The ghost of Ravenclaw - 060

8. キャビネットのボガート



 クルックシャンクスについていい解決策が思い浮かばないことを除けば、金曜日は比較的順調と言えた。1時間目の呪文学では去年よりも難しい呪文に入ったけれど、日頃から練習しているからか難なくこなせたし、なんと失われた髪飾りダイアテムについての話を聞くことが出来た。フリットウィック先生がレイブンクロー生は知っているべきことだと言って話してくれたのだ。

 フリットウィック先生が言うには、髪飾りダイアテムはレイブンクローが亡くなった時に一緒に消えてしまったのだそうだ。それは今から何百年も前の話で、以来、何人もの魔法使いや魔女が髪飾りダイアテムがどこに行ってしまったのか探しているけれど、未だに手掛かりすら見つからないのだという。

 聞くところによるとレイブンクローの髪飾りダイアテムは魔法の力があり、つけると知恵が増すという逸話が残されているらしい。もしそれが本当ならば、ヴォルデモートは喉から手が出るほど欲しがるに違いないと私は密かに思った。

 2時間目はマクゴナガル先生の変身術の授業だった。3年生では動物もどきアニメーガスについて学ぶらしく、先生は授業の始めに私達の前でトラ猫に変身するところを見せてくれた。トラ猫は目の周りに先生が掛けている眼鏡とそっくりな模様が出来ていて、私にもこういう特徴が出ているのだろうかと少し気になった。

 昼食を挟んで午後に行われ魔法薬学では、スネイプ先生の私に対する心証が更に悪くなっているように思えた。どうやら私がD.A.D.Aの教師にリーマスを推薦したことを恨んでいるらしく、何かにつけて減点しようとしてくるのだ。

 流石に「ミズマチ、君の顔が気に入らない。レイブンクロー5点減点」なんていうことはなかったが、そのうちやりかねないと思うくらいには恨まれているようだった。もしかすると学生時代にいろいろあった相手の脱狼薬を調合しなければならないことも気に入らないのかもしれない。

 とはいえ、脱狼薬を調合してくれるのは有り難いことなので、私はスネイプ先生の減点を甘んじて受け入れることにした。同じレイブンクロー生や一緒に授業を受けていたハッフルパフ生達は、授業のあと「あんなの理不尽だ!」「ダンブルドア先生やフリットウィック先生に言うべきよ!」と怒ってくれたけれど、点数は他で取り戻せばいいのだ。

 そもそも私はスネイプ先生のことを気に掛けている余裕はあまりなかった。シリウスのところに出来るだけ通ってワームテールのことをどうするか話し合わなければならなかったし、目くらまし術や守護霊の呪文を覚えたり、ポリジュース薬だってこっそり調合したかった。しかも宿題もたっぷり出ているのだ。

「やっぱり、クルックシャンクスのことはもう一度よく話し合わなくちゃ……そもそも彼は私の話を聞いたから会いたいと言い出した訳だから、引き合わせるのはやっぱり慎重にいかなくちゃいけないわ。薬も調合する時間があるかしら……森に行くのを夜に変えて、早朝に必要の部屋に通えばいいのかも……夕食を少し取っておいて夜に……うん、そうしましょう。目くらまし術と守護霊の呪文はシ……あー……バレンに相談して……あとは、例の地図さえあれば……確認しなくちゃ。マルフォイが医務室から出てこないことも気になるし……ああ、ダンブルドア先生に手紙を書かなくちゃ。それは今日書いてしまうとして、あとは宿題が……」

 夕方になると私は、図書室のいつもの席で今後のことについて考えていた。セドリックが来ていないことをいいことに小声でブツブツと呟きながら羊皮紙にあれこれ書き込んでいく。やることは多いけれど、シリウスのためにも自分自身のためにも私は1つ1つこれをこなしていくしかないだろう。

 一先ず、ダンブルドア先生に手紙を書いて、それから出来る限り宿題を終わらせるのが先決だろう。「よし」と呟くと私はぐちゃぐちゃと書き込んだ羊皮紙を折り畳み、新しいものを取り出した。これからダンブルドア先生宛の手紙を書くのだ。

 ダンブルドア先生への手紙には、ハリーのホグズミード行きについてとハグリッドの件について書くつもりだった。ハリーのホグズミード行きについては難しいと思ったが、夏休みにダンブルドア先生に聞いてみるとハリーと約束していたし、ハグリッドについてもハリー達から聞いたことを出来る限り伝えるつもりだった。私に出来ることはやらなくてはならない。

「やっぱりここだったんだね」

 ダンブルドア先生に手紙を書き始めてからしばらくして、図書室のいつもの席に大量に本を抱えたセドリックがやってきた。セドリックはいつも勉強を頑張っている方だったが、今年は例年に比べても本の量が多いように思う。一瞬、そんなに宿題が出たのだろうかと思ったが、すぐにその理由に思い至った。5年生のセドリックは学年末にO.W.L試験があるのだ。

「貴方も大変そうね、セドリック」

 私はあとは自分の名前を書くだけだった手紙に「ハナ」とサインをしてから手紙を仕舞うと、大量の本をテーブルに積み上げているセドリックに言った。セドリックは席に座りながら「まさか5年生がこんなに大変だなんて思わなかったよ。予想以上だ」と苦笑した。

「監督生の仕事やクィディッチのキャプテンとしての仕事もあるのに、今年度はO.W.L試験も控えてるから宿題が山程出て……流石に頭がパンクしそうだよ」
「分身出来たらいいと思わない?」
「いいな。3人くらいに分身出来たら監督生とキャプテンと宿題を分担出来る」

 クスクス笑い合って、私とセドリックはそれぞれの宿題に取り掛かった。図書室の一番奥の席は相変わらず私とセドリック以外誰も来なくて、マダム・ピンスすらほとんど訪れない場所だった。それをいいことに私達は宿題の合間に時々お喋りをして時間いっぱいそこで勉強を続けたのだった。