The ghost of Ravenclaw - 042

6. アズカバンの看守

――Harry――



「ハリー! ハリー! しっかりして」

 誰かに頬を叩かれている気がして、ハリーは目覚めた。目を開けてみると、体の上にランプがあり、背中はガタゴト揺れている。一体何が起こったのだろう――ハリーは混乱する頭で考えた。

 確か今日はウィーズリー一家とハーマイオニー、それからハナとみんなでホグワーツ特急に乗ったはずだ。乗車前にウィーズリーおじさんからシリウス・ブラックについて忠告を受けて、汽車の中でロンとハーマイオニーとハナにそのことを話した。

 そのあとセドリックがハナを呼びに来て、ハリーは残ったロンとハーマイオニーにホグズミード許可証にサインを貰えなかったことを打ち明けた。マルフォイも来たけど、コンパートメントの中にルーピン先生がいるのを見るとすぐにいなくなった。それから――それからそう、汽車が突然停まって、車内に得体の知れないものが乗り込んできて来たんだった。そうだ、思い出したぞ。

 ハリーはその得体の知れない黒い影のようなものがコンパートメントにやって来て、息を吸い込んだ瞬間のことを思い出して気分が悪くなるのを感じた。気が付けば、冷や汗もびっしょりかいている。しかし、誰かの叫び声が聞こえたけれど、あれは誰の叫び声だったのだろうか――。

 周りを見渡してみると、ロンやハーマイオニーが両脇に屈み込んで心配そうに床に倒れているハリーを覗き込んでいた。その更に上には汽車の明かりが消えてしまった際にハリー達のコンパートメントに飛び込んできたネビルと、ずっと隅で眠っていたハナの第2の保護者だという新しいD.A.D.Aの担当教師であるルーピン先生の顔も見える。

 ハリーが倒れている間に汽車は明かりが戻り、再び動き出しているようだった。ハリーはロンとハーマイオニーに抱えられるようにして席に座りながら、辺りを見渡した。あの得体の知れない黒い影はどこかに消えてしまったようだった。

「大丈夫かい?」

 恐々とした様子でロンが訊ねた。

「ああ。でも、何が起こったの? どこに行ったんだ――あいつは? 誰が叫んだの?」
「誰も叫やしないよ」
「でも、僕、叫び声を聞いたんだ――」

 ロンはハリーの言葉にますます心配そうな顔をしていた。ロンだけではない。ハーマイオニーだって、ネビルだって、それに一番最後にコンパートメントに飛び込んできたジニーだって、蒼白な顔をしながら不安気にハリーを見返している。誰も叫び声を聞いたことに同意する人はいなかった。

 すると、突然パキッという大きな音が聞こえて、みんな飛び上がった。見れば、ルーピン先生が大きな板チョコを割っているところだった。そういえばハナが昨夜チョコレートのことを話していた――ハリーはそれを見て思った。

「さあ。食べるといい。気分がよくなるから」

 ハリーはルーピン先生から特別大きな欠片を受け取ったが、食べなかった。チョコレートを食べるより先に聞きたいことがあったからだ。

「あれはなんだったのですか?」

 みんなにチョコレートを配っているルーピン先生にハリーが訊ねた。しかしそれを知りたかったのはハリーだけではなかった。みんながルーピン先生を見つめて、ルーピン先生の答えを待っている。

吸魂鬼ディメンターだ」

 空になったチョコレートの包み紙を丸めてポケットに入れながらルーピン先生が答えた。

「ハナが言ってました。吸魂鬼ディメンターはアズカバンの看守だって」
「そうだ――あれもアズカバンの看守の1人だ」

 それからルーピン先生はもう一度コンパートメントの中を見渡すと誰も渡されたチョコレートを食べていないことに気付いて「食べなさい」と繰り返した。次の瞬間、

「先生!」

 コンパートメントの中にセドリックが飛び込んできて、ルーピン先生以外のみんなが飛び上がった。みんなが一斉にセドリックを振り返ると、セドリックはいつになく慌てた様子で続けた。

「先生、ハナが――ハナが、気を失ってしまったんです。ずっと“お願い、ジェームズを殺さないで“って苦しんでて――先生ならハナを助けられるんじゃないかって、急いで来たんです」

 セドリックがそう言った瞬間、ルーピン先生の元々あまり良くなかった顔色が更に悪くなったように思えた。大急ぎでハリーの前を通り抜けて、通路へと向かって行く。

「ハナのところに案内してくれ。すぐに行こう――君達はここで待っているように。いいね」

 それからルーピン先生とセドリックはバタバタと走って見えなくなってしまった。ハリーは混乱しながらロンやハーマイオニー、ネビル、ジニーの顔を見渡した。誰もが「あのハナが倒れたなんて」という顔をしていたが、ハリーは違うことが気になって仕方がなかった。ハリーの聞き間違いでなければ、セドリックは確かにこう言ったからだ。

『ずっと“お願い、ジェームズを殺さないで“って苦しんでて――』