The ghost of Ravenclaw - 029

5. クルックシャンクスと夏休み最後の日



 ハリーと過ごした漏れ鍋生活もいよいよ最終日を迎え、夏休み最後の日がやってきた。私もハリーもこの1ヶ月の間にダイアゴン横丁でやりたいことはほとんどやり尽くしてしまっていたけれど、ずっと欲しいと考えていたカメラをまだ買っていなかったことに気付き、最終日の今日はまず、カメラを購入しに行くことになった。

 1つ下のグリフィンドール生であるコリン・クリービーが持っていたようなカメラを扱う店は、ダイアゴン横丁の中ほどにあった。店の入口の上には大きなカメラの形をした看板が提げられていて、ショーウィンドウには高級そうなものが一台飾られている。店内に入ると、愛想の良さそうな魔法使いが私達を出迎えてくれた。どうやら彼がこの店の店主のようだ。

「いらっしゃいませ。現像でしょうか? それとも、カメラをお探しで?」
「カメラを探しています。出来るだけ小型で持ち歩きに便利そうな――こちらでは現像もしているんですか?」
「ええ、しております。機会があれば是非」

 店主に案内され、私は小型のカメラが置いてある商品棚へ向かった。ハリーは待っている間、店内をあちこち見て回るようで、珍しそうにしながら置いてあるカメラを眺めている。店内には、去年フローリシュ・アンド・ブロッツ書店でハリーとロックハートの写真を撮った日刊予言者新聞のカメラマンが持っていたような本格的なものもあれば、コリンが持っているようなものもあった。

「1番小型のものはこちらでございます。旧式のカメラですが小さいので、お嬢さんにも扱いやすいかと思います」

 小型カメラのコーナーにやってくると、店主が1番小さなカメラを手に取って薦めてくれた。確かに1番小さくて両手で子どもの手にも持ちやすそうだが、旧式というだけあって私が知っているカメラに比べるとレトロチックで、扱いづらそうだ。カメラはシャッターを押せば大丈夫だとは思うけど……うーん。

「最新のものはありますか?」
「ええ、あります――こちらです」

 私が訊ねると、店主は違うカメラを手に取って言った。

「先程のものより少し大きくなるんですが、こちらはマグルのものを参考に作られていて、性能は遥かにいいです。手振れ補正魔法付きで、いついかなる時でもピントが合うようになっています」
「旧式のものには手振れ補正魔法は付いていないんですか?」
「はい。比較的新しい魔法で――お値段は高くなりますが、手振れが心配な場合はこちらがお勧めです。手振れしてしまった写真は上手く現像出来ない可能性がありますからね。写真が動かなかったり、ブレたまま動いたり……」

 値段を見ると旧式と最新式のものとでは倍くらい値段が違っていて、私はギョッとした。1番小さいし安いから旧式でもいいけれど、使いやすさと性能は最新式の方が圧倒にいい――。私は他にもいくつかのカメラの説明を受けて、あれやこれやと1時間以上も掛けて迷い、結局最新式のものを買うことにした。

「お待たせ、ハリー!」

 私が悩んでいる間、ハリーは文句も言わずに待っていてくれた。どうやら現像の受付カウンターの近くにこれまで現像した写真が展示されていたらしく、最後の方はそれを眺めて時間を潰してくれていたようだった。「誰か知り合いはいた?」と訊ねるとハリーは肩を竦めて「知らない顔ばっかりだったよ」と答えた。

「さあ、次はファイアボルトを見に行く? それともサンデーを食べる? 付き合わせてくれたお礼にご馳走するわ」
「フォーテスキューさんにお礼も言わなきゃ。僕達、とってもお世話になったから」
「じゃあ、アイスクリーム・パーラーに行きましょう!」

 カメラ店の次はフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーに向かうことになった。この1ヶ月間、勉強を教えてくれたりサンデーをたくさん振る舞ってくれたフォーテスキューさんにしっかりとお礼を言わなければならない。私とハリーは来た道を戻り、アイスクリーム・パーラーを目指した。すると、もう少しで店だというところで、誰かが大声で私達の名前を呼んだ。

「ハリー! ハナ!」

 ロンとハーマイオニーだった。なんと2人は目的地であるアイスクリーム・パーラーのテラスに座っている。ロンは新聞で見た時と同じように元気そうで、ハーマイオニーはフランスで日に焼けたのか、いつもは白い肌が小麦色になっている。2人共、こちらに向かってちぎれんばかりに手を振っていて、私とハリーは顔を見合わせてニッコリ笑うと2人の元へと駆け寄った。

「やっと会えた!」

 私達が空いている席に座るとロンがニコニコしながら言った。

「僕達、漏れ鍋に行ったんだけど、君達はもう出ちゃったって言われたんだ。フローリシュ・アンド・ブロッツ書店にも行ってみたし、マダム・マルキンのとこにも、それで――」

 どうやら私達がカメラ店で買い物をしている間にあちこち探し回ったらしい。完全にすれ違いである。私が申し訳なく思っていると、ハリーが先に必要なものはもう買ってしまったことや、カメラ店に行っていたことをロンとハーマイオニーに話した。

「それで、今戻ってきてたところだったんだ。でも、僕達が漏れ鍋に泊ってるって、どうして知ってたの?」

 不思議そうにハリーが訪ねると、ロンが答えた。

「ハナは手紙で教えてくれたから元々知ってたけど、君のことはパパから聞いたんだ」

 ウィーズリーおじさんは魔法省に勤めているので、ハリーに何があったのかを知っているのだろう。私とハリーが納得していると、今度はハーマイオニーが真剣な表情をして訊ねた。

「ハリー、本当におばさんを膨らませちゃったの?」

 どうやらハーマイオニーも事情を聞いて知っているらしい。ハリーが少し言いづらそうにしながらも「そんなつもりはなかったんだ」と答えると、ロンは膨らんだおばさんを想像したのか爆笑して、ハーマイオニーがしかめっ面をした。

「ロン、笑うようなことじゃないわ。本当よ。ハリーが退学にならなかったのが驚きだわ」
「僕もそう思ってる。退学処分どころじゃない。僕、逮捕されるかと思った」

 ハリーが真剣な表情で言った。

「ハナが、ファッジが僕を見逃したのは凶悪犯が脱獄した影響もあるんじゃないかって話してたけど、本当のところはどうなんだろう? 君のパパは知らないかな?」

 もしかするとロンがウィーズリーおじさんから聞いていて、本当のことが分かるかもしれないと思ったのだろう。しかし、ロンはハリーが求めていたような答えは持っていなかった。

「たぶん、君が君だからだ。違う?」

 まだ笑いが止まらないロンが、大抵そんなもんだとばかりに肩を竦めた。

「有名なハリー・ポッター。いつものことさ。おばさんを膨らませたのが僕だったら、魔法省が僕に何をするか、見たくないなぁ。もっとも、まず僕を土の下から掘り起こさないといけないだろうな。だって、きっと僕、ママに殺されちゃってるよ」