The ghost of Ravenclaw - 030

5. クルックシャンクスと夏休み最後の日



 ロンからはハリーが期待するような答えは返って来なかったものの、代わりに嬉しい知らせを教えてくれた。なんと、ロンもハーマイオニーも今夜は漏れ鍋に泊まるので、明日はみんなで一緒にキングズ・クロス駅に行けるという。これには私もハリーも大喜びで「最高!」と2人同時に声を上げた。

 ロンとハーマイオニーは私達がカメラ店にいる間に新しい教科書など、新年度に必要なものはすべて揃えてしまっていたようで、ロンは教科書の他に新しい杖を持っていたし、ハーマイオニーはなんとはちきれそうな袋を3つも持っていた。昨年度話に聞いていた通り、ハーマイオニーは3年生から新しく始まる選択科目を全部選択していたので、そんな量になってしまったという。ロンはどうしてハーマイオニーがマグル学を取るのか今更ながらに不思議になったようだった。

「君はマグル出身じゃないか! パパやママはマグルじゃないか! マグルのことはとっくに知ってるだろう!」
「だって、マグルのことを魔法的視点から勉強するのってとっても面白いと思うわ」
「ハーマイオニー、これから1年、食べたり眠ったりする時間はあるの?」

 ロンが信じられないというような顔で言うと、ハリーも心配そうに訊ねた。最初に話を聞いた時には流石グリフィンドールの才女だと感心したものだけれど、確かに改めて考えてみると、選択科目を全部選ぶなんて大変なことだ。私もハリーに同意するようにハーマイオニー訊ねた。

「そうよ、ハーマイオニー。そんなにたくさん抱えて心配だわ。貴方、本当にそれで大丈夫なの?」
「逆に私はハナが2科目しか選択してないことに驚きだわ。前にチラリと話を聞いた時から不思議だったけれど、どうして全部選択しなかったの?」
「私、そんなに抱えられないわ」

 信じられないというようにこちらを見るハーマイオニーに私は困ったように眉尻を下げて言った。

「だって、授業以外で他にやりたいことがたくさんあるの。それで、セドリックに相談したら――」

 私は昨年度選択科目を選ぶ際、セドリックに相談したことを思い出してそう言ったが、途中で慌てて口をつぐんだ。なぜなら、ハーマイオニーどころかロンまでニヤニヤしながらハナを見ていたからである。私はわざとらしく咳払いをすると、話題を変えることにした。

「それで――2人は――えー――何かご予定は?」
「私、まだ10ガリオン持ってるの」

 ハーマイオニーがクスクス笑いながらも財布を取り出して言った。

「私のお誕生日、9月なんだけど、自分でひと足早くプレゼントを買いなさいって、パパとママがお小遣いをくれたの」
「素敵なご本はいかが?」

 ロンが揶揄からかうように言った。すると、ハーマイオニー「お気の毒さま」とピシャリと答えた。なんでもハーマイオニーはふくろうが欲しいらしい。ハリーにはヘドウィグが、私にはロキが、ロンにはエロールがいることが羨ましいらしい。しかし、ハーマイオニーがエロールについて言うと、ロンはすぐさま勘違いを訂正した。

「僕のじゃない。エロールは家族全員のふくろうなんだ。僕にはスキャバーズしかいない」

 そう言って、ロンはポケットの中からペットのネズミのスキャバーズを引っ張り出した。どうやらこのところ弱っているらしい。ロンはエジプトの水が合わなかったようだと言っていたが、私は弱っている本当の理由を知っていた。

 今ここで捕まえることが出来ればどんなにいいだろう――私はスキャバーズをジッと見つめた。すると、こちらに気付いたスキャバーズが突然逃げようとするかのように暴れ出して、ロンが非難の声を上げた。

「ハナ! スキャバーズを睨まないでくれ! 怖がってるじゃないか!」

 その声に私はハッとしてロンやハリー、ハーマイオニーを見た。ロンは怒ったようにスキャバーズをポケットに戻していて、ハリーとハーマイオニーは戸惑ったように私を見ていた。

「ごめんなさい、私……」

 きっと怖い顔をしていたに違いない。去年もリーマスから「考えていることが時々顔に出る」と注意を受けていたのに、失念してしまっていた。

「ハナ、一体どうしたの?」

 ハーマイオニーが気遣わしげな声で訊ねた。

「貴方がそんな顔をするなんて」
「なんでもないの。ロン、気を悪くさせてしまって本当にごめんなさい」
「ウン――いいよ――あの、僕もちょっと強く言い過ぎたと思うし……」

 ハーマイオニーは私の方をチラチラと見て本当は何があったのかを聞きたそうにしていたけれど、ハリーが「魔法動物ペットショップ」に行こうと話題を変えてくれて、私はこれ以上何かを聞かれずに済んだ。私達はアイスクリームを購入すると、フォーテスキューさんに丁寧にこの夏のお礼を言ってから、ペットショップに向かったのだった。