The symbol of courage - 011

2. ホグワーツ特急と組分け儀式

――Harry――



 太陽の光に当たると茶色く透けてキラキラと輝く長い黒髪に明るいヘーゼルの瞳、アジア系を思わせる顔立ちなのに、肌はまるで白磁のように色白でそばかす1つない――ハリーがホグワーツ特急で同じコンパートメントになったハナ・ミズマチは控え目に言っても可愛くて美人だった。こんなに魅力的な女の子はマグルには絶対にいないだろう、とすら思った。

 ハナは4分の3は日本人だが、母方の祖父がイギリス人のクォーターだった。ハリーと一緒で両親は亡くなっていてもういないらしい。日本のマグルの世界で暮らしていたけれど、祖父の関係なのか何故だかイギリスに魔法使いの後見人がいる不思議な子だった。日本からイギリスに来たのは最近だそうだが、あとからコンパートメントにやってきたロン・ウィーズリーとはダイアゴン横丁で会ったことがあり顔見知りで、しかも、ロンの兄で双子のフレッドとジョージとは既に仲が良さそうだった。

 ハナはマグル出身だけれど、ハリーとは違いホグワーツのことは何でも知っているように見えた。けど、車内販売で買った蛙チョコに「これがあの蛙チョコ!」と大興奮したり、チョコについていたダンブルドアのカードを見て「わあ、ダンブルドアがいなくなったわ!」とはしゃいでいたので、ハリーと同じように知らないこともたくさんあった。

 それにハナはハリーと同じでロンの家の話に興味津々で、ロンの話をニコニコして聞くので、ロンは上機嫌だった。けれど、ハリーのマグルでの生活を聞くとハナは一変してダーズリー一家を今にも吹き飛ばしたいと考えているような顔をした。ハリーは彼女が心から怒ってくれたことが嬉しかったが、何故か彼女は同じ顔をロンのペットのスキャバーズにもした。きっと、女の子だからネズミが苦手なのかもしれない。

 ホグワーツ特急の中ではさまざまなことが起こった。ヒキガエル探しの子がやってきたり、教科書を全部暗記したと豪語する女の子がやってきたり、グリンゴッツに強盗が入ったという話も聞いた。それに、マダム・マルキンの店で出会った青白い子もやってきた。男の子はガッチリとした体型の男の子を2人ボディガードに連れていた。青白い子がドラコ・マルフォイで、ボディガードの2人はクラッブとゴイルと言うらしい。

 ハナはマルフォイ達が現れても黙って状況を見守っていたが「もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道を辿ることになるぞ。君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ」と言った瞬間、ハリーがダーズリー一家の話をした時に見せたあの怖い顔をして、誰が何を言うより早くマルフォイ達を呪文で吹き飛ばした。

「ミスター・マルフォイ――二度と――彼らを――侮辱――しないで!」

 ハナは何故かハリーよりも怒り心頭で、吹き飛ばされたマルフォイ達は怯えきって転がるように慌ててその場から去って行った。そんな彼女の姿を見たロンが「ハリー、ハナってちょっと怖いよな」とハリーに耳打ちしてきたが、ハリーは彼女がまるで自分の家族が侮辱されたかのように怒ってくれたのが嬉しかった。ハナが彼じゃなくて彼ら・・と言ったことが少し引っ掛かったが、きっと自分とロンのことを言ったのだろうと思った。マルフォイはロンのこともバカにしていたからだ。

「ロン、ハナってとっても素敵だと思うよ」

 ハリーはロンに小声でそう返したが、ロンは正気かと言いたげな目でハリーを見ていた。けれど、マルフォイ達が吹き飛ばされたのは気分が良かったのか「まあ、あいつらが吹き飛ばされたのは良かったよな」と言っていた。

 それからロンからマルフォイ一家の話を聞いていたらあの教科書を丸暗記したという女の子――ハーマイオニーが現れて「もう間もなく着く」と教えてくれたので、ハリー達は慌ててローブに着替えた。もちろん、ハリーとロンはハナとは別々で、だ。

「私、とっても緊張してきた」
「大丈夫だよ。君、マルフォイを吹き飛ばしたんだから、少なくとも僕達3人の中では一番優秀さ」

 緊張した様子のハナにロンが茶化しながら言った。

「違う寮になっても仲良くしてくれる?」
「もちろん。君はスリザリンじゃないことだけは確かだからね」
「ロン、マルフォイを吹き飛ばしたことはもう忘れて!」

 ハリーはハナやロンと同じ寮になれたらいいのに、と密かに思った。けれど、一度寮の話になった時にロンの家は代々グリフィンドールだと言っていたし、ハナは何故か「私はレイブンクロー」ともう既に寮が決まっているかのように言っていた。それが本当ならハリーは少なくともどちらかとしか同じ寮になれないのだ。

「あと5分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」

 やがて、車内に響くアナウンスが聞こえた。ハリーも緊張で胃がひっくり返りそうになったし、少し前までハナを茶化していたロンも顔が青白くなっていた。そのまま3人は無言で通路に溢れる人の群れに加わった。