The ghost of Ravenclaw - 057

7. 新年度のはじまり

――Harry――



 結局、ハグリッドは夕食の席に現れないままだった。スリザリンのテーブルでは大勢が固まって何やら話し込んでいて、マルフォイがどんなに大怪我だったのかあることないこと話しているに違いないとハリーは思ったが、それでもハグリッドが心配なことには変わりなかった。

 ハグリッドが心配なのはロンとハーマイオニーも同じだった。ハーマイオニーはハグリッドが夕食に現れないことを心配して「ハグリッドをクビにしないわよね?」と不安そうに口にしていたし、ロンもひどく落ち込んでいた。美味しそうな食事が目の前にあるにもかかわらず、3人は一向に食べる気になれなくて、空席のハグリッドの席を眺めては溜息をついた。

 夕食の時間が終わると、ハリーはますます不安になってきた。談話室に戻っても魔法生物飼育学での出来事ばかり頭に浮かんでは消えを繰り返し、宿題を広げてみたもののほとんど進まないままだった。ハグリッドはどうして夕食に現れなかったのだろう? マルフォイに怪我を負わせたことを責められ、本当にクビになってしまったのだろうか――ハリーは宿題の手を止めて窓の外を眺めた。すると、

「ハグリッドの小屋に灯りが見える」

 禁じられた森の近くに明かりが灯っているのが見えてハリーは呟いた。ハリーの記憶に間違いなければ、この方角から見えるのはハグリッドの小屋だったはずだ。つまり、ハグリッドは小屋にいるということだ。

「急げば、ハグリッドに会いにいけるかもしれない」

 時計を確認しながらロンが言った。

「まだ時間も早いし……」

 そういう訳で3人は大急ぎで宿題を片付けると、談話室を出てハグリッドの小屋に向かうことにした。シリウス・ブラックの件を忘れていなかったハーマイオニーだけはハリーが遅い時間に外に出ることにいい顔をしなかったが、それでもハグリッドが心配なことが優って、最終的には小屋に向かうことに賛成した。小屋に辿り着くとすぐに扉をノックする。

「ハグリッド、僕だよ。ロンとハーマイオニーも一緒だ」

 ハリーが声を掛けると小屋の中で誰かが動く音がした。それから、ハグリッドにしては随分軽い足音が聞こえたかと思うと、意外な人物が扉から顔を覗かせた。ハナだ。

「いらっしゃい、3人共」
「「「ハナ!」」」

 まさかハナが出てくるとは思わず、ハリー達はびっくりして声を上げた。もしかして、ハナも誰かから今日の授業の話を聞いてハグリッドに会いにきたのだろうか。ハリーがそう考えていると、スリザリン生が話しているのを聞いたのだとハナが教えてくれた。

「夕方、図書室に行ったら話しているのが聞こえたの。それで慌ててハグリッドに会いに来たのよ。何があったのか大体聞いたわ。マルフォイが怪我をしたって――」
「マルフォイが悪いんだ」

 ハリーがすかさず答えた。

「ハグリッドは、ヒッポグリフが気高い生き物だってきちんと説明してたんだ。絶対に侮辱したらいけないって」

 腹を立てながらそう続けると、ハナは宥めるようにハリーの肩をポンポンと優しく叩いてから扉を大きく開け、小屋の中に3人を招き入れた。小屋に入るとハグリッドが白木のテーブルのそばに座っていて、大きなティーカップに注がれた紅茶を飲んでいるところだった。

「お前さん達……会いに来てくれたのか……」

 ハリー達が入って来るのを見るとハグリッドは顔を上げてそう言った。その声は確かにいつもより元気がなかったが、考えていたよりも随分落ち着いているように思えた。聞けば、ハリー達がここへ来るまでの間ずっとハナがハグリッドを励ましてくれていたらしい。

 ハリー達はハグリッドがクビになるのではと心配していたが、今日のところは一先ず免れたらしいということが分かった。ダンブルドア先生がハグリッドの味方をしてくれたのだ。しかし、当のマルフォイはずーっと傷が疼くと訴えているらしく、ハグリッドはそのことを気にして元気を取り戻したり落ち込んだりを繰り返していた。

「ハグリッド、悪いのはマルフォイの方よ!」
「僕達が証人だ。侮辱したりするとヒッポグリフが攻撃するって、ハグリッドはそう言った。聞いてなかったマルフォイが悪いんだ。ダンブルドアに何が起こったのかちゃんと話すよ」
「そうだよ。ハグリッド、心配しないで。僕達がついてる。それに、そのうちの2人は学年一の秀才だ」
「ね、ハグリッド、貴方の味方はたくさんいるのよ」

 ハーマイオニー、ハリー、ロン、ハナの4人が順番にハグリッドを励ますと、ハグリッドは感激した様子でポロポロ涙を流してハリーとロンを力いっぱい抱きしめた。それから紅茶をグイッと飲み干すと「ハナを城まで送っていくっていう約束だったんだ」と言って立ち上がり、そして、ハッとした様子でハリーを見つめ、顔を青くした。まるでたった今ハリーの存在に気付いたというような顔だ。

「お前さん達、一体何しちょる。えっ?」

 とんでもないことだと言わんばかりにハグリッドが叫んだ。

「ハリー、暗くなってからうろうろしちゃいかん! お前さん達! ロンもハーマイオニーも! ハリーを出しちゃいかん!」

 それからハグリッドは怒った様子でハリーの腕をむんずと掴むと引っ張るようにして外に連れ出した。

「俺が学校まで送っていく。もう二度と、暗くなってから歩いて俺に会いにきたりするんじゃねえ。俺にはそんな価値はねえ」