The ghost of Ravenclaw - 028

4. 魔法大臣と漏れ鍋

――Harry――



 新年度のスタートが近付いてくると、ダイアゴン横丁にはホグワーツ生達が大勢やって来るようになった。ハリーは高級クィディッチ用品店でファイアボルトを穴が開くほど見つめているシェーマス・フィネガンやディーン・トーマスなどのグリフィンドール生を何人か見かけたし、書店の前では本物のネビル・ロングボトムを見かけたが、特に話はしなかった。

 丸顔で忘れん坊のネビルは、教科書リストをしまい忘れたらしく、いかにも厳しそうなネビルのおばあさんに叱られているところだった。その剣幕にハリーは思わず、マグノリア・クレセント通りから漏れ鍋に向かう途中、ネビルの名前を語ったことがおばあさんにバレませんように、と願わずにはいられなかった。

 一方ハナは同じレイブンクロー生のパドマ・パチルやリサ・ターピン、マンディ・ブロックルハーストと再会を喜んだし、あのハッフルパフのハンサムな上級生とも会った。彼はハリーとハナがちょうどカフェで昼食を食べている時に両親と共に現れて、「やあ、ハナ」と爽やかに挨拶したあとハリーにも挨拶してくれた。

「ちゃんと話をするのは初めてかな。ハッフルパフのセドリック・ディゴリーだよ。よろしく」
「僕はハリー・ポッター。よろしく、セドリック」
「ハナから手紙を貰って君も漏れ鍋に泊まってるって聞いたよ」
「そうなんだ。僕もハナもいろいろあって」

 ハリーとセドリックが話をしている間、ハナはディゴリー夫妻に掴まって「また泊まりにおいで」としきりに誘いを受けていた。それを聞いてハリーは初めてハナがこの夏、セドリックの家に泊まったらしいことを知ることとなった。ハリーはどうしてハナがそのことを話してくれなかったのか不思議に思ったが、すぐに学年末にセドリックがハグをしたあとのハナの様子を思い出して、話すのが恥ずかしかったのかもしれない、と思い直した。それに話したらきっとハーマイオニーが放っておかなかっただろう。

 しかし、泊まりに行ったのにハナとセドリックの関係は学年末の時からあまり変わっていないように見える。ハリーはディゴリー夫妻と話し込んでいるハナを見て、それからもう一度セドリックに視線を戻した。

 セドリックの気持ちはハリーですら分かるくらい明らかだ。ようやくその気持ちに気付いたハナも満更ではなさそうに見える。それなのに未だに付き合っていないのはどういうことなのだろう。2人はずっと仲が良かったし、ハナがセドリックの気持ちに気付けば、曖昧な関係からすぐにでも交際に発展しそうなものなのに――ハリーはそこまで考えてから、不意にハーマイオニーが話していたことを思い出した。日本とイギリスでは、恋人同士になるまでの過程が違う、ということだ。ハナは流暢に英語を話すから忘れてしまいそうになるけど、4分の3は日本人で、前は日本で暮らしていたのだ。

「あの、僕の友達が言ってたんだけど、日本にはコクハクっていう文化があるんだって」

 余計なお世話かと思いつつ、ハリーはハナに聞こえないよう注意しながらセドリックに小声で話しかけた。2人の関係が進展しないのは、この文化の違いがあるのではないか、と思ったのだ。

「コクハク?」
「向こうでは、こっちと違って“好きです”って想いを告げてから交際が始まるんだって。だから、ハナにはそういう明らかな好意を口にしないといけないんじゃないかって、友達が言ってたんだ」
「なるほど、それはいいことを聞いたな。ありがとう、ハリー」
「上手くいくといいね」
「ゆっくりいくよ。時間はまだたっぷりあるからね」

 そう言ってセドリックはニッコリ笑うと、去り際には監督生とハッフルパフのクィディッチ・チームのキャプテンに選ばれたことを教えてくれた。ハナはとっても喜んでいて「おめでとう、セドリック! 素晴らしいわ!」と褒め称えると、セドリックは少し照れ臭そうにしていた。

 それ以外にもハリーとハナは多くの知り合いに会ったが、その一方でロンやハーマイオニーにはなかなか会うことが出来なかった。ハリーもハナも2人が最後の週にダイアゴン横丁に来ることは知っていたけれど、どちらも具体的にそれがいつなのかは分かっておらず、最後の週がやってくると毎日ダイアゴン横丁を探して歩いた。しかし、8月30日が終わってもハリーとハナは2人に会えないままだったのだった。


 *


「本当に今日も気分が悪いわ」

 8月31日の朝もハリーが起きてくると、ハナは1階のパブで日刊予言者新聞をしかめっ面で読んでいるところだった。何を読んでいるかはすぐに分かる。シリウス・ブラックの記事だ。ハナは本当にブラックが嫌いらしい。

「おはよう、ハナ。またブラックの記事?」
「おはよう、ハリー。そうよ。こんな記事なくなればいいのよ。貴方もそう思わない?」

 ハナはそう言いながら、新聞を丸めて脇に放り投げた。きっとこのあと暖炉に投げ込まれるに違いない。ハリーはそう思いながら丸められた新聞を見たが、その時、紙面に載っているブラックがハナに向かってニヤッと親しげに笑っているような気がして目を擦った。しかし、もう一度よく見ようとした時には、ブラックはすっかり悪人の顔に戻ってしまっていた。

「ハリー、どうしたの?」
「ううん。なんでもない」

 寝起きで見間違えたのかもしれない。ハリーは気を取り直して、ハナと一緒に朝食を食べ、最後の1日をどう過ごすのか話し合った。ハナはカメラがほしいと話して、午前中はまずカメラを買いに行くことになった。どうやらハナはハリー達と写真を撮りたいらしい。ハリーは一瞬コリンのことを思い出したが、ハナならところ構わず写真を撮ったりはしないだろうと思い直した。

「カメラのあとでフォイアボルトも見ましょう」
「賛成。それからサンデーも」
「いいわね」

 きっと明日になればロンとハーマイオニーには必ず会える。ハリーはハナとそう話し合って、朝食を食べ終えると最後のダイアゴン横丁へと繰り出して行った。