The ghost of Ravenclaw - 084

11. 襲撃のハロウィーン



 姿くらましする時の感覚は未だに慣れない。体がぎゅうぎゅうに締め付けられ、細いゴム管の中を無理矢理通り抜けていくような感覚がしてどうも苦手なのだ。けれども、一瞬のうちに行きたい場所に行けるというのは魅力的ではあった。

 気がつくと私は鷲の姿のままホグズミードにある寂れたパブ――ホグズヘッドの裏庭に浮いていた。正確にはシリウスの腕に抱き抱えられていたのだけれど、肝心のシリウスがまったく見えないのでどうにも宙に浮いているような感じだった。今誰かに見られたのなら、私は奇妙な姿に見えるのだろう。

 やがて暗闇の中でシリウスがゆっくりと歩く足音が聞こえ、私はそんな奇妙な状態のままゆっくりと建物の方へと近付いて行った。見えないシリウスが木の板が貼り付けてある外壁を慎重に探り、通路の扉の目印である2つの節穴を見つけようとしているのがなんとなく感じられた。

 しばらくすると、ようやく節穴を発見したのか隠し通路の扉がそろりと開いた。そこにあったのは真っ暗なトンネルだったが、少しするとパッと松明に火が灯り、目の前に古びた石段が姿を現した。100段はあろうかというそれが下へ下へと続いている。上から見ると結構な迫力である。去年はここを歩いて上ったのだけれど、今年は歩かなくても済みそうだ。シリウスの見えない腕から飛び出すと、私は元の姿に戻ることなくスーッと下りて行った。鷲とはなんとも快適である。

「おい、ずるいぞ!」

 階段の下まで一気に下り、元の姿に戻ったところでシリウスの声がして私は振り返った。シリウスは通路の扉を閉めると早速目くらまし術を解いたようで、今はその姿がはっきりと見てとれた。階段を大急ぎで駆け降りてくる。

「鳥類の特権よ」

 わざとらしく勝ち誇ったように私は言った。

「箒なしで飛べるというのは便利だな。羨ましいよ」
「鷲だからか夜目も利くし遠くまで見えるようにもなるのよ。森の中で貴方を見つけるのにとっても便利だわ」
「鷲だとそういう変化もあるのか。私は犬になると鼻が利くようになる。動物もどきアニメーガスはこういうところが不思議ではあるな」
「それをいうと身につけているものもそうよね。変身すると服も一緒に変化するでしょう?」
「分かりやすいものでいうと私達の腕だな。気付いてるか? 鷲の姿になると君の左の翼に青いラインが現れる。私は左前脚だな」
「知らなかったわ。私だって気付かれるかしら?」
「いや、そこまで注意深く見ている奴はいないだろう。熟達するとその辺りも自在に操れるようになると聞いたことがあるが――変身を解くと裸になれたり」
「セクハラで訴えるわよ、シリウス」
「私はそういうことも出来ると伝えたまでさ」

 話をしながら私達は通路をホグワーツへ向かって歩き始めた。1人分程の幅しかない通路を私を先頭にして歩いていく。ここは隠し通路の中では1番綺麗で歩きやすかったが、どうやら整備されたのは随分前らしくアーチ状の天井を見上げてみると所々古くなってヒビが入っていた。この状態であれば天井が崩れたとしても不自然ではないだろう。

「この辺りにしよう」

 通路を半分程進んだところで私達は立ち止まった。後ろを振り返れば、早速杖を取り出してシリウスが壁や天井をコツコツしているところだった。おそらくは具体手にどの辺りを塞ぐのか探っているのだろう。シリウスはこういうことをサラリとこなすので末恐ろしい男である。天は二物も三物も与えるらしい。

「よし、ここが良さそうだ。ハナ、危ないからちょっと離れててくれ」

 少しの間ののち、シリウスがそう言って、私は後退りするようにしてホグワーツ側へと移動した。私とシリウスの間には3メートル程の距離が出来上がり、シリウスはそれを確認すると何やら呪文を唱えて杖を振った。

「すごい!」

 次の瞬間、目の前に瓦礫の山が出来上がった。まるで本当に天井が崩れてきたような感じで、それは秘密の部屋へと続くトンネルが崩れた時の状態に似ているように思えた。近付いてペタペタと触ってもどこも変なところはないし、もちろん軽く押してもびくともしない。これだと多くの人の目を誤魔化せるだろうが、問題はこれを開閉出来るかどうか、だ。今度は私が杖を取り出して瓦礫の山に向けた。

「アロホモラ!」

 杖を振り、呪文を唱えると瓦礫の山が音を立てて半分に割れた。シリウスの作り上げた瓦礫の扉は完璧なようで、半分に割れた瓦礫の間から得意気な顔をしたシリウスが姿を現した。

「完璧ね。貴方って本当にすごいわ、シリウス」

 瓦礫の扉を潜り抜けながら私は言った。

「こんなこと私には出来ないもの。それに瓦礫の山が“アロホモラ”で開くとは誰も思わないでしょうね」
「長年行ってきた悪戯が今役に立っているということだな。我々が行ってきた減点の数々は今日のためにあったと言っても過言ではない――コロポータス」

 アロホモラの反対呪文であるコロポータスを唱えると開かれた扉は再び音を立てて閉まり出した。きっちりと閉められた扉は再び瓦礫の山へと戻り、私達は他の呪文で扉が動いたりしないか念入りに確認したあと、来た道を戻り森へと帰って行ったのだった。