The ghost of Ravenclaw - 093

12. 嵐の中のクィディッチ



 11月1日の早朝、私は大広間の中央で目覚めた。
 朝日が昇る前の大広間の天井はまだ暗く、微かに星が瞬き、その天井の下ではすべてのホグワーツ生が紫色の寝袋に包まって眠っている。どの生徒も昨夜は遅くまで眠れずに起きていたようだから、交代で見張りをしていた監督生やヘッドボーイ、ヘッドガール以外でこんなに早くに起きているのは私くらいなものだった。

 私とシリウスが立てた2回目の作戦は無事に成功を収めた。私は日中――本当は落ち着かずそれどころではなかったが――他の生徒達と同じようにホグズミードを楽しみ、ハロウィーン・パーティーに参加した。そんな私をシリウス・ブラックと共謀している責められる人は誰もいないだろう。

 パーティーの開始前には、事前にローブの袖口に隠していた杖を使って約束通りシリウスに連絡を入れた。連絡を受けたシリウスはホグズヘッドの裏から隠し通路を通って5階の廊下にある鏡の裏からホグワーツ内へと侵入、グリフィンドール寮へと向かっている。そして、グリフィンドール寮へ押し入るフリをして太った婦人レディを傷付けた。

 周りから聞いた話では、肖像画はひどい有り様だったらしい。キャンバスは切り刻まれ、太った婦人レディは他の絵画の中へと逃げてしまったそうだ。私と計画を立てている時、シリウスは比較的冷静だったが、もしかするとこの肖像画を隔てた先にワームテールがいると思うとその冷静さを保てなくなったのかもしれない。婦人レディには申し訳ないことをしたと思う反面、私はシリウスのその気持ちが痛いほど分かって泣きたくなった。

 シリウスからはパーティーが終わるころには、5階の鏡の裏からホグワーツを抜け出したとブレスレットに連絡が入った。どうも太った婦人レディと揉めている最中にピーブズが現れたらしく、ダンブルドアや他の先生方を呼ばれる前に逃げたようだった。ピーブズと関わることがあまりないので忘れていたが、どうやら彼はパーティーに参加していなかったらしい。因みにホグズヘッドの裏から出る際には念のためポリジュース薬を飲んで別人になりすましたそうだ。

 という訳で、パーティーのあと再び大広間に呼び戻された時には既にシリウスは城内どころかホグワーツの敷地内にいなかったのだけれど、他の人達がそれを知る術はなかった。先生達は総出で城内の捜索に当たることになり、その間、生徒達は大広間で一夜を明かすこととなった。先生達の代わりに大広間の見張りに立ったのは監督生とヘッドボーイ、ヘッドガール達だ。きっと寝不足で疲れているだろうに、入口には監督生達が交代で立ち続け、パーシーは絶えず生徒達の間を巡回していた。

「パーシー」

 割と近くを歩いていたパーシーに小声で声を掛けると、彼はすぐにこちらを振り向いた。私が呼んでいると分かると、大広間中に敷き詰められた寝袋の間を通り、こちらまで歩いてくる。

「パーシー、捜索はどうなったの?」

 上体を起こすと、目の前までやってきたパーシーに私は訊ねた。すると、パーシーは深刻な顔をして首を横に振った。

「夜中に先生方から聞いたが、どこを探しても見つからなかったそうだ。ブラックは既に逃げ果せたあとだったらしい。太った婦人レディの代わりとなる臨時門番も見つかったから、あともう少ししたら全員起こしてそれぞれの寮に戻ることになる」
「そう――ありがとう」
「しかし、ここだけの話、スネイプ先生は誰か内部の人間が手引きしたのではないかと疑っていた。ダンブルドア先生はそう思っていないようだが、実のところ僕もスネイプ先生が正しいんじゃないかと疑っている。でないと吸魂鬼ディメンターもいる中、城内に侵入するのは不可能だからね」
「スネイプ先生は誰か心当たりがあるのかしら?」
「ああ。はっきりとは言わなかったがね。秋学期が始まる前にもその話をしていたそうだし、それに“彼女”がどうのとも言っていたな。妙な話を小耳に挟んだとか」
「妙な話って?」
「そこまでは分からなかった。ただ、ダンブルドア先生はその“彼女”を信頼していると言っていた。信頼を裏切るような真似はしない、と」

 スネイプ先生が話していた「彼女」というのは自分のことだと、私はパーシーの話を聞いてピンと来た。妙な話を小耳に挟んだらしいが、きっとマルフォイ辺りにあのデタラメ話を聞いたに違いない。元々スネイプ先生は私のことを嘗てジェームズ達と仲良くしていたレイブンクロー生の娘だと思っているところがあったので、私がシリウスの娘だと聞いて信じてしまったのだろう。ただダンブルドア先生が私を信じてくれていることだけが唯一の救いだ。

「教えてくれてありがとう、パーシー」

 私は静かにそう言うと、心の中でダンブルドア先生にもお礼を述べたのだった。