The ghost of Ravenclaw - 099

12. 嵐の中のクィディッチ



 クルックシャンクスは思っていた以上に賢い猫だった。どうやら彼はシリウスに暴れ柳を大人しくさせる方法も聞いていたようで、ひどい嵐の中、暴れ回って殴りかかろうとする太枝の間を、まるで蛇のようにすり抜け、両前脚を木の節の1つに乗せたのだ。お陰で私は難なく根元にあるウロから地下通路へ入ることが出来た。

 地下通路に入ると目くらまし術を解き、私は鷲となって土のトンネルを進んだ。叫びの屋敷に続く隠し通路は、今まで通ったどの隠し通路よりも天井が低かったけれど、運のいいことに羽を広げて飛ぶだけの幅は確保されていた。私がスーッと通路の中を飛んで行くとあとからクルックシャンクスが走ってついてきてくれて、私達は思っていたよりも早くに叫びの屋敷に辿り着くことが出来た。

 叫びの屋敷に入り、先月も使った部屋に向かうと、リーマスが引っ掻き傷だらけの椅子に座って厚い雲に覆われた先にある月が完全な満月になるのを待っていた。このひどい雨だから流石にロキは来られないかもしれないと思っていたが、ロキが既にベッドの天蓋の上に止まって羽を休めていて、私が来たことが分かると嬉しそうに寄って来てくれた。

 リーマスは先月に続いて2ヶ月連続で仲間が増えたことにひどく驚いていたようだった。私のあとからクルックシャンクスが現れると戸惑ったような表情を見せたけれど、クルックシャンクスがそばにいることを嫌がりはしなかった。一緒に過ごす仲間が増えたからか、嵐だというのにこの日の夜はいつもより穏やかで、リーマスが変身すると私達は仲良くベッドに丸くなって眠ったのだった。


 *


 翌朝も雨は続いていた。
 この天気なので、朝の4時を過ぎたころには私とロキとクルックシャンクスはホグワーツ城へと帰ることになった。ロキは明かり取りの窓から、私とクルックシャンクスは地下通路からそれぞれ城へと戻る。満月の夜を終え、元に戻ったリーマスがこれ以上ひどくなる前にと私達を帰したのだ。

 暴れ柳の下から校庭に出て城へ戻ると、魔法でクルックシャンクスを乾かしてやってから、私は今度こそ本当にクルックシャンクスと別れた。早朝とは言え日の出前の城内はまだ暗く、吹き荒れる雨風を受けて窓はガタガタ音を立てている。

 レイブンクロー寮に戻っても嵐の音は静かにはならなかった。寧ろ廊下よりも談話室の方がよりはっきりと風の唸りが聞こえるようで、今日のクィディッチの試合が心配になった。マグルのスポーツ試合だと大抵の場合こんな嵐の日は中止となるのだけれど、魔法界のスポーツであるクィディッチは屋外で空を飛ぶというのにどんな天候でも中止にはならないのだ。

 朝食の時間になるまで余裕があったけれど、今から寝室に戻るとクィディッチの試合開始時間までに起きられない気がして、私は暖炉の前の肘掛け椅子に座ると夜明けを待った。寝室から呼び寄せた本を読みながらレイブンクロー生達が起き出して来るのを待っていると、意外にも一番早くに起きてきたのはマイケルとテリーで、彼らは私が談話室にいるのを見つけると「君、ずっと起きてたのか?」とギョッとしていた。

 マイケルとテリーが起きてきてから15分後には同室の子達も起きてきて、私は彼女達と一緒に大広間に向かった。結構早い時間に朝食に降りてきたと思っていたけれど、グリフィンドールとハッフルパフのクィディッチ・チームのメンバー達は既に朝食を食べていて、それぞれ顔を突き合わせて今日の試合について話し合っていた。

「今日の試合、長引くかもしれないわね」
「この雨だものね。風も強いし」
「ねえ、傘を持っていくのは危ないかしら?」
「ローブや服に防水魔法を掛ける方が現実的ね。あとはフードを被っていれば濡れないわ」

 レイブンクローのテーブルに着いて朝食を食べ始めると、同室の子達は今日のクィディッチについてあれこれと話し始めた。嵐だというのに、見に行く気満々らしい。同室の子達と同じように今日の試合を見に行く生徒達は他にもたくさんいて、朝食の席で聞かれるのはグリフィンドール対ハッフルパフの試合についてばかりだった。

「ねえ、ハナは今日、誰と観に行くの?」

 トーストを齧りながら話を聞いていると、不意にリサがこちらを見て訊ねた。きっとクィディッチを観に行く時、彼女達と一緒に観に行くことが少ないからだろう。私は一緒に観る約束をしているシリウスの顔を思い浮かべながら、なんと答えようかと考えを巡らせると、

「私は、そうね――グリフィンドールの友達と観に行くの」

 やがてニッコリ笑うとそう答えたのだった。