The ghost of Ravenclaw - 086

11. 襲撃のハロウィーン

――Harry――



 ハリー達ホグワーツ生にとって、魔法薬学を担当しているスネイプが実はD.A.D.Aの席を狙っているということは最早周知の事実であった。その証拠にハリーは今年の歓迎会で新任のルーピン先生が紹介される時、怒りを通り越し、憎しみの表情を浮かべているのを目撃している。しかしこのところスネイプはますます復讐ムードを募らせていて、ルーピン先生の名前を聞くだけで目をギラつかせる有り様であった。

 スネイプがそこまでルーピン先生を嫌う理由は単純明快だ。今年度最初のD.A.D.Aの授業でネビルがスネイプに変身したボガートに自分のおばあちゃんの服を着せたという話が、まるで野火のように学校中に広まったからである。当然スネイプはこれが面白いはずもなく、ルーピン先生をますます憎むようになったという訳だ。

 そういう訳で魔法薬学の授業はいつにも増して面白くなかったが、他の授業も似たり寄ったりだった。占い学ではトレローニー先生が何かにつけて死神犬グリムのことを引き合いに出しては涙目でハリーのことを見てくるのでうんざりだったし、魔法生物飼育学ではハグリッドの初授業をマルフォイが滅茶苦茶にしたせいでとてつもなくつまらないものになっていた。

 そんな中、唯一ハリーが楽しいと思えるのがルーピン先生の授業だった。最初のボガートの授業こそハリーは実践出来なかったが、2回目の授業からもルーピン先生の授業は面白く、ハリーだけでなくほとんどの生徒が「どの授業もルーピン先生の時みたいに楽しかったらいいのに」と思っていた。

 10月になると、ハリーにはルーピン先生の授業以外にも楽しみが出来た――クィディッチの練習である。今年はハリーが入学した時からグリフィンドール・チームのキャプテンだったオリバー・ウッドが遂に最終学年である7年生を迎えたということもあり、今年こそクィディッチ優勝杯を獲得したいと熱く燃えていた。それはハリーを始めとする他の選手達とて同様で、グリフィンドールの選手達は決意満々で11月のシーズン開幕に向けて週に3回の練習を熱心にこなした。

 しかし、クィディッチの練習が始まって2週間も経つと第1回のホグズミード休暇の日程が発表され、ハリーは途端に気分が沈んでいくのを感じた。ホグズミードに行ける日が決まったとあれば3年生以上の生徒なら誰もが嬉しいに違いなかったが、許可証にバーノンおじさんのサインが貰えなかったハリーが嬉しい訳がなかった。

 サインが貰えなかったとはいえ、ハリーはそう簡単に諦めなかった。ハナにダンブルドアに訊ねて貰ったり、ハリー自身も夏休みには魔法大臣にサインして貰えないか訊ねてみたし、学校が始まってからもマクゴナガル先生に訊ねてみたりした。

 けれども、結果はどれも全敗であった。そのことについてハリーはなんとなくマクゴナガル先生もブラックがハリーの命を狙っていることを知っているのではないかと思っていた。だから頑なにハリーがホグワーツの外に出るのを禁止するのだ。

 このことにロンは自分のことのように怒ってくれたが、ハーマイオニーは「これで良かったのよ」という顔をしていた。以前からハーマイオニーは魔法大臣やダンブルドア、それにマクゴナガル先生のようにハリーはホグワーツの外に出るべきではない派だったのだ。このハーマイオニーの態度にロンはますます怒りを募らせたが、ロンが怒っているのは他にも理由があった。クルックシャンクスである。

 クルックシャンクスはハーマイオニーがこの夏飼い始めた赤毛の猫だった。しかし、なぜだかスキャバーズばかり追いかけるので、ロンはそのことに腹を立てていたのだ。ついこの間もロンの鞄の中にいると言った途端にクルックシャンクスが襲い掛かって一悶着あったばかりで、それ以来ロンはハーマイオニーに対し険悪な態度をとったままだった。

 ハリーはロンとハーマイオニーに仲直りして欲しいと思っていたが、ハーマイオニーもハーマイオニーでクルックシャンクスは悪くないと主張するので、2人の「クルックシャンクス論争」は並行線を辿ったままだった。しかもここしばらくの間はハーマイオニーが1人で行動するようになっていたので、ハリーはハーマイオニーが孤立しないかと心配していた。確かにハーマイオニーはきつい言動も多いが、彼女もハリーの大事な親友なのだ。

 このことをハナに相談出来たらどんなにいいか――ハリーは次第にそんな風に思うようになっていたが、ハナとはそもそも寮が違う上、最近はいつも以上に忙しそうにしているので、こっそり話す機会はなかなか訪れなかった。

 そんなこんなでハリーにとっては、ルーピン先生のD.A.D.Aの授業とクィディッチ以外まったく楽しくない日々が続いた。ハリーだけがホグズミードに行けないことは、日程が発表されて少しするとグリフィンドール寮内では周知の事実となり、みんながハリーを慰めたが、どれも効果がなかった。周りがなんと言って慰めようと、ハリーはホグズミードに行けないし、みんなは行けるのだから。