The ghost of Ravenclaw - 032
5. クルックシャンクスと夏休み最後の日
クルックシャンクスを買うと決断してからのハーマイオニーは、何を決めるにしても早かった。キャットフードやキャリーケージに至るまでパッパッと決め、ロンが忘れていたネズミ栄養ドリンクも素早く購入し、ロンとハリーが大慌でスキャバーズを追って行ってから10分後くらいにはすべての買い物を済ませてしまっていた。カメラで1時間悩む私とは大違いである。
「ロンとハリーを探さないと――それから、ハーマイオニー、クルックシャンクスを早めにキャリーケージに入れておいた方がいいわ。ダイアゴン横丁の中で追いかけっこが始まったら大変よ」
「あら、大丈夫よ。それにこの子が賢いって言ったのは貴方よ、ハナ」
クルックシャンクスを両手で抱えるハーマイオニーの代わりにキャットフードとキャリーケージを持ちながら、私はこの先のことを考えて嘆息した。クルックシャンクスは完全に
「ハーマイオニー、ちゃんと躾をしないといけないわ。クルックシャンクスは賢い子だからきっと――」
スキャバーズを捕まえたいとは思っているけれど、私は2人が喧嘩することを望んでいる訳ではない。魔法動物ペットショップをあとにしながら、私がハーマイオニーに説明していると、ちょうど通りに出たところでロンとハリーと鉢合った。どうやらスキャバーズを捕まえたようで、ロンの胸ポケットはぽっこり盛り上がっている。そんなロンはといえば、ハーマイオニーの腕の中にいるクルックシャンクスを見てあんぐりと口を開けていた。
「君、あの怪物を買ったのか?」
信じられないという顔のロンに対し、ハーマイオニーは得意満面だった。「この子、素敵でしょう、ね?」と嬉しそうにクルックシャンクスに話し掛けている。買って数分もしないうちに親バカが炸裂してしまっているようだ。私とハリーは顔を見合わせてお互いなんとも言えない表情をした。
「ハーマイオニー、そいつ、危うく僕の頭の皮を剥ぐところだったんだぞ!」
「そんなつもりはなかったのよ。ねえ、クルックシャンクス?」
「それに、スキャバーズのことはどうしてくれるんだい? こいつは安静にしてなきゃいけないんだ。そんなのに周りをウロウロされたら安心出来ないだろ?」
「それで思い出したわ。ロン、貴方、ネズミ栄養ドリンクを忘れてたわよ」
ハーマイオニーはネズミ栄養ドリンクの小さな赤い瓶をロンの手に渡しながら言った。
「それに、取り越し苦労はおやめなさい。クルックシャンクスは私の女子寮で寝るんだし、スキャバーズは貴方の男子寮でしょ。何が問題なの? 可哀想なクルックシャンクス。あの店員が言ってたわ。この子、もう随分長いことあの店にいたって。誰も欲しがる人がいなかったんだって」
「そりゃ不思議だね」
ロンは不機嫌さを隠すことなく皮肉っぽくそう言うと、ハーマイオニーから少し距離を取って漏れ鍋へと歩き出した。ロンは普段、スキャバーズに対して「お下がりだから」とか「格好悪い」とか言うことが多かったけれど、なんだかんだずっと一緒にいる相棒を可愛がっているのだ。それが実は裏切り者の人間だと知ったらどれほどショックか――シリウスと一緒にこの点についても話し合わなければならない。ロンのケアは私達の共通の課題だ。
再びクルックシャンクスとスキャバーズの追いかけっこが始まるなんてことはなく、無事に漏れ鍋まで辿り着くとロンの不機嫌さも若干落ち着いていたようだった。一先ずは良かったと胸を撫で下ろしながら店内に入ると、ウィーズリーおじさんが日刊予言者新聞を読みながらパブの一画に座っていた。そんなウィーズリーおじさんは私達がやって来たことに気付くと、私とハリーを見てニッコリと笑った。
「ハリー! ハナ! 元気かね?」
「はい、元気です」
「私もとっても元気です」
挨拶を交わし、私達が周りに腰掛けると、ウィーズリーおじさんは読んでいた新聞をテーブルに置いた。すると、一面に大きく載っているシリウスの顔が私を見て一瞬ニヤッと笑ったかと思うと、今度はハリーに視線を移してハリーの顔をじーっと見つめていた。
「それじゃ、ブラックはまだ捕まってないんですね?」
シリウスの写真に気付いたハリーがウィーズリーおじさんに訊ねた。ウィーズリーおじさんも深刻そうに頷いている。
「ウム。魔法省全員が通常の任務を返上して、ブラック捜しに努力してきたんだが、まだ吉報がない」
「僕達が捕まえたら賞金が貰えるのかな?」
真面目に語るウィーズリーおじさんとは裏腹に息子のロンは軽い口調で言った。
「また少しお金が貰えたらいいだろうなあ――」
「ロン、バカなことを言うんじゃない。13歳の魔法使いにブラックが捕まえられるわけがない」
ウィーズリーおじさんの声はやけに緊張しているようだった。
「ヤツを連れ戻すのは、アズカバンの看守なんだよ。肝に銘じておきなさい」