The ghost of Ravenclaw - 085

11. 襲撃のハロウィーン



 遂に迎えたハロウィーンの朝は寒いけれど、比較的穏やかな天候に恵まれた。雲は多いが薄曇りといった感じで、雲間からは太陽の光が透けて見えている。ついこの間もそうだったが、ここ最近天気の悪い日が続いていたので、ホグズミードを楽しみにしていた生徒達にとっては十分いい天気だと言えた。

 そんな生徒達の気持ちを表すかのように今年もホグワーツ城は朝からパンプキンパイを焼く甘い香りでいっぱいになっていた。まるで城全体がソワソワとしているかのようだったが、私自身は違った意味でソワソワとしていた。なぜなら、私にとって今年のハロウィーンは特別な日だからだ。

 この日を迎えるにあたって、私とシリウスは念には念を入れて計画を立てた。もしもの時に備えて侵入経路と逃走経路は何パターンか考えたし、本当に危険な時にはブレスレットに連絡が入り、私が騒ぎを起こすことになっている。騒ぎの混乱に乗じてシリウスを逃す算段だ。ただシリウスは目くらまし術を使えるので、恐らくこの最終手段は使うことはないだろう。

 因みに先日シリウスと共に塞いだ隠し通路だけれど、予定通り次の日にはフレッドとジョージに知らせていた。彼らには「夜中に何か崩れるような音がして、もしかしてと通路を見に行ったら途中で天井か崩れていた」と話している。シリウスの安全のためには必要なこととはいえ、話を聞いた彼らが「そりゃないぜ!」とショックを受けていた時には申し訳なさで心が痛んだ。

 しかし、シリウスの侵入に向けての準備は確実に整ったと言えた。あとは私が手引きしていることが知られないように他の生徒達と同じようにホグズミードを楽しみ、ハロウィーン・パーティーを過ごすだけである。このことをシリウスは口が酸っぱくなるほど私に言い聞かせ、昨夜も「いいか、明日は私のところに来てはいけない。絶対だ」と念を押した。

 そんな訳で私はいつも通りを装って朝食を食べ、一旦寮に戻り出掛ける支度を済ませ、時間になるとハーマイオニーとロンとの待ち合わせ場所である玄関ホールへと向かった。行き先は同じだからと同室の子達と一緒に向かったのだけれど、彼女達はどうやら私がセドリックと一緒に行くものだとばかり思っていたらしい。私がハーマイオニーとロンと行くのだと知ると「私達も誘えば良かった!」と残念がっていた。

 玄関ホールに着くと玄関扉のすぐ脇にはもう既に管理人のフィルチさんが立っていた。手には長いリストを手にしていて、外に出ていく生徒の顔を疑わしそうに覗き込んでいる。許可証は事前にそれぞれの寮監に提出することになっているのだけれど、提出していない人が出て行かないように見張っているのだろう。

「じゃあ、ハナ、またあとでね!」
「ええ。また夜のパーティーで会いましょう」

 ハーマイオニーとロンはまだ来ていないようで、先にホグズミードへと向かう同室の子達を見送ると隅で待つことにした。ほんの少し待っているだけでも目を光らせているフィルチさんの横を次から次へと生徒達が通り過ぎていく。その中にはハッフルパフの同級生だろう男の子達と一緒に出て行くセドリックの姿もあり、私はなんだか複雑な気持ちになった。

 セドリックが通り過ぎて間もなく、ハーマイオニーとロンが玄関ホールにやってきた。意外にもハリーも一緒である。ハーマイオニーとロンが休戦するほど落ち込んでいると聞いていたけれど、見送りに来てくれたハリーは私の前まで来ると「おはよう、ハナ」といつも通り挨拶を返してくれた。

「おはよう、ハリー。見送りに来てくれたの?」
「そうなんだ。ハーマイオニーからハナも一緒に行くって聞いて。ほら、最近ハナは忙しそうだったから、話すなら今日しかないと思って」
「ありがとう、ハリー。お土産をいっぱい買って来るわね」
「ううん、僕のことは気にしないで。ホグズミード楽しんできて」

 そう言ってにっこり笑うハリーに私だけでなく、ハーマイオニーもロンも何も言えなくなって、私達は顔を見合わせた。ハリーが私達に気を遣って気にしていない素振りをしているのが分かったからである。シリウスの無実さえ証明されれば、ハリーだけがこんな目に遭うことはないのに――私は内心そう思ったが、それを伝えることが出来なくて何か言いたいのをぐっと堪え、なるべくいつも通りを装って「ありがとう。またあとでね、ハリー」と言って別れた。

「ひどい話だよな。ハリーだけ行けないなんて」

 ハリーに見送られ、ホグズミードへ向かう馬車に乗り込むなり、ロンが不満気に言った。ハーマイオニーも気遣わしげにホグワーツの方を振り向いては、悲しそうな顔をしている。

「ハリーのおじさんはサインをくれないし、魔法大臣もダンブルドアもマクゴナガルもダメだって言うし。それもこれも全部ブラックのせいだ」
「ここ最近のハリーは本当に見ていられなかったわ。とても落ち込んでいたの。早くブラックが捕まってくれたらいいけれど――そうしたら、先生達だって許可を下さるわ」
「今は代わりにお土産をたくさん買って行きましょう。私達が楽しまないとハリーが余計気にしてしまうわ」

 ハーマイオニーとロンを励ますようにそう言うと、2人は「それもそうだ」と思ったのか、話題は自然とハリーのお土産を何にするかに変わっていった。そうして私達はホグズミードに着くと、ハリーへのお土産をたっぷりと買い、夜に行われるパーティーまでホグズミードを楽しんだのだった。