The symbol of courage - 014

3. はじめてのホグワーツ生活



 レイブンクロー寮は西塔の5階――レイブンクロー塔にある目の回るような螺旋階段を登った先にあった。寮の入口はグリフィンドール寮のように絵画ではなく、取手も鍵穴もない以外はごく普通の鷲の形をしたブロンズのドアノッカーがついているだけの扉だった。レイブンクロー寮生はそのドアノッカーをノックし、ドアノッカーの鷲が出す問題に答えられたら中に入れるらしい。出される問題はどこか哲学的で、やっぱり私は入る寮を間違えたかもしれないと思った。

 けれど、レイブンクロー寮の談話室はとても居心地が良かった。談話室は広い円形の部屋で、優雅なアーチ型の窓が等間隔に並んでいて、壁にはブルーとブロンズ色のシルクのカーテンが掛かっている。天井はドーム型で、星が描いてあり、濃紺の絨毯も同じ模様だった。テーブル、椅子、本棚がいくつかあり、扉の反対側の壁の丸い窪みに、ロウェナ・レイブンクローの背の高い白い大理石の像が建っていた。

 レイブンクローの像のそばには、寝室へと続く扉もあった。そこから上に上がると階段が二手に分かれていて、それぞれ男子寮と女子寮へと繋がっている。寮の部屋は天蓋付きのベッドが並べられていて、ブルーとカーテンが取り付けられていた。布団はスカイブルーのケワタガモの羽毛布団でとてもふかふかで気持ちがいい。

 私と同室の子はマンディ・ブロックルハーストとリサ・ターピン、それにパドマ・パチルだった。マンディは母親が魔女で父親がマグルの半純血で、リサは私と同じマグル出身だった。パドマは両親が共に魔法使いと魔女で双子のパーバティがグリフィンドールいるそうだ。フレッドとジョージは同じ寮なので、双子でも寮が違うのはちょっと不思議な気分だった。

「ねえ、ハナ、それ一体何なの?」

 私がベッドの天蓋にあの魔法道具――今度名前を考えた方がいいかもしれない――を吊るしたのは、最初の授業が終わった2日目の夜のことだった。私が吊るしていると、隣のベッドだったリサが不思議そうに丸いその魔法道具を見つめている。

「これはプレゼントで貰ったの」
「とっても、不思議だけど綺麗ね。星の穴が可愛い」
「魔法道具なの」
「魔法道具?」
「ねえ、何の話?」
「マンディ! それがね、ハナが魔法道具を持ってきたみたいなの」
「どんな魔法道具? 私にも見せて」
「ええ、いいわよ、パドマ」

 リサと話をしているとマンディとパドマも加わり、私は彼女達に魔法道具を使ってみせることにした。杖を取り出し――「ハナの杖、とっても綺麗!」とパドマがうっとりしていた――私は呪文を唱えた。すると、夜空が私のベッドの天蓋を埋め尽くし、布団からは草木が生え、動物達が駆け回り始める。

「なんて、素敵なの!」

 マンディが目を輝かせて言った。

「これ、私も欲しいわ。どこに売ってるのかしら」
「私も!」

 そう言ったのはリサとパドマだ。

「これ、実は売り物じゃないの」

 あまりにも目を輝かせて言う3人に私は少し申し訳なく思いながら話した。

「私の大切な友達の手作りなの」


 *


 夏休みの間、ホグワーツに入学したら図書室へ行って色々なことを勉強したいと思っていたけれど、最初の1週間はどこに何があるのか、どの階段がどう動いてどこに繋がっているのか覚えるだけで一苦労でそれどころではなかった。けれど、私が困ってオロオロしていると必ずと言っていいほど高確率でフレッドとジョージが現れた。

「貴方達、どうしていつも私の前に突然現れるの?」

 フレッドとジョージと何度目かの邂逅の際にそう訊ねると彼らは「君には印がついてるのさ」と意味が分からないことを言った。

「印?」
「そう、印さ。君は何故か特別なんだ」
「私、よく分からないわ」
「ま、そういうわけさ」

 どうして彼らが私の居場所が分かるのかは分からなかったものの、彼らにはとても助けられたのは事実だった。道がわからないと彼らは私に近道を教えてくれたので、私はどの授業にも遅刻せずに済んだ。

 比較的どの授業も順調だった。変身術ではマッチ棒を針に変えることが出来てマクゴナガル先生は加点してくれたし、夜遅くにある天文学の授業も苦ではなかったし、眠いと評判の魔法史も知らないことだらけでとっても楽しかった。しかし、魔法薬学で不思議なことが起こった。スネイプ先生が「ミズマチ!」と私の名前を呼んだかと思うと、

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

 と訊ねたのだ。

「え?」

 私はびっくりして思わず聞き返した。この質問に覚えがあったからだ。このシーンは読んだことがあるし、映画でも見たことがある。スネイプ先生が授業でハリーに意地悪をするために難しい質問を投げ掛けたシーンだ。細かな質問内容は覚えていないけれど、確か似たような質問をされた気がする。

「答えろ」

 スネイプ先生はなかなか答えない私にイライラとしながら言った。本に書いてあった答えが何だったのかまでは覚えていないけれど、この夏の間に魔法薬学の教科書をひと通り読んだからなんとなく答えは覚えていた。

「ええっと、眠り薬になります。あまりに強力なため、“生ける屍の水薬” と呼ばれています」

 私が答えるとスネイプ先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「なるほど、教科書を読むくらいはしてきたらしい――では、ベゾアール石を見つけてこいといわれたら、どこを探すかね?」
「確か、山羊の胃の中です。ベゾアール石は大抵の薬に対する解毒剤になります」

 またもやスネイプ先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。どうやら私が正解を言ってしまうので、それが気に入らないようだった。

「ミズマチ、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
「違いはありません。同じ植物で、アコナイトという別名もあります。とりかぶとのことです」
「……全て正解だ。諸君、何故今のを全て書き取らんのだ?」

 スネイプ先生はどうやら私のことが気に入らないようだった。彼はあの一度きりの出会いを覚えているみたいなので、リリーとの会話を邪魔されたのが気に入らなかったのか、それとも私が憎きジェームズとシリウス、そして、リーマスと仲が良かったからなのか――いや、どちらもかもしれない。

「ハナ、貴方素晴らしかった!」

 隣の席で興奮気味に話すリサに私は笑顔で返しながらも私はスネイプ先生の行動に終始首を捻らせていた。