The symbol of courage - 015

3. はじめてのホグワーツ生活



 目まぐるしく過ぎていった1週間がようやく終わろうとしていた。私はこの1週間でもう1つだけレイブンクローに組分けされたことを後悔したことがあるのだが、それはグリフィンドールとの合同授業が一切ないことだった。

 薬草学はなんとあのマルフォイのいるスリザリンとだし、どうも私を嫌っているらしいスネイプ先生の魔法薬学はハッフルパフとなのだ。あとはまだ始まっていない飛行術が合同授業だけど、それはグリフィンドールとスリザリンが合同授業なことをもう知っている。授業が終われば宿題を片付けなければならないし、お陰でハリーと鉢合わせする機会が全くと言っていいほどなかった。ああ、ハリー……。

 そんなこんなで迎えた金曜日の朝、郵便を届ける何百というふくろうと共に私の元にロキがやってきた。ロキは運ぶ手紙がないにも関わらず、他のふくろう達と共に毎朝大広間にやってきてくれた。ロキは毎回私の指を甘噛みしたり、横からトーストを突いたりしてからふくろう小屋に戻って行くのが日課だったけれど、今朝はなんと手紙を持っていた。



親愛なるハナへ

金曜日の午後は授業がないはずじゃな。
良ければ3時頃お茶でもどうかな?

アルバス・ダンブルドアより



 ダンブルドアとは話したいことがたくさんあったので、近いうちにこちらから連絡しようと思っていたからとても嬉しいお誘いだった。手紙には追伸もあって「最近はペロペロ酸飴がお気に入り」と書いてあった。きっとこれが合言葉なのだろうとすぐに分かった。私はロキに返信を持たせようと持ち歩いている羽根ペンを取り出し、

「あの、ハナ」

 返信を書き始めようとしたところで誰かに声を掛けられて私は顔を上げた。振り向くと、そこにはどこかソワソワとした様子のハリーが立っていた。彼の斜め後ろにはロンの姿もある。

「ハリー!」

 なんとハリーが話しかけて来てくれた! と嬉しさのあまり抱きつかんばかりの勢いで立ち上がると、私はハリーの両手を握って上下にブンブン振って握手をした。いくらクォーターでイギリスでの生活も慣れているとはいえ基本的には日本人なので、やっぱり男の子とハグは恥ずかしいのである。

「ハリー、私貴方ととっても話したかった! 声を掛けてくれて嬉しいわ。ロンも会えてとっても嬉しい。2人共ホグワーツには慣れた? 何か困ったことはない?」

 嬉しさでテンションが上がりまくって質問攻めにしてしまうと、ハリーはびっくりしていたし、ロンは少し引いた様子で「君、同い年なのにまるでハリーのお姉さんみたいだな。それか、パーシーみたいだ」と言った。もしかしたらロンは、知らないところでパーシーにあれこれ世話を焼かれたのかもしれない。

「ごめんなさい。1週間振りくらいだったから、つい。それで、今日はどうしたの? ハリー」
「実は今日の午後暇かどうか聞きたかったんだ。ハグリッドからお茶に誘われて、僕、午後に会いに行く予定なんだけど、ハナも一緒にってどうかなって。誘いに来たんだ」

 ハリーの言葉に私はみるみる嬉しさが萎んでいくのが分かった。普段だったら「喜んで!」と答えているところだろうけれど、今日は生憎ダンブルドアに誘われている。ダンブルドアは忙しい身なので、今日断ると次にいつ会えるのか分からないのだ。可愛いハリーの誘いよりダンブルドアを優先しなければならない。

「ごめんなさい、ハリー。とっても行きたいけれど、私、先約があるの」

 私が謝るとハリーも残念そうに眉尻を下げた。

「そうなんだ……。僕、ハナとも話したかったから一緒にどうかって思ったんだ」
「この1週間本当に会わなかったものね。でも、声を掛けてくれて嬉しいわ。実は私、ハグリッドに会ってみたかったの。だから、もし次の機会があったら教えて」
「うん、また声を掛けるよ」
「ええ、声を掛けてくれてありがとう、ハリー。ロンもまた一緒に話しましょう」
「僕、宿題手伝って貰えると嬉しい」
「ふふふ、いいわ。いつでも声を掛けて。因みに土日は図書室にいると思うわ」

 もう大広間を出るという2人とはそこで別れた。席に戻ると、ロキは待ち草臥くたびれたというような顔で私を待ち受けていたし、一緒に朝食に来ていた同室の3人には「あのハリー・ポッターとあんなに親しいなんて!」と質問攻めにあった。

「汽車の中で知り合ったのよ――ああ、ロキ、私の手を突かないで。今返事を書くわ」

 急いで返事を書いてロキに持たせたあとは、朝食の残りを食べ、同室の子達と授業に向かった。彼女達の素敵なところは、誰から手紙を貰ったのか深く詮索して来ないところだった。マンディもリサもパドマも今時の女の子らしい一面ももちろんあるけれど、比較的さっぱりとした子達だったのだ。この1週間で私は彼女達がとても好きになったように思う。

 さて、話は変わるけれど、金曜日は遂に闇の魔術に対する防衛術の授業がある日だった。私は嫌われる理由がある程度想像出来る魔法薬学より、頭にヴォルデモートを引っ付けていると噂されているクィレルが担当しているこの闇の魔術に対する防衛術の授業が始まるのがとても憂鬱だった。因みに闇の魔術に対する防衛術は『Defence Against the Dark Arts』というのだけれど、頭文字を取ってD.A.D.Aと略しているらしい。長いもんね。

 クィレルの授業は一言で言うととっっっても臭かった。教室にはにんにくのにおいがプンプンして、とても集中出来る環境ではなかった。それにクィレルは頻繁に私のことをチラチラと見るので、私は授業の終わりと同時に教室を飛び出さなければならない羽目になった。

「貴方がとっても可愛いから、クィレルは貴方が好きなのよ」

 リサはそんなことを言っていたけれど、私には彼が何故私を見ているのか分かっていた。きっと、ヴォルデモートに私の名前を聞いているのだ。それにクィレルは1年仕事を休んで各地を旅していたらしいので、その間にヴォルデモートに出会った彼が私を呼び出した魔法を完成させる手伝いをしていたことは想像に難くない。私は原作こそ途中なものの、『賢者の石』の映画だけでも見ていて良かったと思うのと同時に、ヴォルデモートがにんにく臭で苦しんでいたらいいのに、と心底願った。