The ghost of Ravenclaw - 033

5. クルックシャンクスと夏休み最後の日



 漏れ鍋の店内に他の子ども達を引き連れたウィーズリーおばさんも戻ってくると、午後の残りの時間はとても賑やかで楽しいものになった。ウィーズリーおばさんは、パーシーがヘッドボーイに選ばれたことがとても誇らしいようで何回もその話をしたし、そんなパーシーはもう既に「HEAD BOY」と書かれた真新しい金のピンバッジを付けていた。しかもパーシーはやけに畏まった挨拶をするので、ハリーは笑いを堪えるのに必死になっていた。

 逆にフレッドとジョージは「ヘッドボーイなんて不名誉だ」と言いたげだった。畏まった挨拶をするパーシーの真似をして「お懐かしきご尊顔を拝し、なんたる光栄――」と言って私とハリーに仰々しい挨拶をして揶揄からかっていたし、「ピラミッドに閉じ込めてやろうとした」と嘘か本気か分からないことを話していた。ウィーズリーおばさんは、フレッドとジョージのどちらかが監督生に選ばれ、ジニーのお手本となることを望んでいるようだったけれど、本人達は反吐が出るという顔をしていた。

 ジニーはハリーの前ではドギマギがパワーアップしたように思えたけれど、夏休みに入る前や日刊予言者新聞で見た時よりもずっと元気そうだった。私を見ると「ハナ! 会いたかったわ!」と満面の笑みで言ってくれたし、フレッドとジョージのおふざけにクスクス笑ったりしていた。

 ウィーズリー家とハーマイオニーは合わせて4部屋取っていた。ロンはパーシーと同室になってうんざりとした様子で、1人部屋の私とハリーを羨ましがっていたが、ハーマイオニーの方はジニーと同室で楽しそうだった。けれども、私がハーマイオニーとジニーの部屋に行くと「この夏セドリックと少しは進展したか」と質問攻めに合ったので、私は早々に退散することになった。セドリックの家に泊まったことは言わない方が良さそうである。

 残りの2部屋はウィーズリー夫妻とフレッドとジョージの部屋だった。フレッドとジョージの部屋は私の部屋のすぐ近くで、彼らは私の部屋までやってくると「女王陛下に献上の品をお持ちしました」と言ってミニチュアのピラミッドの模型をくれた。ピラミッドは杖で突くとパカっと開いて内部が見えるようになっていて、とても興味深いものだった。

 夕食になると、トムさんがテーブルを3つ繋げてくれて、ウィーズリー家の7人、ハリー、ハーマイオニー、そして私の10人で、フルコースの美味しい食事を楽しんだ。デザートは豪華なチョコレートケーキだ。

「パパ、明日、どうやってキングズ・クロス駅に行くの?」

 ケーキにかぶりつきながらフレッドが訊ねた。確かに言われてみればその通りである。私とハリーだけなら地下鉄で移動しても良かったけど、10人の大所帯となるとそうもいかない。しかも、ウィーズリーおじさんの所有していたフォード・アングリアは、去年、禁じられた森の中で野生化してしまってもう手元にはない。なら、一体どうするのか――不思議に思っているとウィーズリーおじさんが答えた。

「魔法省が車を2台用意してくれる」

 その答えに、私はなるほどと内心納得した。つまり、ハリーの護衛である。長期休暇明けで、しかもシリウスの件で忙しいウィーズリーおじさんが休みを取って漏れ鍋に泊まれたのは、そういう理由があったのだ。しかし、そうとは知らない周りの子ども達はビックリしたのか一斉にウィーズリーおじさんを見た。

「どうして?」

 パーシーが訝しげに訊ねると、ウィーズリーおじさんが答えに詰まっている間に、ジョージが真面目な顔で口を開いた。

「パース、そりゃ、君のためだ。小さな旗が車の前につくぜ。HBって書いてな――」
「――HBってヘッドボーイ――じゃなかった。 超ド級のうぬぼれ屋ヒュマンガス・ビッグヘッドの頭文字さ」

 フレッドがあとを受けて言った。パーシーとウィーズリーおばさん以外は、デザートの上に吹き出さまいとして笑いを堪えている。私はそれに少しだけ眉根を寄せた。これはちょっとパーシーが可哀想だ。

「なら、もう1台にはHCって旗をつけて貰うべきね」

 澄ましたフリをして私は言った。

「HCって超ド級の賢さヒュマンガス・クレバー――じゃなかった。 超ド級のお調子者ヒュマンガス・クラウンの頭文字よ」

 今度こそみんなブーッと吹き出した。フレッドとジョージは裏切り者を見るような目でこちらを見ていたけれど、それ以外の人達には好評でウィーズリーおじさんは笑った勢いで変なところにケーキが入ったらしくゴホゴホ咳き込んでいたし、ロンとジニーはヒーヒー言いながら笑っていた。特にウィーズリーおばさんにはこのジョークが気に入ったようで、私のお皿にチョコレートケーキをたっぷり追加していた。目には目を、歯には歯を、冗談には冗談を返すのが一番である。

「お父さん、どうしてお役所から車が来るんですか?」

 パーシーがすっかり逸れてしまった話を戻しながら訊ねた。

「そりゃ、私達にはもう車がなくなってしまったし、それに、私が勤めているので、ご好意で……」

 喉に引っかかったケーキを飲み物で流し込みながらウィーズリーおじさんが答えた。それを受けて、ウィーズリーおばさんがきびきびと話した。

「大助かりだわ。みんな、どんなに大荷物なのか分かってるるの? マグルの地下鉄なんかに乗ったら、さぞかし見物でしょうよ……。みんな、荷造りは済んだんでしょうね?」
「ロンは新しく買ったものをまだトランクに入れていないんです」

 すかさずパーシーが言った。いかにも苦難に耐えているような声である。

「僕のベッドの上に置きっぱなしなんです」
「ロン、早く行ってちゃんとしまいなさい。明日の朝はあんまり時間がないのよ」

 ウィーズリーおばさんがテーブルの反対側からロンに呼びかけると、ロンはしかめっ面でパーシーを見たのだった。


[追記]
邦訳版では「ヒュマンガス・ビッグヘッド」は「石頭」となっていますが、当作品ではルビの関係で直訳である「超ド級のうぬぼれ屋」としています。こういう意味もあるんだねー、くらいに思って頂ければ幸いです。