The ghost of Ravenclaw - 034

5. クルックシャンクスと夏休み最後の日



 夕食が終わると、明日持っていくものを確認するために部屋に戻ることになった。私もハリーやロン、ハーマイオニー達と部屋に戻ろうすると、後ろからやって来たフレッドとジョージが「俺達は女王陛下に見限られた」と互いに肩を組み泣き真似しながら追い越して行って、ハーマイオニーが「あれ確かに超ド級のお調子者ヒュマンガス・クラウンね」と苦笑いしていた。

「あら、どこの子?」

 1号室に入ると、ロキの鳥籠の中で知らない森ふくろうが水を飲んでいるのを見つけて、私は話しかけた。ロキは今夜満月なので、もう既にリーマスのところへ出掛けてしまっている。とても頭のいい子なので、ロキは満月がいつなのか、私やリーマスに言われなくても分かっていて、時間になると飛んでいくのだ。今日も窓を少し開けて出掛けておいたら、午後に戻ってきた時には既に鳥籠は空になっていた。

 ロキが出掛けたのを確認したあとも何かあった時のために窓を開けたままにしておいたので、この森ふくろうは勝手に入って寛いでいたのだろう。よくよく見てみると、森ふくろうの脚には羊皮紙が括り付けられている。どうやら手紙を配達に来てくれたらしい。

「手紙を持ってきてくれたのね。ありがとう」

 近付いてみると、森ふくろうは手紙が括り付けられた脚をスッとこちらに出した。私はそれにお礼を言うと丁寧に外して、細長く折り畳まれていた羊皮紙を広げた。リーマスからだ。



 ハナ、ハリーとの夏休みは満喫出来たかな?
 私は満月が近くてあまり体調が良くないが、ホグワーツでは概ね上手くやっているよ。来月からは脱狼薬を飲めるようになるけれど、これはどうやら苦いらしい。しかも砂糖を入れると効果がなくなるようなんだ。セブルスが嬉々として伝えてくれたよ。

 以前話していたと思うが、明日の朝、私もホグワーツ特急に乗ることになった。これはダンブルドアたってのご希望でね。いろいろ事情があるんだが、ここに書くのはやめておこう。誰に見られるか分からないからね。

 リーマスより 友情を込めて

 追伸 明日はチョコレートをポケットの中に多めに入れておくように。役に立つかもしれない。



「リーマスとホグワーツ特急に乗れるだなんて!」

 手紙を読むなり私は嬉しさのあまり叫んだ。いろいろ事情があると書いてあるので、シリウスの脱獄関係で何かあるのだろうけれど、それでも汽車に乗り込む教師にリーマスを指名したのはダンブルドア先生の粋な計らいというものだろう。とはいえ、満月明けでリーマスは調子が悪いだろうから、何か元気になるものを用意した方がいいかもしれない。私はポシェットの中に早速、以前ロンから貰った蛙チョコレートを入れながらそう思った。

 部屋の中に忘れ物がないか確認し、トランクの中の荷物を確認し始めると、鳥籠の中で寛いでいた森ふくろうは「なんだ返事を書かないのか」とでも言いたげにこちらを見て、やがて窓から飛び去った。しばらくするとその窓から明かりを求めてやって来た虫達が入ってきて、私は迷った末に閉めることにした。何かあってロキやふくろうが飛んできたら、きっと窓を叩いてくれるだろう。

 1ヶ月お世話になった部屋の中からほとんどの私物がなくなり、トランクやポシェットの中にそれぞれ収まったころにはもうすっかり遅い時間になっていた。1階のパブも閉店の時間だろう。しかし、大勢でのお泊まりに興奮しているのか、それとも誰かが喧嘩しているのか、何やら廊下が騒がしい――私は扉から顔を出して廊下をキョロキョロと見渡した。声は廊下の奥からも聞こえて来るが、1階のパブからも聞こえてくるように思う。

「ハナ、何してるの?」

 そのまま階下から聞こえる声に耳を澄ませているとハリーに声を掛けられて私は振り向いた。廊下の奥からやってきたハリーは、部屋から顔だけ突き出している私を見て不思議そうにしている。

「ハリー。なんだか下から話し声が聞こえるの」
「話し声?」
「ええ、喧嘩しているみたい……」
「向こうでロンとパーシーが喧嘩してたよ」
「いいえ、そうじゃないみたい。来てみて」

 手招きすると、ハリーは私のそばまで歩いてきて、同じように耳を澄ませた。すると、階下からはっきりとハリーの名前が聞こえてきて、私達は驚いて顔を見合わせた。

「……ハリーに教えないなんてバカな話があるか」

 この声はウィーズリーおじさんである。もしかするとシリウスの件について話し合っているのかもしれない――私がどうするか迷っていると、ハリーが「行ってみよう」と階下を指差した。まだ私から真実を話すことは出来ないが、ハリーはやはり現在魔法界で起こっていることを正確に知る必要があるだろう。それに自分の名前が出ているのに聞かないでいられるはずがない。迷った末、私はハリーのあとに続いて階段を降りて行った。