The symbol of courage - 013

2. ホグワーツ特急と組分け儀式



 組分け帽子の渾身の歌の披露が終わり、1年生は1番最初のハンナ・アボットから順に名前を呼ばれ始めた。私はアルファベット順でいくとちょうど真ん中――ハリーの少し前――辺りで呼ばれるはずだ。スーザン・ボーンズにテリー・ブート、マンディ・ブロックルハーストと次々に名前が呼ばれ、遂に私が知ってる人も呼ばれ始めた。クラッブにゴイル、そして、ハーマイオニー・グレンジャーだ。

 クラッブとゴイルは、ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルという名前らしい。彼らは言わずもがな、スリザリンになり、ハーマイオニーは私が知っているとおりグリフィンドールに組分けされた。そのあと何人か挟んで呼ばれたネビル・ロングボトムもグリフィンドールだった。

「ミズマチ、ハナ!」

 私はネビルの次だった。帽子を被ったまま席に着こうとしていたネビルから帽子を受け取り、私はスツールに腰掛けて帽子をグイッと被った。

 帽子は11歳の身体になってしまった私にはとても大きくて、鼻先まですっぽりと覆い隠してしまった。目の前に見えるのは帽子の内側の暗闇だけだ。やがて、

「16年振りの再会だね」

 低い声が私の耳の中で聞こえた。まるで頭の中に直接響いているようだとも思えた。帽子は話をしたことはないものの、私と一度校長室で会ったことを覚えているらしく、懐かしむような声音で話し掛けた。

「君の寮は既に決まっている。しかし、君は非常に勇気に満ちている。悪と毅然と戦う気概を持ち合わせている。グリフィンドールでも悪くはないだろう。定められた運命に乗るか、それとも――」

 すぐにレイブンクローに組分けされるものと思っていたけれど、意外にも組分け帽子は何故かグリフィンドールに入れるかどうか迷っていた。私は最初からレイブンクローのローブを着ていたので、そうなるものと思っていたけれど、グリフィンドールも素敵かもしれない。スリザリンでさえなければ、どの寮もきっと素敵なはずだ。それにどの寮でもやることは変わらない。私は戦う知識を得て、ハリーを守るのだ。

「ふむ、君がそう望むのなら定めに従おう――レイブンクロー!」

 帽子がそう叫ぶのと同時に、向かって左側から二番目の列から大きな拍手が湧いた。けれども喜んでいない人達もいた。レイブンクローの隣――一番左端のグリフィンドールのテーブルから「そりゃないぜ!」とフレッドとジョージが叫んでいる声が聞こえて、私は彼らに手を振ってからマンディ・ブロックルハーストの隣に座った。

「レイブンクローへ、ようこそ!」

 青い目をした金髪の巻き毛の上級生の女子生徒が私に手を差し出してきた。私は「ありがとう!」と言いながら彼女の手を握り返すと、先生達の席を見た。ダンブルドアがにこやかな笑みでこちらを見て、二、三度深く頷いてくれた。

 私の次はモラグ・マクドゥガルだった。それから、マルフォイが呼ばれ――私と目が合うとビクッとしてすぐに目を逸らした――、いよいよハリーの番が近付いて来ていた。

「ポッター、ハリー!」

 ハリーの名前が呼ばれ、彼が前に進み出ると、広間の中はシーンと静まり返った。誰も彼もがハリーを動物園の動物を見るように首を伸ばしてよく見ようとしていたし、ヒソヒソと話をする声も聞こえた。

「ポッターってそう言った?」
「あの、ハリー・ポッターなの?」

 スツールに座ったハリーにマクゴナガル先生が組分け帽子を被せてから、組分け帽子が「グリフィンドール!」と叫ぶまで、ハリーは今までの誰よりも長い時間がかかった。確かスリザリンを勧められたけれど、スリザリンは嫌だって言っていたんだっけ? こうなることを事前に知っていたのなら、私は原作の本を何度でも読み返しただろうし、いつも親世代の話ばかりする友人から原作の詳しい話も聞いていただろうに――後悔先に立たずとはこのことだろうか。

 全ての1年生の組み分けが終わり、食事が始まった。食事の前にはダンブルドアが「二言、三言言わせていただきたい」と言ったあと「Nitwit! Blubber! Oddment! Tweak!」と挨拶をしたのだけど、正直ちょっと意味が分からなかった。直訳すると「間抜け! 贅肉! 半端物! 未熟者!」になるんだけれど。もしかしたら、挨拶なんて不要だ、とダンブルドアはユーモアを交えて伝えたかったのかもしれない。往々にして校長先生というのはちょっとだけとか言いながら、長々と話すものだし。

 レイブンクローには私の知っている人は1人もいなかった。そもそも私は知っている人物がとても少ないのだ。知っている人といえば『賢者の石』でよく登場していた人達くらいである。私にもっと記憶力があれば、細かな人物の名前まで覚えられたかもしれないけれど。

 テーブルに突然現れた豪華な食事を食べながら、私は近くに座っている生徒の何人かと自己紹介し合った。あの金髪の巻き毛の上級生はペネロピー・クリアウォーターというらしく、どうやらパーシーと同級生で今年から監督生に選ばれたようだった。ペネロピーは「成績がいい生徒を蹴落とそうとする人がいるから気をつけて」とそっと忠告してくれたが、私は入る寮を間違えたかもしれないと思った。

 デザートまで食べ終えると最後にダンブルドアがいくつか注意事項を言って、その日は終わりとなった。「とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい4階の一番右側の廊下に入ってはいけません」と神妙な顔つきでダンブルドアは言っていが、今年いっぱいというのが少し引っかかった。私は賢者の石が狙われているとしか忠告していない。ダンブルドアはこの1年で賢者の石に関する問題が解決すると分かっているようだった。

「さあ、1年生、ついてきて!」

 彼はどこまで先を見通せるのだろう。私は不思議に思いながらも寮まで案内をするペネロピーに続いて大広間をあとにした。