた。

 もっと最悪だったのが、マクゴナガル先生だった。ハロウィーンから間も無く、先生があまりにも暗い顔をして変身術の教室の隣にある事務室に呼んだので何事かと思っていたら、ブラックがハリーの命を狙っているのでクィディッチの練習を許可出来ないと言い出したのだ。

 ハリーはこのところ「貴方はブラックに狙われています」と素直に言って貰えた方がマシだと思っていたが、まさかクィディッチの練習を禁止されるとは思ってもみなかった。どうやらクィディッチは生徒だけで練習しているので、危険だと思ったらしい。

 これには流石のハリーも大ショックだった。ホグズミードも行けず、常日頃から監視されるようになってただでさえうんざりしていたのに、その上クィディッチまで取り上げられるだなんて到底耐えられそうにもなかった。しかも土曜日にはあのスリザリンとの試合があるのだ。何がなんでも練習しなければならない。

「土曜日に最初の試合があるんです!」

 ハリーは懸命に訴えた。

「先生、絶対練習しないと!」

 そんなハリーのことをマクゴナガル先生はじっと見つめた。先生はホグワーツにいる誰より厳格で厳しい魔女だったが、それと同時にクィディッチの大ファンで、グリフィンドールチームの勝利に大きな関心があることをハリーは知っていた。そもそもチームの勝利のために1年生は選手になれないというルールがあったにもかかわらず、ダンブルドアに交渉してハリーをシーカーにしたのはマクゴナガル先生なのだ。ハリーは息を凝らして先生の言葉を待った。

「そう……まったく、今度こそ優勝杯を獲得したいものです……しかし、それはそれ、これはこれ。ポッター……私としては、誰か先生につき添っていただければより安心です。フーチ先生に練習の監督をしていただきましょう」

 そんなこんなでハリーはなんとかクィディッチまで奪われずに済み、チームメイトと共にフーチ先生が見守る中、土曜日の開幕戦に向けて対スリザリンを想定した練習に打ち込んだ。しかし、いよいよ開幕戦を控えた最後の練習の日になると、キャプテンのオリバー・ウッドが嫌な知らせを持ってきた。

「相手はスリザリンではない!」

 カンカンになってウッドが言った。

「フリントの奴、シーカーの腕がまだ治ってないからとかした――理由は知れたこと。こんな天気じゃプレイしたくないって訳だ。これじゃ自分達の勝ち目が薄いと読んだんだ……」

 実のところマルフォイは9月に怪我をした時からずっと包帯を巻いたままだった。腕がもうどこも悪くないことは明らかなのに、だ。そのことはスリザリンの選手達も知っているだろうに、これ幸いとていのいい理由に使ったのである。

 これにはハリーだけでなく他のグリフィンドールの選手達もカンカンだった。ハリーは「悪いふりをしてるんだ!」と訴えたし、ジョージも「僕はマルフォイが平気そうにしているのを一度見たことがある」と訴えたが、既に決定されたことが覆ることはなかった。

「我々がこれまで練習してきた戦略は、スリザリンを対戦相手に想定していた」

 ウッドか深刻な表情で言った。

「それが、ハッフルパフときた。あいつらのスタイルはまた全然違う。あそこはキャプテンが新しくなった。シーカーのセドリック・ディゴリーだ――」

 セドリックの名前が出てきた途端、ハリーはハナがデートを断ったことやハーマイオニーが泣いていたことを思い出して複雑な気持ちになった。ハリーはハナが無理をしていないか心配だったが、監視のこともあり、ハロウィーン以降、ハナと話す機会はまったくなかった。

 それにハナについては、スネイプのこともあった。スネイプが妙な話を耳にしたとかで、ハナを疑っている件である。つい最近廊下でハナを見かけた時にはスネイプが張り付いていて、ハリーはハロウィーンの夜に聞いたことや去年のクリスマスにマルフォイから聞いた話をハナに教えてあげるべきか悩んでいたが、結局その機会はやってこないままだった。

「あの背の高いハンサムな人でしょう?」

 ハリーがハナについて考えていると、セドリックの名前を聞いたアンジェリーナがクスクス笑いながら言って、ハリーは考えるのをやめた。見れば、ケイティとアリシアも同じようにクスクス笑っている。

「無口で強そうな」
「あのレイブンクローのハナ・ミズマチにアプローチしてる猛者として有名な」

 ケイティとアリシアもそう言うと3人はまた顔を見合わせてクスクス笑いをした。

「無口だろうさ。2つの言葉を繋げる頭もないからな」

 フレッドがイライラした様子で口を開いた。

「オリバー、何も心配する必要はないだろう? ハッフルパフなんて、ひとひねりだ。前回の試合じゃ、ハリーが5分かそこいらでスニッチを取っただろう?」

 すると、ウッドは目をむいて叫んだ。

「今度の試合は状況がまるっきり違うのだ! ディゴリーは強力なチームを編成した! 優秀なシーカーだ! 諸君がそんなふうに甘く考えることを俺は恐れていた! 我々は気を抜いてはならない! あくまで神経を集中せよ! スリザリンは我々に揺さぶりをかけようとしているのだ! 我々は勝たねばならん!」
「オリバー、落ち着けよ!」

 ウッドの勢いに毒気を抜かれたような顔をしてフレッドが言った。

「俺達、ハッフルパフのことをまじめに考えてるさ。クソまじめさ」